二十一話 変化
21話 変化
領外から帰り、数日経った。
買い物がてら、久々に街を歩く。
市場に差し掛かると、次々声がかかった。
「ノーラさん!久しぶりじゃないか!」
「ああ。少し外に出ていた。」
「ノーラ副官殿!今日は何をお探しで?」
「副官殿は止めろ……食材の買い出しだ。」
「ノーラちゃん、今日は魚の干したのが入ったわよ。」
「いいな、あとで一籠もらおう。」
……ここに来たばかりの頃を思えば、私も随分と馴染んだものだ。
思えばあの頃から、豊かな街ではあった。
今も、市場では景気の良い客引きの声が飛び交い、あちこちで子供達の笑い声が聞こえてくる。
そうした変わらない部分もあれば、変わった部分もある。
まず、魔鋼窟の発展により、以前より領外との交易が盛んになった。
魔鋼や魔石が潤沢に使えるようになり、技術面も発展した。
結果として財政も潤い、街はより賑やかになった
そして、最近気づいたこともある。
「なあ、この間市場で領主様をお見かけしたぞ。」
「俺はこの間、ひっくり返った積荷を元に戻していただいた。」
「転んだ子供を助け起こしてるところを見た。随分泣かれていたが……。」
そんな領民たちの雑談が耳に飛び込んできて、私は小さく吹き出した。
……あのアーノルドが、世間話のネタになっている。
以前であれば人々の口の端にも上がらなかったあの男が、随分気安い存在になったものだ。
……そうだ。アーノルド自身も、少しばかり変わった。
会ったばかりの頃は、随分と人間味が薄かった。
飯も食わないし、ずっと執務室に居てほとんど会話もしない。
今はというと、きちんと飯を食い、外に出て、人と会えば会話をする。
まあ、悪い変化ではないだろう。
……私はどうだろうか?
以前は、もっと張り詰めていた。
強く見られるように振る舞った。
隙を見せることは命に関わった。
今は、どうだ。
少なくとも、あの頃とは少し違う。
そんなことを考えながら歩いていると、見回りをしていたうちの連中とすれ違う。
「あっ、お頭!」
「買い物ですかい。」
「ああ。……何か変わったことはないか。」
「ええ、問題ありやせん。」
「そうか。……悪いが戻る時に肉屋に寄ってくれ。燻製肉を頼んである。」
「合点です!」
「……つまみ食いするなよ。」
「へい。」
最近はこいつらも、随分穏やかな顔をするようになった。
この方がずっと良い。
市場で適当な菓子を買い、先ほどの魚屋で品物を受け取って帰路に着く。
坂を登り領城へ帰ると、いつも通り門の脇で腰掛けているヴォルフと、その傍で休憩していたタルトが私を迎えた。
「おう。おかえり嬢ちゃん。」
「副官さんおかえり!」
「ああ、ただいま……タルト、土産だ。」
「わーい、お菓子だ!」
さっき買った菓子をタルトに渡して、門の中へと入る。
傭兵団詰所に、魚の籠を置きに行く。
非番の連中と、イアン、そしてフランが迎えてくれる。
「おかえり、姉さん。」
「おかえりなさい、ノーラ殿。」
「姉御!おかえりなさい!」
「……ただいま。」
そして裏の畑を見に行く途中で、訓練所を通る。
兵を鍛えていたオーウェンがこちらに気づき、軽く会釈する。
「ああ、おかえりなさい副官殿。」
「ああ。……どうだ、調子は。」
「ええ、問題ありません。」
……畑の方も、問題はなかった。どの野菜もよく育っている。
そのまま見回りも兼ねて城をぐるりと一周し、正面に戻って中へと入る。
広間から階段を上がり、向かう先は執務室だ。
扉を開けると、いつも通り書類の山に囲まれたアーノルドがいる。
「戻った。」
「ああ。……変わりなかったか。」
「ああ、いつも通りだった。」
「そうか。」
私は書類の山を見渡す。
「……仕分け前の物は」
「その辺りがまだだ。頼めるか。」
「分かった。」
私はアーノルドが指した一角に椅子を持ってくると、すっかり板についた書類の仕分けに取り掛かった。




