↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元英雄アラフォーおっさんが異世界へ帰ったら、可愛い双子の娘がいたので溺愛します!  作者: 葉簀絵 河馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/26

第一四話 家族旅行 エリーゼ

 エリーゼ(私)はミアとは違うと、ずっと思っていた。


 プトレマイオス星皇国において、救世の英雄ナギは伝説であり事実であり誇りだ。女神によって異世界から遣わされ、数々の聖剣を手にして戦い、魔王を破り世界を魔王軍の恐怖から救った英雄。


 もちろんそれにはプロパガンダの側面もあった。その救世の英雄ナギの魔王討伐の旅に、出発の日から共にあったのが伯父様とお母様という皇族兄妹なのだから、救世の英雄ナギと同等の功績があるかのように語られる。そして何よりも神の世界へ帰還した救世の英雄ナギの遺した娘、私とミアがいるのだから、内政にも外交にも利用しない手はない。救世の英雄ナギの功績が凄ければ凄いほど、私たちに、私たちの住むプトレマイオス星皇国に便宜を図れということだ。


 だから『救世の英雄ナギに似ている』というのは正義だった。お父様そっくりの黒髪黒眼、剣の才能を受け継いだミアには誰もが称賛を送った。私は上辺こそ褒め称えられたものの、「本当に救世の英雄の子供なのか?」「スキル一つ引き継げなかったなんて」「せめて黒髪なら他国との婚姻に使えたものを」と陰口を言われていた。


 特に許せなかったのは「リカルナ皇女が不義を働いたのでは?」というお母様まで疑われる噂が流れたことだ。あれだけお父様を愛しているお母様が不義理を働くなんて有り得ない。それが私のせいにされるのが嫌で嫌で仕方がなかった。


 だから私は、お父様と産まれて初めて出会って、そのお父様から私も聖剣が使えると言われた時、私もお父様の子供だと言われた時、内心ではミアよりもずっと喜んでいた。その場で踊り出さなかったのは、お父様にはしたない娘と思われたくなかったからだ。


 それまで剣の才能がなかったため、他のことで認められなければと、魔術や学問、教養や社交も必死で頑張ってきた。けれどもお父様がいる今、好きなことをやっても良い。他でもないお父様が私を娘だと言うのだから、他の誰に何を言われても知ったことではない。そう思ったら勉強に身が入るはずもなく、寝ても覚めても剣術と聖剣、そしてお父様のことばかりで、家庭教師に呆れられてしまうほどだった。


 家族旅行の話を聞いた時は憂鬱になった。王侯貴族の家族旅行が平穏なものであるはずもなく、交渉や社交などでお父様とお母様は忙しく動き回り、私たちもそれなりの役割を期待される。


 いや違う。そう。お父様がいるから、私たちが“英雄の双子”の役割を果たす必要がない。そしてお父様は私とミアの味方だから、本来社交デビュー前なら顔を出す必要のないものだと説得すれば、パーティーや挨拶回りをすべて無視できる。


 フリーダム! お母様の社交関係の仕事は拒否! お父様の討伐の仕事へ付いていって聖剣に血を吸わせる!


 と意気込んだは良いものの、ツェルウェン伯爵への挨拶は拒否できなかった。


 ミアはツェルウェン伯爵を苦手にしていたけれど、私は伯爵がお母様の寂しさに最も寄り添える人で、数少ない本当の意味での味方だと思っている。だからミアがお父さんをガードしようと提案してきた時、それは本気でそうしたほうが良いと考えたのではなく、面白そうだなと同意した。


 ツェルウェン伯爵は私たちと同じくらいの年齢の頃、家族を皆殺しにされ、家族に変装した悪魔に虐待され、伯爵自身も殺されそうになった時に使用人たちの手引きによって命からがら伯爵領を逃げ出した。この時に逃亡を手助けした使用人たちは処刑されており、事実上伯爵領は乗っ取られてしまっている。


 要所であるツェルウェン伯爵領が麻痺し、プトレマイオス星皇国が最も追い詰められた時期。その危機に魔王討伐の旅を反転して駆けつけたのが、お父様、お母様、伯父様だ。そして三人は伯爵と共にツェルウェン伯爵領を奪還し、国中に根を張った悪魔たちを一掃した。この時、魔王軍側と通じていたり、悪魔と入れ替わっていた貴族や重鎮などが大量に粛正されている。表沙汰にできない人物はひっそりと代替わりしたり、病気などを理由に引退していた。


 そんな経緯だから、お母様とツェルウェン伯爵の仲は悪くない、どころか最も信頼できる貴族の一人になる。いや逆か。ツェルウェン伯爵にとって、この国で信頼できる人物がお父様、お母様、伯父様しか、もう生き残っていないのだ。




 しきりに宿泊を勧めるツェルウェン伯爵の誘いを断っていると、ドタドタと激しい足音が伯爵邸を駆け抜けた。使用人たちは来客中であると理解しているのに、そんな行動を許しているということは悪い急報だろう。


 お父様、お母様、ツェルウェン伯爵の顔つきが変わった。応接室の扉が勢い良く開かれて、武器こそ持っていないが鎧を身に着けたままの兵士数名が、額に大粒の汗を掻きながら駆け込んでくる。そしてツェルウェン伯爵がいることを確認して、全員が膝を突いて頭を下げた。


「大変なご無礼をお許しください、伯爵閣下!」

「簡潔に報告なさい! 監視員から部隊は石にされたと報告を受けていますわ。誤報ということ?」

「いいえ! 我々はコカトリスの巣の掃討に失敗いたしました。しかしコカトリスの巣を掃討した者がおります」


 私は意識して口を真一文字に閉じた。


「その者は、コカトリスのブレスを物ともせず、無数のコカトリスを討伐し、巣にあった卵を手に取っただけでなく、クイーンコカトリスを含めて強力な個体を連れ去ったのです」

