十六話 気配
ある昼下がり、うちの連中と鍛錬をしている最中。
オーウェンがやってきて、私に耳打ちした。
「……盗掘者?」
「ええ、警備の兵が捕まえたんですが、何だか妙で。」
目で続きを促す。オーウェンが困った顔をした。
「盗掘はあったんですが、問題はその量で。」
「多いのか。」
「いえ、……むしろ少なすぎるんです。」
此処の魔鋼窟は、まだまだ枯れていない。深く潜らなくとも、魔鋼が潤沢にある。
数名いれば、荷台一台分を採掘するのに大した時間は要らない。
しかし、だ。
「麻袋二つ分か……確かに少ないな。」
「盗掘者はどうした。」
「牢に入れてあります。」
「聴取は。」
「一応はしたのですが……。」
オーウェンが難しい顔をする。
曰く、雇い主に命じられた通りに動いた。
曰く、相手の顔は知らない。
そして、自分たちがどこから来たのかだけは、頑なに口を割らないという。
「魔鋼目当ての盗人ではない、のか?」
「おそらくは。」
「……アーノルドには後で伝えておく。オーウェン、魔鋼窟の入り口には警備の兵を置いていたな?」
「ええ。……交代で詰所に戻るところを狙って忍び込んだようです。」
「……そうか。」
随分計画的だ。見張りがいなくなるのを待っていたのか、あるいは……
「牢へ行く。少し代わってくれ。」
「分かりました。」
訓練場をあとにし、私は城内へ戻り地下牢への階段を早足で下る。
「―――、遅かったか。」
私は小さく歯噛みをした。
……牢は、もぬけの殻だった。
牢番は倒れ、牢の鍵は開いている。
「……おい。おいしっかりしろ。」
「……、……副官殿?」
「何があった。」
幸い、牢番は生きていた。
事情を聞いてみるが、彼は何も覚えていなかった。
急に意識を失ったのだという。
「……そうか。とりあえず医務室に行け。」
「面目ありません……」
そのまま踵を返し、まっすぐ執務室へ駆ける。
「アーノルド。話が。」
錆色の瞳が、こちらを見た。
簡潔に事の顛末を報告すると、アーノルドは暫し思案し、口を開いた。
「……ノーラ、どう見る。」
「盗掘者ではない。……調査、あるいは……偵察か。」
「……だろうな。」
暫し沈黙が流れる。だが、此処でいくら考えたところで答えは出ないだろう。
「……領内の警邏を増やす。」
「ああ。」
私は訓練場に戻り、オーウェンを呼んでくる。
そして詰所に戻り、事の顛末を共有した。
「穏やかではないですね。」
「ああ。……そちらの兵士とうちの連中の配置について話したい。手が空いたら呼んでくれ。」
「了解です。」
オーウェンが去り、部屋には私一人が残った。
「……偵察でしょうね。」
入れ替わりにイアンが来て、茶を渡してくれる。
「聞こえていたか。」
「ええ。……おそらく組織犯ですね。」
「そうだな。」
「……警備の交替時間を変えて、警邏のルートも変えた方が良いでしょう。」
「そうだな。相談に乗ってくれ。」
「ええ、勿論です。」
イアンが微笑んでそう応じる。
そのまま、ああでもないこうでもないと配置図を捏ね回し、叩き台を作る。
大筋はこれで問題ないだろう。
それをオーウェンに共有し、微調整をして、戻って清書をする。
「イアン、今日は助かった。」
「いいえ、ノーラ殿。お役に立てて光栄です。」
……そうこうしているうちに、もう飯の時間になった。
私は報告がてら、アーノルドに飯を持っていくことにした。
炊事場に入る。
燻製肉を適当に切って、薄切りの玉葱、葉野菜と共に大きなパンに挟む。
それを三つ。
あとは早朝に仕込んだスープと、眠気覚ましの豆茶。
軽食としてはこれで十分だろう。
「……私だ。」
「ああ。」
執務室をノックして、片手で開ける。
もう片手には、食事の盆。
アーノルドに食事を渡し、警備体制について軽く報告した。
「……配置表と警備の予定表はあとで写しを渡す。」
「ん。」
肉ばさみパンを咀嚼しながら、アーノルドが返事をする。
行儀が悪いが、まあいい。
「……。」
「……気にかかるか。」
「そうだな。」
よほど険しい顔をしていたようだ。
パンを飲み込んで、アーノルドが尋ねてくる。
「得体がしれん。」
「ああ。」
だが、考えていても仕方がない。
「……まあ、今できることはこれ以上無い。精査が必要な書類はどこにある。」
「ん。」
食事に戻ったアーノルドが、書類の山のひと区画を指差す。
それをひと抱え分傍の机に移し、わたしはそれらと取っ組み合いを始めた。




