魔王様はお終い15
前魔王にこれ以上漫画の事を教えていては、要求レベルに応えられなくなる事は明白であり、私の精神が持たなそうなので、フェードアウトする作戦を取る事にした。
漫画のキャラ、特に主人公は作者自身の経験と認識から、最も好感の持てる精神性を選択する事。人の持てる珠玉の美的センスは一種類しかないから、それが何なのか自分の中でもはっきりする事。などと適当なお題を振って、後は当人に任せる事にした。
実際、前魔王は納得したようで、例の大地の輪とかいう巨大データベースからキャラの吟味を始めたそうだ。
前魔王からは解放されたが、この竜宮都市における私の仕事はまだある。それは、ウミビトとの橋渡し役だ。
ウミビトのタイタスは私との盟約によって竜宮都市のインフラ整備に動いてくれている。タイタスに従うウミビトは何人か居るようで、偶にタイタス以外のウミビトを見かける事もある。正直、ウミビトの個体識別は良く分からないが、タイタスだけはよく分かる。紫鱗という二つ名が現すとおり、タイタスは体が紫色なのだ。見た目が分かりやすいのは、何か種族的な特性なのかもだが、その理由はよく分かっていない。
とりあえず、タイタスは私の指示を聞いてくれて、そこに従うウミビトも居る。これで私とウミビトしか居ないのであれば事は単純だが、そうもいかない。
まず、バイスが連れて来た弓の島の人達が冒険者組合員として常駐している。ここに前魔王が空の柱に住み、ヤマビトもここに移住して来る事になっている。この状況に異種間の交流はまだ無い。法整備はしたいなー的な事を言ったら、どうやら参人代表で話し合って草案を出してくれる事になった。
今のところ、交流の方法が無いので何かあれば私に話が来るのだが、その殆どはバイスからだ。どうも、弓の島の人達はウミビトに武術の指南をしてもらいたいという要求があるようで、バイスはそれを餌に南諸島の交易や情報収集をしたいらしい。だから、バイスからは色々と要求が来るのだが、一旦は最小限にしている。
目指している事は結局、参人の住まう街の成立なのだ。これが無事に達成されるまでは、余計な事はしたく無いというのが本音だ。それに、参人がという話であれば、まだモリビトの移住が決まっていない。これはシルバに正式に相談しなくてはならないのだ。
「ユズよ。竜宮都市の法について相談がある。今から時間はあるか?」
私のタイミングを見計らったかのようにシルバに声をかけられた。
「丁度良かった。私も相談してがあるんだ。離れ島にでも行く?」
シルバは軽く頷き、船のある方向へと歩き出した。
何かと中央島で話や協議をする事が多かったが、ウミビトの制御施設に加えて、頭上にはヤマビトの石塔まであるので、ちょっと落ち着く場所が無くなってしまった。そこで、何処か無いかと探していたら、家を一軒建てたらそれで埋まってしまうくらいの島の切れ端を見つけたのだ。ここでの島とは、ウミビトが海底の岩をくり抜いて謎技術で成形したボードのような揺れない浮島なのだ。用途によって裁断したりするので余りが出たりする。その余り物を避けておいてもらい、今は個人的に使っているのだ。
余り島なので、区画整理の邪魔にならないように都市の端っこに置いてもらった。なので、ウミビトの船で高速移動しても15分はかかる場所にある。丁度、車で15分という感覚の遠さだろうか。
離れ島にはそこそこ大きな白樹は一本だけ生えており、木陰にテーブルと椅子が数脚あるだけだ。
「何か飲むか?」
「いつもので」
二人してテーブルに座ると、頭上の枝から蔓の絡んだ液体入りカップがスルスルと降りて来る。私のいつものはブランに言ってレシピ再現してもらったコーヒーだ。最初は普通に白樹果を食べたり、ジュースにしたりして飲んでいたが、もっと軽い物をと追求していった結果、コーヒーに到達したのだ。
「それで相談とは何だ? ユズから話すがよい」
「いや、そろそろ本格的にモリビトの移住者も募りたいと思ってね。ビシムに頼んだ第一弾は失敗に終わったんだから、次の手を考えないと」
竜宮都市の場所が決まり、ウミビトの移住が確定した時点で、法国でビシムに移住者を探してもらう活動はしていたのだ。しかし、結果は失敗だった。今さら法国を出たがるモリビトは、そう居ないのだ。これはヤマビトと同じであり、わざわざ国外に行くメリットが特に無いのが大きい。それくらい参人の国は進歩しきっているのだ。
「我も考えはしたが、今のモリビトを呼ぶ理由を新たに作り出す事は難しいと感じる。そうなれば、やはりブランの案を受け入れるしかないだろう」
「うーん。ブラン案はねー。ちょっとなー」
ブラン案とは、法国内に居る吸血鬼の戦闘訓練の場所として竜宮都市を提供するという物だ。吸血鬼の戦闘相手にウミビトを設定する事で、新たな可能性を見出すのだと言う。
ちょっと余りにも人体実験過ぎる上に物騒極まり無いので、一発NGにしていた。
「懸念は理解している。そこで都市法の観点からも一考してみた」
「それがシルバの相談事?」
「そうだ。まず、法の基礎であるが、一番多種族を内包している魔国法が良いというのが我々の意見だ。魔国法はヤマビト以外の生命を尊重し、肉体精神の破壊を厳しく罰する。このヤマビト以外という条件を除外してしまうのが、この都市の法として最適という考え方だ」
魔国の法は良く知らないが、魔国が多種族国家として平和に成立しているという事実は知っている。実績としては申し分無い。それにしても、ヤマビトだけ肉体と精神の破壊が許容されているのが、魔国らしいという感じだ。
「なるほどね。魔国法基準ならば、吸血鬼とウミビトが戦闘訓練しても、危険は避けられるし、この都市内では人体実験は起きない訳だ」
吸血鬼の話、以前は物騒だなくらいの印象だったが、前魔王からイドラとか言うモリビトのマッドサイエンティストの話を聞いて以降は、もやもやとした気持ちになった。
モリビトの参人思想、つまり次存在に以降する方法の模索が、新種を生み出す事であるから、モリビトは自身も含めて、現存種の維持という感覚は薄いのだ。
私の知るモリビトは皆、私の存在を尊重してくれる。むしろし過ぎる程だ。だから、私にモリビトへの恐怖感や無理解の感情は無いのだ。一方で種族間の埋めれられ無い認識の差異が実は存在しているのではと考える事もある。私の周りは皆賢い。故に高度な認知によって、私が内包されているだけであり、真の理解を私が得る事は無いのではとも思う。
願望ではあるが、理解と無理解の境界が種族差では無く、個人としての認知の差であって欲しいと思っている。
「一度試してみるのはどうだろうか。我々の目的はモリビトの誘致だが、本件の当事者は吸血鬼とウミビトであろう。草案を一時適応した上で、双方の意見を聞いてみる以外に方法は無いように思うぞ」
正にそうなのだ。シルバの言う言葉、展開する論理は理解出来る。合理的であり理性的なのだ。
「やってみて駄目なら次の手を考えればいいか。その方法なら後戻りは幾らでも出来るしね」




