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元英雄アラフォーおっさんが異世界へ帰ったら、可愛い双子の娘がいたので溺愛します!  作者: 葉簀絵 河馬


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第二一話 異世界の怪異

 凪はミアとエリーゼ、草原地帯にいた学生や教師たちをファストトラベルを使ってツェルウェン伯爵まで瞬間移動させると、自分はリカルナの元へ急いだ。


 大公邸にいると思われたリカルナだが、皇城の作戦会議室にいて、完全武装して指揮を執っている様子である。作戦会議室に突如として人影が現れ、一瞬だけ騒がしくなったものの、その正体が救世の英雄ナギであると理解した者たちの表情が一様に希望で明るくなった。


「凪!」

「リカルナ! 無事で良かった。ミアとエリーゼはツェルウェン伯爵に預けてある。魔法陣から召喚された魔物と交戦していくつか撃破した。魔法陣の一部を削れることも確認。そっちの状況を教えてくれ。カイは前線か?」


 凪とリカルナにとって戦場など慣れ親しんだ場所で、お互いに何が知りたいのか、何をするべきなのかを理解している。


「正体不明の敵が皇城へ侵入。星皇カイユベルが重態で治療中。星皇継承法に基づき私が星皇代行に昇格。流転の聖剣が奪取され、未確認ながら正体不明の敵は流転の聖剣を発動させている情報あり。魔法陣は皇都上空の巨大個体から広がっており、眷属召喚と推測。軍が応戦中」


 凪はカイユベルが重態だと聞いて驚いたが、今は親友の元へ見舞いに行っている場合ではない。またリカルナの苦しそうな表情から、かなりの犠牲や怪我人が出ているのだと推察できた。凪は作戦会議室の様子を見回す。半数ほどが凪の知り合いだけれど、武官の姿は少なくほとんどが戦場へ出ているらしい。


「召喚された魔物、眷属はスキルを無効化する。攻撃スキルは無駄だから止めさせろ。自分へのバフは有効だ。それを生かしてくれ」

「スキルの無効化? 分かったわ」

「デカイのは俺が倒す。それで眷属が消えれば良いが、そうでなかったら出来るだけ一カ所に集めてくれ」

「スキル無しでね。簡単じゃないわね」

「住民の退避は?」

「直下の区画は強制執行したわ。周囲は間に合っていないし、眷属が次々に湧いてきて避難どころじゃなくなってる」

「俺が出る。現場の指揮権をくれ」

「まだ戦時将校に凪の名前が残ってる。足りなければ、緊急事態に限り私の全権を委任するわ」


 凪とリカルナは周囲の者たちとも話しながら、最低限の方針を急いでまとめた。周囲の者たちも、この方針を元に動いてくれる。


 凪はアイテムボックスから女神から授かった特別な聖剣を取り出す。流転の聖剣を奪って使用しているらしい正体不明の敵と、皇都に浮かぶエイリアン魔物の大ボスをできるだけ皇都に被害が出ないように倒さなければならない。


「行ってくれる」

「凪!」

「なんだ? まだ何かあったか?」

「……いいえ、気を付けて」

「任せとけ。もうあの頃のような子供じゃない」




 皇都は地獄のように炎に包まれていた。時間が夜でそれも夕食時だったことが災いし、街灯や民家などで灯りのために火を使っていたのだ。エイリアン魔物の出現で驚き戸惑っている内に襲われてしまい、火を消す時間が無かった。止めるものがなければ火は燃え広がり続ける。


 木造の家々が次々と火に飲み込まれ、夜空は赤く染まり、煙が大きな渦を巻いて立ち昇る。炎の勢いは凄まじく、狭い通りを風に乗って次々と家屋へと広がっていく。建物の屋根が崩れ落ち、火花が四方に散り、恐ろしい音を立てて瓦礫が地面に崩れ落ちている。石造りの城壁や建物は木造の家屋とは対照的にまだ炎に耐えていたが、それでも壁面は熱でひび割れ至る所から煙が漏れ出していた。


 街の至るところから人々の悲鳴が響き渡り、慌てて逃げ惑う群衆の姿が見える。子供を抱きかかえ、泣き叫びながら走る母親、家財道具を手に逃げようとする人々、そして全てを諦めたようにその場に立ち尽くす老人たち。


