十三話 視察
魔鋼窟を背に、私たちは帰り支度をする。
急いてもいないが、城で待っている領民達に仲間の無事を伝えなければならないので、そう悠長にもしていられない。
疲れてはいるが、休憩なら移動中にも取れる。
拠点を畳み、馬車に乗り込みかけてふと振り返れば、助け出した領民達が、こちらへ大きく手を振った。
軽く手を挙げてそれに応じ、私は馬車へと乗り込む。
……馬車が走り出す。
私は向かいに座るタルトの頭をわしわしと撫でた。
「……タルト。お手柄だったな。」
「うん!」
「発明品を爆発させて悪かった。」
「また作るから大丈夫!」
オーウェンとイアンが苦笑いする。
「……今度は爆発しないものを頼みますよ、タルト殿。」
「まあまあ……今回は運用にも問題がありましたからね。」
道中は至って平和だった。
タルトが持ってきた発明品の説明を聞いたり、携行食を食べたり、戻った後の買い出しについて話したりした。
「護符を使い切ったので、材料を調達しなくてはいけませんね。」
「すまないな、イアン。リストをもらえるなら揃えておく。」
「ありがとうございます、ノーラ殿。」
「酒も切れてるな。」
「それは知らん。」
戻った頃には、昼になっていた。
疲れて寝ているタルトを抱え上げ、馬車を降りる。
「お、帰ってきた!」
「姐御!おかえりなさい!」
「ああ。そっちは変わりないか?」
「ばっちりです!」
……ばっちりと言うが、門扉の横には空の酒瓶が転がっている。
こいつら、飲んでいたな?
「何がばっちりだ馬鹿ども。後で覚えていろよ。」
タルトを抱えているので、その場でぶん殴るわけにもいかず私は毒づいた。
「ヴォルフ、タルトを任せた。オーウェンは報告について来てくれ。イアンは依頼人に首尾の報告を。」
「おう。」
「承知しました。」
「御意。」
私はオーウェンを伴い、執務室へと向かった。
「戻った。」
「戻りました。」
「ああ……どうだった。」
オーウェンと二人で事の顛末を報告する。
「クラーケンか……魔素濃度の高い地底湖に居たんだろう。よく倒したな。」
「タルトのお手柄だ。」
クラーケン戦の仔細を伝えると、アーノルドは興味深そうに聞いていた。
「……タルトは面白いものを作る。」
「ああ。今回でよく分かった。また研究費をつけてやってくれ。……それで、魔鋼窟の整備についてだが……。」
当面、オーウェンを現場指揮官として、坑道内の落石の除去と修理をすることに決まった。
ひとまず、これで事後処理もなんとかなるだろう。
―――翌日。
手が空いているので、買い出しに出る。
食糧もそうだが、イアンの護符の材料や、装備品の整備に必要な物品……あとはタルトからのメモを預かっている。
城を出ようと広間を通りかかった時、アーノルドと出くわした。
結界の保守作業を終えて戻って来たらしい。
「……街に行くのか。」
「ああ、買い物だ。」
アーノルドはすこし考えるような素振りをして、こう言った。
「ついていってもいいだろうか。」
「構わん。」
領地の視察も領主の仕事のうちだろう。
私は家令にこのことを伝えると、アーノルドを伴って街へと繰り出した。
「……店主、邪魔するぞ。」
「ああ、ノーラさ……りっ、領主様!?」
「ああ。」
一軒目。
粉屋の店主が帳簿を持ったまま凍りつく。
私は普段通り、店主に話しかける。
「麦の粉を大袋で十もらいたい。あるか?」
「はっ、はい!……すぐ……!!」
「いや、普段通り後で回収に来させるから、代金だけ先に受け取ってくれ。」
「……安いな。」
アーノルドが、カウンターの値段表を見てつぶやいた。
「ああ。直接買い付けて、自分のところで挽いているからだろうな。」
「さっ、左様で……!」
「なるほど……邪魔したな。」
「めっ、滅相もありません!!!」
二軒目。
肉屋の店主がひっくり返って驚く。
「おっ、お助けっ……!!」
私は店主を助け起こしながら苦笑いで応じた。
「安心しろ。領主は別に噛みつかん。頼んでいた肉の代金を払いに来た。」
「は、はぁ……。」
三軒目。
八百屋の店主が顔を引き攣らせる。
「りょ、領主さま……、本日はお日柄もよく……」
「……そう畏まらなくていい。……いい品だ。」
アーノルドが店先の野菜を見て、品質を褒める。
「も、勿体無いお言葉…….」
私も野菜を手に取って応じる。
「ああ、実際質がいい。私たち素人ではこうはいかないからな。」
「はあ……左様で……。」
四軒目。
道具屋では、必要な道具についてああだこうだと話す私たちを、店主が信じられないものを見る目で見ていた。
普段触れない道具達が珍しいのか、アーノルドが用途を聞き、私が答える。
「……これは?」
「鎧用の錆落としだ。……こっちは革鎧に使うハトメ。」
「なるほど。」
「お、お代は結構です……」
「馬鹿を言うな。払う。」
縮こまっている店主に金を渡して、品を受け取る。
道具屋の買い物は、後でまとめて運ぶほどでもないがそこそこの量の荷物になった。
それを抱えて運ぼうとする私から、アーノルドが荷物を取り上げる。
「……いいのか。」
「ああ。」
店主が目を白黒させて、私とアーノルドを交互に見た。
「次は?」
「……タルトの魔石だ。」
最後に石屋で魔石を見る。
タルトのメモは独特で、若干解読に頭を使う。
商品の固有名詞ではなく色や用途が書いてある。
「ノーラ殿……、領主様?!」
「気にしなくていい。店主、このメモにあるものが欲しい。」
「え、あ、ああ……。それで、タルトさんのメモですな……?」
石屋がメモを受け取り、検分する。
「赤くて熱い……これは伝熱石ですな。こっちは蓄雷鋼で……爆発しないやつ、は無いとお伝えください。」
「ありがとう。書いてある量くれ。」
「うーむ、この量ですと少々値がはりますが……」
石屋がこちらを見て、値段が計算された走り書きを指す。
確かに私の手持ちでは足りない。
「それもそうだな、では後日……」
言いかけたところで、アーノルドが懐から皮袋を取り出した。
そして金貨を静かにカウンターに置く。
「足りるか?」
「……多いぐらいでございます。」
「領主。いいのか。」
「構わん。必要だろう。」
「……そうか。」
なんだかんだ言って、領城の連中はみんなタルトに甘い。
さて、一通り買い物は終えた。
街をぶらりと歩いてから、城へ戻る。
遠巻きに奇異の目を向けられているのが分かる。
買い物袋を抱えたアーノルドを見てぎょっとしている者も大勢いる。まあ無理もない。
その視線に含まれているのは、畏怖ももちろんだが、多くは私たちへの興味だ。
ひそひそと囁き合う領民の声が聞こえ、私はその理由の一部を理解する。
さっき、魔鋼窟と言う単語が聞こえて来た。恐らくは窮状を訴えた領民達が街で経緯を話したのだろう。
……自身の仕事が評価されると言うのは、悪くない気分だ。
城へ戻る坂を上る最中、アーノルドがつぶやいた。
「……見られていたな。」
「ああ。珍しいんだろう。貴様はあまり街に下りないから。」
「そうだな。……また、ついて来てもいいだろうか。」
「好きにしろ。」
そんなことを話しながら、我々は坂道を登っていった。




