↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/40

四話 違和感

辺境領は豊かな場所だ。

その象徴である領城も、機能的には必要十分と言っていい。


……だが、ひと月ほど過ごしていて気づいたことがある。


ここの使用人や兵士たちの働きは、必要十分だが、必要最低限だ。

義務は果たす。だがそれ以上はしない。


もっと言えば、主人への反抗はないが、忠誠がない。


……例外は家令ぐらいだろうか。

少なくとも彼は毎日領主の執務室に書類を運び、顔を合わせている。

多少は会話をしているところも見る。


だが他はどうだ。領主と言葉を交わすところをついぞ見たことがない。


兵士は鍛錬はしても熱量が薄い。

使用人達も働きはするが、仕事はややおざなりだ。


そして、アーノルドの方からも全く声をかけない。

これはある種不気味だ。


例外がないわけではない。

ヴォルフなんかはアーノルドに気安く声をかけているし、兵士長の男も顔を合わせれば同じく挨拶ぐらいはする。

他が静かすぎるのだ。


自分の置かれた環境を、思い起こしてみる。


うちの連中は私にも気安く声をかけるし、必要ならば反論もする。

フランやイアンは細かいことによく気がついて、それを私に話してくれる。


みんな互いの仕事に文句を言ったり助言をしたりもする。

つまりは、互いに関わりがある。


時には煩わしくも思うが、それはあったほうが自然なものだ。


―――この城には、それがない。


アーノルドはほぼ一日中執務室にいる。

いつ行ってもいる。だが家令以外と出くわすことはない。


……どうにも引っかかるので、ヴォルフに聞いてみた。


「……ヴォルフ、ここの連中はずっとこうなのか?」

「こう、ってのは?」

「主人に対して無関心がすぎるだろう。」

「ああ……少なくとも俺が来た時からこうだったな。」

「何かあったのか。」

「さあ?俺は聞いたことはねえな。」


アーノルドは確かに普通ではない。

というか、正しく化け物だ。

血筋からして、本来禁忌視される混血を厭わない、異常者の系譜。

規格外の魔力量があり、その巨躯がもつ膂力もまたとんでもないだろう。


……だが、実際に奴がしている仕事自体は驚くほど地味だ。

書類をさばき、視察をし、書類をさばき、街の生活基盤を支える魔力炉に魔力を供給し、また書類をさばく。


少なくとも、私に見えている限りでは。


……というか、どの時間帯に執務室を訪れても、アーノルドは大概同じ様子でそこにいる。まるで置物か何かのように。

いっそ、日毎に高くなったり低くなったりする、奴の周りの書類の山の方が生物みがあるぐらいだ。


そう。言うなれば生活感がない。

本人も本人で不気味だが、周りもまた不気味。


……アーノルドの仕事は、領地経営だ。

そして、見ている限り、奴はそれを高い水準でこなしている。

感謝されたり敬われたりしていれば、まだわかる。

恐れられ、忌み嫌われたり、憎まれたりしていてもまあわかる。血筋が血筋だ。


だが此処はどうだ。アーノルド自身はそこにいるのに、「居ない」のに近い。

城でも、領地でも、アーノルドは話題に上がらない。


整備された住環境、流通する商品の質、街の治安。

それらを評価する声は聞こえてくるのに、それを作った者の存在には誰も触れない。


……我々の生活自体は、問題なく回っている。


誰も飢えていない。

前よりずっと良い食事をとっている。


環境も必要十分だ。

清潔な水があり、寝床があり、風呂にも入れる。

生活の道具は過不足なくあり、手入れも行き届いている。


自身の待遇には、不満はない。

だがどうにも気持ち悪さが残って仕方ない。


……そしてあるとき、食糧庫の在庫を確認していて、ふと気がついた。


これで足りるのだろうか、と。


普通に考えれば、潤沢な備蓄である。使用人も、兵たちも、私たちにも、十分に行き渡る量に見える。


だが。

アーノルドのあの巨躯に見合った備蓄量ではない。

あの男が三食相応の量の食事をとっていれば、これでは到底足りないだろう。


(……まさか、な。)


そうだ。いつ執務室を訪れても、アーノルドが食事をしているのを見たことがないのだ。


「……。」


私は踵を返し、食糧庫をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。