 エイリアン魔物はそんな者たちにも容赦なく襲い掛かる。室内に逃げ込もうにも火の手が迫り、屋外では空の超巨大魔法陣から魔物が降ってくる。騎士や兵士たちが魔物へ対抗しようと試みるが、これまでのどんな魔物とも違うエイリアン魔物に劣勢を強いられていた。


 凪は皇都の大通りを疾走し、住民や怪我人の退路を確保するため、アイテムボックスから取り出した魔剣を次々に道の端へ投擲し、突き刺していく。


 凪が使っている魔剣は、魔剣と魔剣の間に結界を張るもので、エイリアン魔物には無意味だが炎と熱、煙は防いでくれる。何故この魔剣を大量に持っているかと言うと、ミアとエリーゼが野外訓練へ行くと言うので、彼女たちを守るために鍛冶師ギルドで作っておいたのだ。


 やがて前方にエイリアン魔物と交戦する騎士たちを見つける。リカルナから聞いていた通りの場所でまだ戦っていることへ、安堵するべきか絶望するべきかは迷いどころだ。


 エイリアン魔物の数は五十を超えており、騎士たちは大きな盾を構えた前衛と押し相撲のように抑えている。


「バーランドさん!」

「ナギ殿!? 全員後退、伏せ!」


 凪が騎士団の指揮官の名前を呼ぶと、次の瞬間、凪の視界が開ける。【剣の英雄】で造り出した光の剣を射出して、敵の前衛を刺し殺した。


「戦術変更! 布陣:剣の英雄! 光の剣を抜剣しろ!」


 間髪入れずに指揮官の指示が飛ぶと、彼の騎士団は凪が射出してエイリアン魔物に突き刺さっている光の剣を、戸惑うことなく引き抜いて構えた。


 明星騎士団。十年前の初代魔王討伐の際、凪と共に魔大陸へ突入し、魔王軍と戦った戦友たちである。


「遅くなって申し訳ありません」

「相変わらず美味しいところを掻っ攫うのが上手い奴だ。そろそろ若い奴に譲れ」

「バーランドさんがそれ言います?」


 明星騎士団は他にはない特殊な訓練を受けている。それは凪が【剣の英雄】で造り出した光の剣を騎士団員が装備することで、絶大な攻撃力を得るというものだ。凪がその場に居なければ使えないという致命的な欠陥はあるものの、剣士ナギが分身して集団戦術を使って来るような敵からすれば悪夢の光景である。


 そして重要なのは、光の剣は凪の能力の一部であり、異世界の存在である凪の攻撃はエイリアン魔物に通じるという事実。光の剣を装備すれば、この世界の騎士でもエイリアン魔物に対抗しやすくなる。


「大元を叩きます!」


 ファストトラベルはマーカーや人物の場所へ瞬間移動する法則(システム)であるため、いきなりエイリアン魔物の大ボスの元へ瞬間移動して戦闘を開始することはできない。


 エイリアン魔物たちを斬り伏せながら、皇都の通りを進む必要がある。ただ倒すだけなら次々と斬り殺していけば良いのだが、逃げ遅れた住民が魔物に襲われていたり、瓦礫の下敷きになっている人々がいる。凪が明星騎士団との合流を優先したのは、住民たちを助ける手を借りたいからだった。


 人の手は短い。だから繋いで広げていく。




 凪はエイリアン魔物の大ボス――ここではあえてボスエイリアンと呼称――の直下へ辿り着いた。明星騎士団は一人でも多くの住民を救出するべく周辺区画へバラけたため、ただ一人、その威容を見上げていた。


 ボスエイリアンは眷属たちを何倍も巨大化させたような巨体を持ち、皇都上空に浮かびながら超巨大魔法陣の中央に鎮座している。そしてその直下に姿を見せた凪に対して、不気味な音の叫び声を上げた。それは招かれざる客への威嚇か、眷属たちを殺し回っている主犯への慟哭か。


 何にしてもボスエイリアンは凪を敵として迎えたのだ。これまで皇都全域に加えてその周辺地域に展開されていた超巨大魔法陣が凪の頭上に収束し、密度と光度が桁外れに上がる。その場は昼間になったかのような魔法陣の光に照らされた。


