二十八話 慰安(挿絵あり)
「……慰労会?」
「ああ。」
ある日の執務室。
普段通り書類を捌いている最中に、アーノルドが妙なことを言い出した。
近頃張りつめている城の連中を労いたいのだという。
「何をするんだ。」
「……何をすればいいと思う。」
「おい、発案者がそれか。……少し待ってろ。」
私は執務室を出て、城の外へ向かった。
こう言う時は、当事者に聞いて回るのが手っ取り早い。
まずはオーウェン。
「食事会などどうでしょう。肉があれば嬉しいですね。」
「なるほど。」
次にヴォルフ。
「肉と酒がありゃ上等だな。」
「なるほど。」
次にタルト。
「面白いもの!……あ、このあいだの花火できてるよ!」
「なるほど?」
そしてフラン。
「みんなでわいわいやるのは楽しそうだねえ。」
「そうだな。」
私は聞き取りの結果を総括し、アーノルドに伝えた。
「肉と酒を振る舞って、大勢で食って、花火をあげる。」
「……なるほど?」
「とりあえず、酒と肉の手配をしておこう。」
「ああ、頼んだ。」
5日後。
偵察に出ていたイアンの帰りを待ち、慰労会が開催された。
大鍋で煮込まれた、ごろごろとした角豚の肉。
鉄板に置かれた魔角牛の肉塊に、大量の串焼き。
申し訳程度に、果物と野菜。
そして、大量の酒を用意した。
乾杯の音頭を取れと周りがやかましいので、私は仕方なく引き受けた。
「無礼講だそうだが、調子に乗りすぎるなよ。……では、乾杯。」
乾杯の声が、城の庭に響いた。
肉を焼く鉄板に、がやがやと人が群がる。
それを横目に、私は手元の杯を傾けた。
久々の酒だ。
そこに、オーウェンが肉の乗った皿を持ってきた。
「副官殿、よかったらどうぞ。」
「ああ、オーウェン。悪いな。」
「……本当に肉ばかりですね。私は嬉しいですが。」
「ああ、たくさん買い付けた。遠慮なく食え。」
オーウェンの持ってきた串焼きを齧る。
かかっているのはフランと私が仕込んだ自作のタレだが、なかなか悪くない。
フランがやってきて、私の隣に腰掛ける。
「姉さん、串焼きの味はどう?」
「悪くない。ほら、一串持ってけ。」
「ありがと。……ん、おいしい。」
「それにしても、騒がしいな。」
ヴォルフ、うちの連中、それと酒好きの兵たちは、門のあたりで酒をかっ喰らっている。
酒はかなり仕入れたが、果たして足りるだろうか。
そういえば、アーノルドがまだ来ていない。
さしずめ書類仕事にキリがつかないのだろう。
私はやれやれと立ち上がり、肉を焼いている鉄板へ向かう。
串を数本と、焼いた塊肉。そして木腕に煮込み肉もよそう。
イアンが声をかけてきた。
「ノーラ殿、楽しんでおられるようですね。」
「ああ。」
「それは何より……ずいぶん多いですが、それは?」
「領主殿に差し入れだ。」
「……なるほど。お優しいのですね。」
「別に普通だろう。イアンもしっかり食っておけよ。」
「ええ、勿論です。」
開け放たれた城の扉をくぐり、私は階段を上がった。
「……入るぞ。」
左腕に器用に皿を乗せ、執務室の扉を開ける。
「ノーラか。……様子はどうだ。」
「ああ、皆楽しんでいる。問題はない。」
「そうか。」
「キリがついたら顔を出せよ。貴様が働き詰めだと連中も気を使うだろう。」
「ああ、分かった。」
私は机の空きスペースに持ってきた肉を置いた。
「少し取ってきた。無くなる前に食っておけ。」
「いただこう。……向こうは足りそうか。」
「まあ、問題ないだろう。酒は足りないかもな。」
そのまま会場に戻り、酒飲み共の様子見をする。
時刻は、夕刻に差し掛かるほど。
流石に潰れて寝るものはいないが、ずいぶん飲んでいる様子だ。
「……酒は足りているか。」
「おう、嬢ちゃん。欲を言や、あと二樽ぐらい追加がありゃいいんだが。」
「広間にまだ有る。勝手に持って来い。」
それを聞いて歓声が上がり、若いものが酒を取りに城へとかけていく。
「……まったく。酒飲みどもめ。」
「嬢ちゃんもどうだ。」
「いただこう。」
注がれた酒を煽る。上等でもないが、悪くない。
「ずいぶん馴染んだな、お前さんも。」
「ああ、そうかもな。」
「副官殿ー!」
「姐御ーっ!」
「……何だ、今行く!」
私は杯を乾かして席を立ち、騒いでる連中の方へと向かった。タルトを中心に、何やらどよめきが広がっている。
「どうした……ああ、例の花火か。」
「……本当に打ち上げるので??」
「領民には伝達してある。騒ぎにはなるまい。」
「左様で……。」
「副官さん!おっきい花火になるよ!」
「ああ、楽しみにしてる。……飯は食ったか?」
「うん!!」
……少ししてアーノルドが宴会に顔を出した。
兵や使用人、うちの連中が宴会の礼を言ったり、食事を持って行ったりする。
あの男も、私が此処に来た頃を思えばずいぶん馴染んだものだ。
程なく日が暮れる。
焚き火が始まる。
辺りを見渡せば、
ヴォルフはまだ飲んでいる。
オーウェンはベンチでうとうとと微睡んでいる。
フランは食後の豆茶を片手に寛いでいる。
イアンは少し離れて、静かに飲んでいる。
タルトは、花火打ち上げの最終確認を終えたようで、あちこち行ったり来たりしている。
「そろそろ点火するよー!」
タルトが元気に宣言し、周りにいた兵たちが慌てて離れる。
私は急いでタルトを回収した。
「タルト、火はこちらで点けていいか。」
「いいよ!」
礼をいい、精霊の言葉を小さく呟いて、花火に火を灯す。
小さな光が上空へと昇って行き、そして……
―――城の上で、大輪の花火が、眩く散った。




