第二二話 双子の戦い エリーゼ
お父様のファストトラベルでツェルウェン伯爵領まで瞬間移動したエリーゼたちは、すぐにツェルウェン伯爵の所まで案内された。もちろんほとんどの学院教師や他の学生はそれぞれ別の場所で待機で、ツェルウェン伯爵の応接室へ訪問するのは私とミア、そして学院教師の中でも役職の高い者だけだ。
ツェルウェン伯爵は私とミアが突然訪ねて来たことに驚きつつ、この街からでも観測できた超巨大魔法陣の件だと推測していたようだった。そしてツェルウェン伯爵は、普段は私を思い切り子供扱いして「私をお母さんと呼んでね?」なんて言う人だが、こういう時は一人前として扱ってくれる。
「緊急事態なら、それを教えなさい」
ツェルウェン伯爵はさっとその場の者たちを見回し、学院教師ではなく私に質問を投げかけた。それから私を中心にして学院教師が補足しながら状況を説明する。超巨大魔法陣からは見たことのない魔物が出現し、この魔物には魔術は無効、物理攻撃なら通用するものの、スキルが発揮されていないのか見るからに効果が薄いという事実。
超巨大魔法陣を作った者の素性や目的は不明。皇都中心なのは確実で、今はお父様がお母様救出を第一目標に、事態打開のため皇都へ向かった。私たちは最も信頼できるツェルウェン伯爵の元へ退避している。
「状況は理解しましたわ。まずは万が一その魔物が来た場合に備え、棍棒や投擲石の準備を。それからミアとエリーゼには快適な部屋を用意して。あとは……」
私から、いやお父様から最も信頼できる人として選ばれたのが嬉しいのか、ツェルウェン伯爵は少し顔を紅潮させながら、それでも毅然とした態度で対応を命じていく。夜中遅くでも多くの使用人や騎士が起きているのは、この街からでも超巨大魔法陣が見えたからに違いない。
あとはツェルウェン伯爵に任せれば良い。私も緊張していたのか、役割を果たしたと思った途端になんだか力が抜けてしまった。
「た、大変です! 空を!」
そしてそんな私の安堵は、同席していたツェルウェン伯爵の護衛騎士が応接室の窓を指差し、私の視線がその先を見た後に消え去ってしまう。
そこには皇都に広がった超巨大魔法陣と同じ、サイズ的には明らかに小さいものの、紋様は似通った魔法陣が広がっていた。そして間髪入れずに魔法陣から、あの不気味な魔物が出現して街中へ降り立っていく。
「緊急警報を発令!」
ツェルウェン伯爵は私たちにシェルターへの避難を提案したけれど、私たちは断った。プトレマイオス星皇国のシェルターと呼ばれる避難場所は魔術を使ったもので、魔法陣から出現した魔物には無力だと思われたからだ。それならわざわざ戦いづらい場所に逃げ込む利点がない。
魔法陣から出現する魔物は空から降り注いでくる。街の入り口から侵略してくる魔物や悪魔とは違う。ツェルウェン伯爵の屋敷がいきなり魔物に襲撃されるという意味だ。いや私には魔物がツェルウェン伯爵の屋敷を狙っているように見えた。
さすがのツェルウェン伯爵も平時から大勢の騎士を常駐させていることはない。魔法陣から出現して空から降って来た魔物が、応接室まで到達するのにそう時間は掛からない。応接室の扉の外から使用人たちの悲鳴が上がる。扉は破壊と共に開かれた。
「お下がりください!」
ツェルウェン伯爵の護衛騎士が剣を抜いて魔物へ立ち向かう。こんな夜中に伯爵の護衛を任されるほどの騎士は、その不気味な魔物相手に善戦した。しかし応接室には他に扉はなく、窓から逃げれば魔法陣から出現する魔物に狙われてしまうのは必定。護衛騎士は私とミア、ツェルウェン伯爵たちが逃げる隙を作り出すことはできなかった。
「エリーゼ」
私の片割れが私の名前を呼んだのは、死ぬ覚悟を決めよう、なんて意味ではない。
ここへ来るまでに話していた推測を確かめる時が、意外に早くやって来たのではないか、という問い掛けだ。
推測。それは魔法陣から召喚された魔物はスキルを無効化するが、それはあくまでもこの世のスキルだけで、お父様のスキルは別だったのではないかというもの。だってお父様だけは、この魔物をスキルで一掃したからだ。
そして私たちが聖剣を通して使ったスキルは、お父様と同じく『この世のものではない力』だとお父様から説明されている。私とミアはお父様にもらった聖剣を毎日のように振り回し、時には抱いて寝たりした。私たちは私たち専用の聖剣を鞘から引き抜く。
「ミア! エリーゼ! 何をするつもり!? 止めなさい!」
ツェルウェン伯爵から制止の声が上がったけれど、止まったところで状況が改善されるはずもない。私たちは伯爵の言葉を無視して、目の前の魔物へ立ち向かった。
私はお父様の個人授業の時間を学院や大公邸で受けたけれど、ミアと違って何年も剣術の訓練に励んでいたわけではない。お父様曰く、私とミアの才能が同等なのであれば、訓練の時間分だけミアのが聖剣の扱いが上手い。
ならば役割分担を確認するまでもない。私は細かな攻撃で魔物の気を引きつつ体勢を崩す。そして隙を狙ったミアの聖剣が魔物を脳天から一刀両断した。
推測は正しく、私とミアの聖剣ならこの魔物を倒せる。
「なっ!? ミアもエリーゼも、すっごく強くなってますわ!」
ツェルウェン伯爵は手放しで褒めてくれたけれど、実際にあの魔物と戦闘した教師陣や護衛騎士は信じられない面持ちで私たちを見ている。
「お父さんが作ってくれた聖剣なら、いける!」
「油断は禁物だけど、ただ待っているわけにはいかないわね」




