十話 不本意(挿絵あり)
最近、城の連中が私を副官呼ばわりし始めた。
初めはオーウェン。
「副官殿、このあと稽古ですか。」
「……副官?」
「あなたのことです。」
「違うが?」
そして家令の男。
「おや、副官殿。旦那様はあちらです。」
「だから副官ではないが。」
果てはヴォルフ。
「副官になったんだって?大出世じゃねえか。」
「なった覚えはない。」
フランにぼやいたら、
「いいんじゃない、似合ってるよ。」
と返ってきた。
イアンにも訴えてみたところ、
「妥当な評価かと。」
といってにっこり微笑まれた。
見事に味方がいない。
……理解に苦しむが、どうやらこの事は私以外には共通認識らしい。
何故だ。
私はもとよりただの食客であるし、戦闘専門だ。
悶々としながら、普段通り執務室へ飯を持って行く。
「飯だ。」
「ああ。……ノーラ、後で意見を聞きたい。」
「分かった。」
アーノルドが食べ終わるのを待ってから、警備の配置についてああでもないこうでもないと談義していると、執務室に小柄な少女が入ってきた。
名をタルト。ドワーフのはぐれもので、過去にヴォルフが拾ってきたのだという。
「ああ、タルトか。どうした。」
「副官さん、ヴォル爺さまが呼んでる。」
「分かった後でいく。……それと副官じゃない。」
「でもみんな呼んでる。」
「……。」
まっすぐな目でそう言われると、強く否定できない。
とりあえず話を一旦切り上げて、門へと向かう。
「……よう、副官殿。」
「貴様面白がってるだろう。」
「実際面白いからな。」
「……で、何の用だ。」
「いや、タルトが研究費を欲しがってんだ。坊ちゃんに掛け合ってみてくれよ。」
「何で私が……。」
「まあ、お前が一番執務室に出入りしてるからだな。」
これもまた真っ向から否定はできない。
「……。掛け合ってはみるが、期待するなよ。」
戻る途中でオーウェンともすれ違う。
「ああ、副官殿。ちょうどいいところに。」
「だからお前ら……ああもう、何の用だ。」
「装備品の入れ替えをしたいのですが、この一覧を領主殿に渡していただけますか。手が離せなくて。」
「……よこせ。」
他にも何件か伝言やら要望やらを受け取って、執務室へ戻る。
「……随分と大荷物だな。」
「……何でだろうな。」
とりあえず受け取ったものを執務机に広げていく。
「こっちがタルトの研究費のメモ。」
「分かった、見ておく。」
「こっちはオーウェンから預かった装備品の目録。」
「ああ、そんな時期だったな。」
「これとこれは備品の補充依頼か。まあ、買い出しのついでにこちらでやっておく。」
「悪いが頼む。」
「これは飲み屋のツケ伝票か……ヴォルフに返しておく。」
「そうだな。」
「……。」
「……どうした?」
「いや……何でもない。」
何でもなくはない。
今日一日、私が何をしていたか振り返る。
「…………。」
少なくとも、戦闘職の食客はそこには居ない。
私は深くため息をついた。
不本意を顔に貼り付けたまま、私は執務机から書類をひと束抜き取り、黙々と仕分けを始めた。




