↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/40

二話 領城(挿絵あり)

私たちは、馬車で丸二日かけて目的地へとたどり着いた。

……アーノルドは何も聞かないし、私も話さない。


ここは辺境領、……正しくはブルートブルク辺境伯領。

「血の城砦」の名で知られる、禁忌の一族の領地……というのが一般的な認識だ。


馬車は小高い丘を登ってついに領城へと辿り着く。

門の手前で馬車が止まり、アーノルドの後に続いて、私も馬車を降りた。


……門番らしき男が顔をあげこちらを見る。


「……おう、おかえり坊ちゃん。やっぱり連れてきたか。」

「……?」


アーノルドに気安く声をかけるその男の顔を、私はしげしげと見た。


どこか見覚えのある髭面に、狼の耳。

側には長年使い込まれたバスターソード。

私の知っている姿より幾分か老けているが……


「……ヴォルフ?」

「おう、嬢ちゃん。久しぶりじゃねえか。」


知己だ。……点と点が線で繋がった。


挿絵(By みてみん)


「……お前の差金か。」

「人聞き悪ぃな。……ま、悪い話でもないと思うがね。」


おそらくヴォルフが領主を差し向けたのだろう。

相変わらず、腹の中が読めない男だ。


思い出したように、ヴォルフがアーノルドに話しかける。


「ああ、そうだ坊ちゃん。客が来てるぜ。」


「……客?」

「おう、あっちに……」


ヴォルフが指す方向から、バタバタと大人数の足音がして……


「頭ァー!!」

「よかった生きてた!!」


「……は?」


逃したはずのうちの連中が、居る。それも全員。


何故、此処に居るんだ。

私は命懸けで逃がそうとしたのに。


「……逃げろと、言ったはずだが?」


額に青筋を立てて問いただす。


「……おい、イアン。私は逃せと言ったはずだ。」

「面目ありませんノーラ殿。誰もいうことを聞かないものですから。」


白金の髪を揺らし、にこやかにそう答える眼鏡の男。名をイアン。

奴には逃げのびた後の取りまとめを頼んでおいたのだが、どうやら失敗に終わったらしい。

むしろこいつが焚き付けたのではないだろうなと、私は眉を顰めた。


そして。


「……姉さん。無事でよかった。」


一番いて欲しくなかった者も、居る。

妹のフランだ。


「フラン……、お前は特にいて欲しくなかった。」

「ふふ、ごめんね姉さん。」


彼女の鴇色の髪が揺れる。

私と同じ珊瑚色の瞳でこちらを見つめ、フランは柔らかく微笑んでみせた。


挿絵(By みてみん)


私は深くため息をついて、アーノルドに向き直る。


「……領主。」

「何だ。」


「こいつらを害するなら、私はお前に従わない。」

「分かった。」


……あっさり了承された。拍子抜けだ。


「……人手は多いほど良い。」

「……そうか。」


釈然としない気分で、私はうちの連中に向き直る。


「……仕事の話を詰めてくる。お前達大人しく待ってろ。」

「はい!姐御!!」


口々に元気な返事が返ってくる。ああもう、怒るのも疲れた。


……アーノルドがヴォルフの方を見て、口を開く。


「……ヴォルフ、彼らを詰所へ。」

「あいよ。」


そして、アーノルドが此方を見る。


「では、此方に……名は。」

「ノーラだ。」


そうか、と短く応えると、相手もまた名乗る。


「アーノルドだ。」

「ああ、知ってる。」


根城の近郊の都市を収める領主なのだ。

知らない方がおかしい。


歩みを進めるアーノルドの後について、歩く。

辿り着いた先は、応接間。


椅子に座ると、単刀直入に奴はこう言った。


「食客として、お前を迎え入れたい。」

「……私の仲間はどうなる。」

「……此処にいて構わない。今まで通り、貴殿にまとめてもらえれば良い。」


好都合だ。条件としては破格。


「……。何をすればいい。」

「有事に動いてくれれば、それで構わない。対価は……仲間の分を含めてこれでどうだ。」

「……。……?」


思わず額面を二度見する。目眩のする金額である。


「足りないか。」

「ああ、いや……十分だ。」


「……後で案内させるが、食糧庫は好きに使え。足りなければ家令に言え。」

「……分かった。」


これで食糧についても解決した。

……辺境領は何も無いところだと思っていたが、案外財政には余裕があるとみえる。


その後気になることを二、三問答した後、家令に連れられて空き部屋へと案内された。

詰所に近い方がいいと言ったら、あっさり聞き入れられた。


……与えられた部屋を見渡す。

清潔なベッド。簡素だが品のいい調度品。


長らく使われてなかった部屋の埃っぽい匂いは多少あるが、思っていたよりも上等だ。


一通り城の中を案内された後、家令に詰所の場所を聞き、そちらに赴いた。


「姐御!」

「頭ァ!」

「姐さん!」


と口々に私を呼ぶ声。

「お前ら……まあいい説教は後だ。」


詰所を見渡す。

私にあてがわれた自室より設備は質素だが、ベッドがあり、炊事場もあり、おそらく奥に風呂もある。

これまでよりも、生活の質は確実に上向くだろう。


「……はぁ。……飯にするか。食材を運ぶのを手伝え。」

「お頭ぁー、酒は?」

「却下だ、馬鹿。」


場所も境遇も大きく変わったのに、驚くほどにいつも通りだ。


「……まあ、悪くは無い……のか。」


こうして、我々の辺境領での暮らしが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。