二十四話 凶刃
結局、火蜥蜴討伐で押収した魔道具の出所は分からずじまいだった。
「……やはり心当たりはないか。」
「うん、中央のと魔道具とも全然違う。知らない組み方。」
「そうか。」
「どうします、副官殿。」
難しい顔をするオーウェンに対して、私は軽く肩をすくめた。
「なにもしない。」
「……何故?」
「どうせこれで終わりではないだろうからな。放っておいても手掛かりが向こうから来る。」
「そういうものですか……。」
「多分な。ヴォルフには声をかけておく。」
わざわざ細工をした魔物を寄越してまで、相手はこちらを探っているのだ。
偵察だけで終わる道理はない。
確実に、まだ次がある。
備えはしておくに越したことはないが、手掛かりがない以上、今できることは少ない。
私は山積みの雑務を片付けるべく、執務室へと向かった。
普段通り仕事をして、飯を作り、風呂に入る。
そしてそのまま自室に戻って、私は眠りについた。
……頬に微かな風を感じて、私は目を覚ました。
窓は開いていなかったはずだ。異常はそれだけではない。
……背後に誰かがいる。
その気配は、静かだが確かな殺気を伴っていた。
「[焔よ]。」
私は素早く精霊の言葉を発する。
背後で炎が逆巻き、悲鳴が上がる。
背後に立っていた気配が、もんどり打って床に転がった。
私は勢いよく布団を跳ね除け、即座にその人影を押さえ込んだ。
「[雷よ]。」
殺さない程度に魔法を行使し、相手を無力化する。
ひっくり返して覆面を剥ぐが、見たことのない顔だった。
「……何者だ?」
ここで、詰所の方からバタバタと足音がした。
まだ起きていたのであろうイアンと、一拍遅れでフランが飛び込んできた。
「ノーラ殿、物音がしましたが……っ、これは……」
「姉さん、何かあったの?……!!」
二人の視線が、刺客へと向けられる。
「刺客、ですか……。」
イアンは険しい顔で刺客を見下ろし、フランは青ざめた顔で絶句していた。
ここで、もう一つ足音が近づいてきた。見回り中のオーウェンだ。
「……副官殿、何事ですか。」
「ああ、オーウェンか。……刺客を捕らえた。」
「刺客……!?」
ここで通信用のペンダントに魔力を流し、アーノルドとヴォルフにも緊急事態を知らせる。
気絶している刺客は、後ろ手に縛り上げ拘束しておいた。ついでに脚も縛り上げておく。
ヴォルフが部屋に入ってくる。
そして縛り上げられた刺客を見て、取り乱すこともなく言った。
「……おいでなすったか。」
「ああ。」
「アンタら、何でそんなに落ち着いてるんです……。」
我々の態度を見て、オーウェンが渋い顔をした。
「……何事だ。」
アーノルドが戸をくぐって、中に入ってきた。
……こいつまで居ると、流石に部屋の中が狭い。
「刺客だ。寝込みを襲われかけた。」
「……なるほど。」
アーノルドの双眸が、わずかに細められる。
「無事か。」
「無論だ。」
短く安否確認を済ませ、私は刺客へと向き直る。
そして転がっている刺客の側に寄り、肩を掴んで揺すり起こした。
「………っ!」
「目が覚めたか。貴様には色々と聞きたいことがある。」
「だっ、誰が……!」
「素直に吐くのならば、助命を約束しよう。そうだな、領主殿。」
「……ああ。」
刺客の瞳が微かに揺れる。交渉の余地はありそうだ。
「雇い主について、教えてもらおうか。」
「俺は……」
男が何かを話しかけ、すぐに不自然に目を見開いた。
そのまま苦しそうにもがき始める。
「あ……、……ッカ、ハ……ッ」
そして激しく痙攣すると、男はそのままガックリと項垂れた。私は男を仰向けに転がし、軽く揺する。
「おい……!……死んだ、のか?」
「恐らくは。……呪いの類でしょう。」
イアンが眼鏡を上げながら推論を述べた。
そしてフランが、その背後で小さく呟いた。
「…………口封じ……。」
重苦しい沈黙が、部屋の中に流れた。