「連れ去った? クイーンをテイムしたと言うんですの!?」

「はっ、間違いなく! 人間とは思えぬ恐るべき魔力を纏っておりました。あれこそ、二代目魔王に違いありません!」


 勘違いするのも仕方がない。私だって最初はそう思った。


「二代目魔王がこっちの大陸に来ている!? すぐに緊急の、いえ、今の我が国に来るとは、愚人は夏の虫ですわ! そうですわよね!?」

「ん? 二代目魔王が来た? おかしいな。そいつの特徴は分かるか? オリハルコンの冒険者が通り掛かっただけかも知れない」

「はっ、まるで市井を歩いているかのような格好で、この男のように、黒髪、黒目……え?」

「…………そういえば、うちの敷地内に毎日美味しい卵を産んでくれる、とても元気の良い鳥を飼っている小屋ができてたわよね?」


 お母様とミアもそろそろ状況が分かってきて、二人同時にお父様を見つめた。お父様は目を逸らした。


「ぶふっ」


 吹き出したのは他でもない私だ。私は自分で思っていたよりも我慢強くなかった。


 コカトリスについては、たぶんお父様が駆除したんだろうと思っていた。だって皇都の大公邸にお父様が作った小屋、飼われている鳥はどんな方法かニワトリみたいな姿にされているけれど、魔力を見ればどう見てもコカトリスだったからだ。


「えー、ロザリー、凪がやっちゃってたみたいね。色々前後しちゃうけど」

「さすがはナギ様ですわ。いつも私の危機に駆けつけてくださいます」

「ねえ、お父さん、コカトリス、もういないの?」

「そうではないかと思っていましたが、お父様が駆除してしまったようですね。ああ、残念です」


 コカトリスと戦いたがっていたミアが意気消沈したので、私もミアに倣って目を伏せた。その姿にお父様が慌ててしまう。


「なあ、生き残りや見逃しとかはいないのか? 俺はこの子たちとコカトリス討伐をするって約束をしてるんだ。何とかならないか?」

「な、何とかならないかと申されましても」


 私はこっそり笑いながら、次の目的地から頑張ろうとミアを慰めた。




 ってお父様! お父様の仕事である魔物討伐、全部お父様が討伐済みなんですけど!


 これもうただの旅行じゃないですか! ぬか喜びさせたお父様には、私に付き合って貰いますよ?




 ◇




 プトレマイオス星皇国の星皇カイユベルは執務室で、調査隊からの報告を受けていた。それは国家戦略に大きな影響を与える情報であり、世界中のどの国よりも早くその情報を入手する必要があったため、調査隊のメンバーには腕利きを集め、かなりの強行軍を命じてしまった。報告者の顔色にも疲労の色が見られる。


「星皇陛下へご報告申し上げます。魔王軍幹部である八大魔将軍、獣魔将軍、不定形魔将軍、植魔将軍、水魔将軍、鳥魔将軍、虫魔将軍、物魔将軍、不死魔将軍の全滅を確認」


 その情報とは、他でもないカイユベルの親友であり救世の英雄でもある凪からもたらされた情報である。現在、世界中で最も重要視されている二代目魔王と魔王軍の侵攻を、凪が止めてしまったという事実。


 その真偽を確かめるために調査団を派遣し、事実であるとの報告を受けている。


「二代目魔王も、討伐されました」

「報告ご苦労。下がれ」


 カイユベルは報告者が執務室から消え、一人きりになった後、誰に憚ることなく頭を抱えた。


「……いや、いやいやいや。たしかに十年前の凪は、世界で最も強かった。けど、ここまでじゃなかっただろ? 一人で魔王軍を全滅させられる? 次元が違うぞ」


 旅の始まりから凪と一緒だったカイユベルには、凪の能力をかなり正確に把握しているはずだった。吟遊詩人や演劇が語る誇張されたものではなく、等身大の凪を誰よりも知っていると思っていた。


 凪は強いのではなく、強くなったのだ。その強さに到るまでに本人の努力と大勢の犠牲がある。救えなかった命と会う度に凪が涙したのを知っていて、カイユベルが凪を殴って奮起させたこともあった。カイユベルは凪が救世の英雄と呼ばれていても、力不足に悩みながら戦い続け、同時に見る人によっては弱さとも捉えられる優しさを持つ人物だと知っている。


 だから凪は元の世界の平和な世界へ帰るべきだと思っていた。その考えには凪を愛していた妹リカルナも反対しなかった。


 しかし、あれから十年が経ち、戻ってきた凪はたった一人で魔王軍に立ち向かい、二代目魔王を討伐してしまうほどの力を獲得していた。きっと彼は戦い続けたのだ。カイユベルたちが人類同士で争っている間にも、世界を救うために。


「なあ、凪。お前は、そこまで強くならなければならなかったんだな。そんなお前を、これからも戦いに巻き込むことを許してくれ」


 プトレマイオス星皇国の星皇カイユベルは、大勢の家臣たちの前で宣言する。


「我が友、ナギ=ミオヤの帰還を正式に認め、二代目魔王の討伐の功績と共に大陸同盟へ公表する」


 ちなみに凪がこの世界を去った後も救世のために戦い続けたなんて、そんなカイユベルの勘違いが正されるのはしばらく後になる。


よろしければブックマークや高評価をお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そりゃそう考えるよなぁ 凄いかっこいいのに、そんなことはなかったんだぜ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。