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十二話 生還

タルトの探知機は、なおも坑道の奥に魔力反応を認めている。


一般的な規模の人間大のものが四人分。

そして、クラーケンと思われる巨大な魔力反応が一つ。


「生存しているかどうかは、判断できるのか?」

「うん。これだけ近ければ色でわかる。生きてる。」


救助対象が生きているという情報にすこし安堵するが、すぐに気を引き締め直す。


「この奥でいいんだな。」

「うん!」


落石で酷い有様の坑道を、邪魔な岩を砕き割って進んでいく。


……ある程度進むと、ややひらけた場所に出た。

左手奥には空間が広がっており、そちらが地底湖のようだ。


そして私たちの正面奥の方に、作られた坑道とは別の自然の横穴があいているのが見える。

……探知機の反応は、その奥を示している。


横穴の入り口から、奥に向けて声をかける。


「……誰かいるのか?」


「人……?アンタ達、まさか救援か……!?」

「良かった……俺たち、助かるのか……」


「ああ。領主の命で救助に来た。」

「りっ……領主様の……!?」


「そこから出られるか?兵に外まで案内させる。」

「……それは……」

「この奥の化け物についてはこちらで対処する。先に脱出していてくれ。」


恐る恐る横穴から出てきた領民を、無事保護したと思ったその時。


洞窟が揺れた。

そして地底湖側の空間から覗いたのは、巨大な触腕。

予想した通り、クラーケン。だが……


「これは、ずいぶんデカいな……貴様ら、領民を連れて走れ!」

「はっ、ご武運を!」


兵達は領民を伴い、無事にこの場を離脱した。


「財政的にもこの魔鋼窟を放棄するのは中々に痛い。始末するぞ。」

「おうよ。楽しくなってきやがった。」


「アンタは笑ってる場合ですか!来ますよ!!」


オーウェンが叫ぶ。

巨木のような触腕が、こちらに向かって勢いよく振り下ろされる。


私は横っ飛びに避け、オーウェンは斧でいなす。

フランは上空へと退避し、イアンは護りの護符で結界を展開した。


そしてヴォルフはというと、バスターソードを掲げ、真っ向から触腕を受け止めた。

背後のタルトを庇うためだ。


「タルト、下がってな!」

「分かった!」


タルトが安全圏まで下がったのを確認し、ヴォルフが動く。


「……っらァ!!!!」

膂力でもって巨大な触腕を跳ね除け、さらに追撃する。


さすがに切り飛ばすには至らないが、切った部分より先の触腕は動かなくなった。


物理攻撃はちゃんと効く。

ならばこれはどうか。

私は翼を広げ、まっすぐ地底湖へと翔んだ。

湖の上。浮島にも見えるクラーケンの背に降り立ち、掌で触れる。そして。


「……。」


力一杯魔力を吸収する。

そして魔力酔いする手前まで吸収したところで、私は手を離した。


「駄目だな、埒が空かん。」


一度撤退し、皆のいる陸地まで戻る。


「嬢ちゃん、どうだった!」

「私では吸いきれん、魔力総量が多すぎる!」


「では私が。……守りは頼みますよ。」

イアンが精霊の言葉で長い詠唱を始める。大技を使う気だ。


無防備な詠唱中を狙い、触腕が薙ぎ払われる。それを、私とフランで食い止める。

もう一本叩きつけられようとする触腕を、オーウェンとヴォルフが払いのける。


イアンの詠唱が終わる。


「―――[穿て、雷]ッ!!!」


つんざく轟音と共に、数多の雷が光の柱となってクラーケンを貫いた。

耳障りな甲高い声と共に、クラーケンが苦しげにのたうち回る。触腕があちこちに叩きつけられ、あちこちでがらがらと魔鋼窟の壁が崩落した。


確実に効いている。……だが。


「……しぶといな。」


「……あ!!」


戦況が膠着するかと思われた時、タルトが声を上げた。

一瞬目線をそちらにやると、何やら鞄を漁っているタルトの姿があった。


「副官さーん!これ!!」

「だから副官では……使い方は!」

「魔力を注いで溜める!!」


今タルトがこれを持ち出した理由に思い至り、私はニヤリと笑った。


「!!……なるほど、承知した。」


どうやら、勝ち筋が見えてきた。


「イアン。」

「何でしょう?」

「一緒に来い。」

「……御意に。」


私はイアンを抱えて湖の上空を翔んだ。


