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二十七話 余暇

あれ以来、東側に目立った動きは見られない。


私は日々、アーノルドの執務を手伝い、ヴォルフやオーウェンと共に兵を鍛え、諸々の雑務を片付ける。


普段通りだ。


……強いていうなら、いつもよりほんの少しだけ、肩に力が入っていたかもしれない。


朝の訓練場で、ヴォルフが私を呼び止めた。


「おい嬢ちゃん、今日は休め。」


藪から棒にいうものだから、私は訝しげな顔をした。


「何故だ?」

「……何でも、だ。年寄りの言うことは聞いとけ。」


その言葉に、意外にもオーウェンが頷く。


「俺も師匠に賛成です。最近働き詰めでしょう?」

「……そうか。」

「領主殿に伝えておきましょうか。」

「いや、自分で行く。」


執務室の戸を叩き、声をかける。

中に入ると、アーノルドが普段通り執務机に向かっていた。


「どうした。」

「……ヴォルフから休めと言われた。」

「……ああ。休め。」


即答である。私は少し迷って、こう返した。


「……分かった。今日だけ休む。」



やることがなくなったので、詰所に立ち寄る。

フランを見つけて今日のことを話すと、彼女は嬉しそうに笑った。


「いいと思う。ゆっくり過ごしてね。」

「……後で街にでも出ようかと思う。」

「それもいいかも。でもね。」


フランが私の顔を覗き込む。


「仕事の買い出しは禁止、ね。」

「もののついでだ。」

「ダメ。姉さんの買い物だけ。」

「………む。分かった。」


街に降りて、あてどなく散策をする。

八百屋で林檎を買って、齧りながら歩く。

普段は寄らない焼き菓子屋に寄って、幾つか土産を買う。


戻ったらタルトに捕まった。


「副官さん!今日お休みなの?」

「ああ。」

「これ見てー!」


発明品を見て、解説を聞く。

珍妙なもの、危ないもの、役に立つもの、色々ある。


「タルトはすごいな。……だが、また工房を壊すなよ?」

「がんばる!」


……工房を後にする前に、土産を渡す。

タルトが飛び跳ねて喜ぶので、私は彼女の頭をわしわしと撫でた。


そのままぶらりと畑に向かう。


途中、訓練場を通りかかり、ヴォルフにしごかれている兵たちと、それに混ざるうちの連中を眺めたりもした。


「オーウェン、もう一回だ。来い。」

「遠慮しときま……嫌だッ、離せクソジジイ!」


珍しく絶叫しているオーウェンを見て、大変だなあと思う。


「……姐御、お疲れ様です。」

「ああ、お前ら。調子はどうだ。」

「見ての通りです。」


そういううちの連中はボロボロだが、その顔を見るにちゃんと訓練にはついていっているらしい。

現役の兵たちと同等とはいかないだろうが、実力は前とは比べ物にならないだろう。


訓練場を離れ、詰所裏の畑に着く。

いつぞやの大惨事が嘘のように、野菜たちはすくすくと育っている。

カボチャに食われかけていたうちの連中を思い出して、私は小さく吹き出した。


「……あれは酷かった。」


水撒きは当番のものがするので、そのまま詰所に入る。

帳簿を整理しているフランが、私を出迎えた。


「おかえり、姉さん。」

「ああ、ただいま。……ん。」

「お土産?ありがとう。お茶淹れようか。」

「ああ、頼む。」


程なくして、フランが豆茶を淹れて戻ってきた。


「姉さんも、一緒に食べよ?」

「ああ。」


菓子をつまみ、茶を一口。

おいしいね、とフランが笑う。


訓練場の喧騒を遠巻きに聞きながら、私はしばしフランと歓談した。


私は菓子の袋を一つ、机に置く。


「あとで、これをイアンに。」

「わかった。どこか行くの?」

「執務室だ。」

「お土産だね、いってらっしゃい。」


執務室の扉を叩く。

アーノルドの返事を待って、中に入る。


「戻った。土産だ。」

朝よりもいくらか低くなった書類の山の向こうに、焼き菓子をわたす。


「休憩していないだろう。食っておけ。」

「ああ。……いただこう。」


菓子を食い、茶を飲み、不意にアーノルドが問う。


「今日は休めたか。」


少し考える。

今日は街へ出て、散歩をし、人と話し、茶を飲んだ。


「……ああ、とても。」


そう答えた私の肩は、今朝よりも少し、軽くなっていた。


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