 それに伴い眷属の召喚速度が劇的に上昇する。これまで各地に散っていた眷属が、ここに集中するようになった。それはもう雨の如く眷属が降ってくる。


 対する凪は、もはやここに到って手加減や周囲への影響を考える必要はない。【剣の英雄】を使って数百本の光の剣を産み出し、眷属、ボスエイリアン、魔法陣を攻撃する。


 魔法陣から眷属が召喚される。地上に降りる前に地上から光の剣に貫かれて絶命する。次が召喚されても同じ。その次も。次も。地上から放たれる光の剣の猛攻は、眷属だけではなくボスエイリアンまで狙いを付ける。ボスエイリアンは自分の前面に眷属を召喚することで光の剣を防ぐ盾にした。それでも光の剣の連続発射は止まることはない。


 それは凪の【剣の英雄】による光の剣と、ボスエイリアンの召喚術による眷属の物量戦だった。


 そして物量は凪に分がある。ボスエイリアンの召喚術は一秒間に数体程度。凪の【剣の英雄】はミニガン並みの秒間三十発。弾幕と言って過言でない。


「ナギ! 時間は掛かったが、この区画の市民の退避は完了した! 眷属は俺らに任……せて……お前……は……?」


 光の剣を装備した明星騎士団が集まって来たのが気配で分かる。だが地上から光の剣を連射する凪は、彼らの方向を見ている余裕がなく、というよりも、もう倒せそうなので彼らの状況を確認する必要性を感じなかった。


 地上から夜空へ登る光の剣は、ボスエイリアンの身体を針のむしろのように突き刺していく。


「バーランドさん、こちらは問題ありません。他の区画の救援に向かってください。さすがに【剣の英雄】の効果範囲外になると思いますので、細心の注意を払い対応をお願いします」

「あ、ああ、そうだな。……ナギ、お前、ここまで無茶苦茶だったか……? いや、今のは忘れてくれ。全隊転進!」


 明星騎士団団長バーランドの疑問は尤もだと思う。十年前の凪はたしかに強かったが、ここまでではなかったし、何よりも異世界の法則(システム)を理解していなかった。


 しかしこの二回目の異世界召喚では、事前に女神様と話す時間をたっぷりと得られた。異世界を構成する法則(システム)への理解度が桁外れな上、理解した上で女神様に融通してもらった第二チート能力がある。


「さて、大詰めだ。慣れてないから少し時間が掛かったが。第二権能【次元断】」


 凪は【剣の英雄】による光の剣連射を止め、代わりに女神の聖剣を振るった。


 地上にいる人間が上空にいる巨大なボスエイリアンに対して剣を振ったところで、何かが起きるはずもない。


 だが現実は違う。ボスエイリアンは何か鋭いものに斬られたかのように、その巨体を真っ二つに割った。


 ボスエイリアンの断末魔が皇都に響き渡る。空から緑色の血液や内臓のような物が落ちてきたが、退避が完了しているのならば被害はないだろう。明星騎士団には、ただ落ちてくる物体に当たる間抜けはいないはずだ。


 魔法陣の中心が眩い閃光を放ち、空間が揺れるように震えた。次の瞬間、陣全体に亀裂が走り、光の筋がピキピキと広がっていく。その亀裂はまるでガラスが割れるかのように、音もなく複雑に広がっていき、魔法陣の光が急速に不安定なものとなっていった。輝いていた紋様が、まるで崩壊し始めた星のように光を放ちながら砕けていく。


 魔法陣の破片が風に乗ってキラキラと舞い散る。破片はやがて夜空の中へと吸い込まれるように消え去り、まるで何もなかったかのように静寂が戻った。そして夜空には魔法陣に奪われた星々が居場所を取り戻し、輝き瞬いている。


「流転の聖剣を奪った奴は、何処へ行ったんだ?」


 凪はずっと警戒していた敵が姿を見せなかったことに不審を抱き、直後に嫌な予感を覚え、急いで情報ウィンドウを表示して目当てのデータを探した。


 ミアとエリーゼの生命力(HP)が大幅に減少していることが表示された。


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