十八話 商談
中央の商会から、客が来た。
辺境領で採掘される魔鋼や魔石を買い付けたいのだという。
商談には私とタルト、あとは私が連れてきたイアンが同席することとなった。
アーノルドから、あらかじめ同席の依頼があったのだ。
私は商売や魔石については門外漢なので、私よりその辺に明るいイアンにあらかじめ下調べを頼んでおいた。
タルトは技術者として、魔石の性質や品質を説明する担当である。
私たちは応接室へ足を踏み入れる。
既にアーノルドと、見慣れぬ男が向かい合って座っていた。
男がこちらを振り向き、軽く会釈をする。
恰幅のよい体に、小さな丸眼鏡。
いかにも商人といった出で立ちだ。
それにしても、これは珍しいタイプの客人だ。
態度はへりくだってはいるが、臆してはいない。
一見人の良さそうな笑みを浮かべているものの、その瞳は抜け目なくこちらを窺っている。
あのアーノルドに対してでさえ。
……つまり、この男には目の前の怪物も金にしか見えていないということか。
間もなくして、交渉が始まった。
タルトが机に石を並べて一つずつ説明する。
同じように見えるものもあるが、全て違うのだそうだ。
商人がそれらに順番に値をつけ、私はそれをイアンの資料と見比べた。
そして例の、クラーケンの魔鋼窟で採れた魔鋼の値決めが始まる。
「ふむ……良い品ですな。ではこんなものでいかがでしょう。」
商人は素早く珠盤を弾き、金額を紙に書いてこちらに差し出した。
「……ノーラ殿。」
イアンが耳打ちして、追加の資料を差し出す。
受け取って軽く目を通す。
内容を精査して、私は目を細めた。
「……中央の相場と随分隔たりがあるようだが。」
提示された価格について問いただすが、商人は狼狽えない。
「なにぶん距離もございますので……」
理屈は通っている。だが。
「ならば輸送はこちらで引き受けよう。伝手ならばある。」
「左様でございますか。では……」
商人は珠盤を弾き直す。
提示された額を見る。
中央で取引される相場に近くなってきた。
……ここで、タルトが不思議そうに首を傾げた。
「……同じ値段なの?こっちの方が長持ちするのに。」
「そうなのか。」
タルト曰く、中央産の魔石は、魔導式のカンテラに使った時に一つあたり三日。
対する辺境領の魔石は、同じ大きさで一つあたり十日もつのだという。
実際両方を手に持ってみると、たしかに辺境領の魔石は秘めている魔力の濃度が高い。
だが、そんなにも違いが出るものなのか。
「タルト、教えてくれて感謝する。」
「うん!」
商人は顔に笑みを貼り付けているが、先ほどより静かだ。
……こいつ、知っていたな。実に油断のならんやつだ。
「……だ、そうだが。」
「……ええ、おみそれいたしました。」
「……いやはや、此方の見積もりが甘かったようですな。」
珠盤を弾きつつ、商人はどこか楽しげに呟いた。
「それでは……この価格で如何でしょう。」
改めて提示された価格を見る。
……問題はないように見える。
というか、先ほどとはもはや桁違いだ。
イアンもタルトも、特に何も言わない。
私が頷き、アーノルドが口を開く。
「……それで構わない。」
「では、取引成立ですな。今後ともご贔屓に。」
……こうして、此度の交渉は成立した。
だが、まだ仕事が控えている。
次の商談までに、中央までの運送の手筈を整えておかなければならない。
イアンと共に商人を門まで見送って、私はようやく小さく息を吐く。
「疲れたな。……ありがとう、助かったよ。」
「いいえ。大したことはしておりませんよ。」
イアンがニコニコと謙遜して見せるが、そんなことはない。
私一人では丸め込まれていた可能性が高かった。
……にしても、今回の商談は非常に肩が凝った。
そもそもこういうのは、私の性に合っていないのだ。
いっそ畑仕事やワイバーン狩りの方がよっぽど気が楽である。
「全く……本当に人使いの荒い領主だ。」
「ええ、本当に。」
私は大きく伸びをして体を解すと、イアンと連れ立って詰所へと歩き出した。
……山積した雑務を、まずは片付けなくては。