地上に残っている面子も何かを察したのだろう。近くにある触腕を無力化する方向で動き始めていた。


オーウェンは触腕を切り裂いて機能不全を誘い、ヴォルフはバスターソードでもって触腕の一本を地面に縫い止める。


「有難いな。こちらに来る腕が減る。」

「ええ、本当に。」


フランはフランで、陽動役を引き受けてくれている。上空を飛び回って魔術を撃ち、攻撃を撹乱するのだ。


「さて。」


クラーケンの背に降り立ち、私は再び掌をその背甲に置いた。


「任せる。できるな。」

「ええ、勿論です。」


イアンはいつも通りの調子でそう返すと、懐から護符の束を取り出した。


私は全力でクラーケンの魔力を吸い上げる。

吸い上げた先から、反対の手にある魔道具に流し込む。


これならいける。


流石にクラーケンの方も大人しくはしていない。

触腕をめちゃくちゃに振り回し、私たちを弾き飛ばそうとする。


その度に、イアンの護符が燃える。

タイミングを間違えばただでは済まないが、こいつならば任せておける。そういう男だ。


「ノーラ殿。」

「ああ、底が見えてきたな。」

「ええ。……ところで。」


イアンが振り返らずに言う。


「先ほどから異音が聞こえるのですが。」

「ああ。ついでに光り始めた。」


陸地からこちらを見ていたタルトが叫ぶ。


「副官さーん!!それ以上は駄目かも!!!」


「だ、そうですよ。一度撤退して……、ノーラ殿?」

「いや、このまま行く。」

「は?」


これだけの魔力を溜め込んだのだ。爆発の威力も並大抵ではないはずだ。


「このまま爆発させる。」

「……正気ですか!?」

「ああ。」


「二人とも逃げてーーー!!!」


「離脱時の障壁を頼む。三、二……」

「本当に無茶を言う……!」

「一。」


私は魔道具を軽く放り投げると、空いた手でイアンを掻っ攫い飛翔した。

イアンは残りの護符を全て使って、幾重にも結界を張る。


―――眩ゆい閃光。

そして、轟音。


魔鋼窟が、揺れた。


「…………。」

「…………。」


「あー。嬢ちゃん、生きてるな?」

「ああ。問題ない。」

「いや、問題しかないです。」


背後の爆発に押し出される形で、私たちは元いた陸地に放り出された。イアンが張った結界のおかげで、二人とも大した怪我はない。


そんな私たちをヴォルフが覗き込み、その背後でオーウェンが信じられないものを見た顔で呆れ声を出した。


……振り返って湖の方を見れば、動かなくなったクラーケンが浮かんでいた。


「……今回は随分無茶したねえ?」

「びっくりした!」


フランとタルトの忌憚ない感想を聞いて、じわじわと無茶をした実感が湧いてきて、私は思わず笑ってしまった。

フランとヴォルフも、そんな私を見て愉快そうに笑った。


「……イアン、無茶をさせたな。」

「ええ、全くです。」


イアンが苦言を呈する。

巻き込まれた側はたまったものではないだろう。

今回は随分助けられたとしみじみ思う。


「だが助かった。」

「それは……光栄です。」


「……帰るか。」

「ええ。」


立ち上がって周囲を見渡す。

湖の上で爆発させたからか、爆発による魔鋼窟自体の損傷は大したことはない。

問題は、坑道の各所に残っている崩落時の落石の方だろう。

これについては、またアーノルドに兵の派遣を申し入れよう。


「……よし、帰るか。」


元来た道を辿って魔鋼窟を出る。

こちらの姿を認めた領民が声を上げる。


「おい、あれ……!」


その反応は、信じられないものを見た時のそれだ。

そして、彼らは顔を見合わせ、大きな歓声を上げた。


拠点へ辿り着き、賞賛と感謝の言葉を口々に浴びせられる。


「ありがとう、ありがとう……!」

「アンタ達、名は?」

「家族も助けてもらって……!」


少しむず痒いが、悪い気はしない。


「……ノーラだ。」

「そんだけか、嬢ちゃん。……こちら、領主の副官殿だ。」

「ヴォルフ!!!」


「おお、副官殿……!!副官殿万歳!!」

「領主様万歳!!」

「辺境伯軍万歳!!」


領民たちが口々に騒ぎ出す。

私は大きくため息をついて、天を仰いだ。


だが、まあいい。


仕事は無事終わった。

……あとは、帰るだけだ。


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