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魔王様はお終い14

 前魔王に漫画を教える事になったが、何から教えたものか。私が二次創作の真似事しかした事が無いので、具体的に伝えられるテクニックが無い。好みの手本を真似る、これぐらいしか言える事が無いのだ。


「ユズカ氏、拙者やはり寄◯獣の続きが気になりまして、ただ、これ以上聞く気は無いのですが、拙者も似た物語を立てて続きを書いてみる事にしたのです」


 驚きが二つ。まず、私がやろうとした好みのお手本を真似るを既に実践している事。そしてもう一つは、エロマンガではなく、マンガを描く事を目指している事だ。


「漫画の創作としては正しい入りだと思います。そして最初は、性的な漫画では無いんですね」


 前魔王は、自身の長い金髪の一束を摘み、鼻の下に持ってくると口髭のように構えた。


「確かえろ漫画でしたか? 確かに拙者のこれまでの所業を考えれば、拙者がそちらに傾くのは、想像に易いですな。しかし、拙者はユズカ氏の手本を見て、漫画の方により強い快楽を感じました。時を止める筈の絵をもって劇の如き物語を動かすとは、単純にして誰も気付かなかった表現として驚愕したのです。故に漫画をまずはやってみようと思いました」


 この人は、冗談の塊のような存在だが、その裏には深い分析と柔軟な発想が同居している。天才タイプ、こちらに来て、特に参人から感じるのは圧倒的な才の存在だ。


「なるほど、そうでしたか。エロ漫画は確かに漫画の一つの形に過ぎないです。漫画自体に興味を持ってもらって嬉しいです。まずは例の漫画の続きの話を聞きたいですね」


「では、まずこちらをご覧下さい」


 前魔王が、私達の間にあるテーブルに何か紙のような物を出現させた。紙には何やら設計図のような記述が見て取れる。


「これは物語の設計ですか? しかも絵に起こす用に場所や人物の造形がまとまっている?」


「一旦は作り方が分からないので、歌劇の設計を基本に物語を構成してみたのです。また、あの漫画の続きを描くにはユズカ氏の故郷の情報が今以上に必要でしたので、拙者の知る範囲で似た状況の地域がないか選定しました」


「これは、もしかして聖王国ですか?」


「そうです。聖王国はモリビトによって密かに管理されている非術者が集められた国です。情勢は安定しており、国民の膂力平均も非常に低い。そんな場所に影の管理者から意図的に外界生物を混入させらたなら、漫画と同じ事になりそうではないですかな?」


 聖王国は確かに他の国と比べると一般市民の生活は安定していた。市民に術が無いからこそ、それ起因のいざこざは無かったし、皆、仕事に集中していた。仕事をしていれば食うに困らないし、仕事がそもそもあった。

 私と聖王国の社会構造は全く違うのだが、状況だけ見ると似ていた。特に市民の認識が似ているのだ。


「外界生物の混入というのは、過去にあった事なんですか?」


「いえ、聖王国でそのような事はありませんでしたな。危険地帯も地下に封印して管理されていると聞きます。モリビトの目的は多数種の自然進化、人為的な干渉は出来るだけ避けるでしょう。ただ…」


「ただ?」


「モリビトの中には過去に人為的干渉を推進した人物が居ましたな。その名は確か、万進のイドラ。次存在に移行する為に、人工進化を研究した者です」


 法国に居た時も、その後もそんな名前のモリビトは聞いた事は無かった。


「居たという事は既に?」


「察しの通り、イドラは自身の研究の果てに死亡したと聞いています。吸血鬼や屍鬼といった種はイドラが創り出したそうです。外界の環境で生物を人工進化させていたそうですが、最期は外界独自の生物によって死亡したとか」


 話だけ聞くとかなりのマッドサイエンティストのようだ。シルバやビシムからも名前を聞かないという事は、何か訳ありなのだろう。


「なるほど、そのイドラとか言う人が聖王国を管理していたならば、あの漫画みたいになったかもしれないですね」


「まあ、現実にはそう上手くいかないでしょう。生物を特定目的で制御する事は存外難しい。外界にも他種を取り込み、自分達の物にしてしまう種が居りますが、そんな物を聖王国に撒けば、数日で壊滅してしまうでしょう」


 なんか興味のある情報が出たな。


「因みにその外界生物はどうやって多種を取り込みのですか?」


「おや、興味ありますかな? では参考までにですが、それは目に見えない微小な生命体の集まりなのです」


「キノコのような生物という事ですか?」


「茸が微細生物の集合である事をご存知だとは博識だ。確かに外界のアレは茸の性質に似ては居ます。ただし、一番違うのは生きた生物の中で増殖して、その生物を乗っ取ってしまう事です」


 菌類というよりはウイルスのような物のようだ。


「仮に人が乗っ取られるとどうなりますか?」


「恐らくは当人に乗っ取られている認識は無いでしょう。見た目も変化無く、ただ、生命樹の高次化が早く進むという研究結果もあるそうです。つまりは生物として強化される、ただし生物としての寿命を早く消費されるようですが。強くなり棲息域を拡大した宿主はある日突然に寿命が尽きて、黄色い泥の塊に変貌するそうです。泥は飛散して更に新たな宿主を求める。そうした恐るべき生物なのです」


 聞く限りではB級ホラーに出てくる宇宙生物みたいな物が実在するようだ。


「その生物はそこまで繁殖に長けているのに、外界から溢れないのですか?」


「外界とはそんな生物をもってしても生存が難しい場所なのです。簡単に言えば天敵が無数に居るのです。仮に黄色い泥が湖の如く集まっても、積乱雲に棲む巨大生物が雨のように触手を降らせて、全て捕食してしまうのです。巨大生物は乗っ取らない構造を持っているようで、地面に集まり逃げる事をしない黄色い泥を好んで狙うようですね」


 こう何か無限に興味の出る情報が出てくるな。テレビでやっているディスカバリー系の番組くらい引きがある。


「外界って凄い場所なんですね」


「ユズカ氏、今は拙者が教えを受ける番なのですぞ!そこの所をお忘れなく」


 どうやら、私の興味は完全にバレていたようだ。


「分かりましたよ。これぐらいにしておきます。漫画の話が先ですよね」


「そうです。拙者の設計した物語がどうなのか評価頂きたい」


 紙の上に書かれた設計はよく出来ている。恐らくはこちらにある歌劇というものの、ストーリーを伝え技術は結構進んでいるのだろう。だから、分かり易い構造だし、共感を得やすいエピソードが用意されている。


「物語の設計を見る限り、私が指摘出来る隙が全く無い程に良く出来ています。ただし、漫画はそれだけでは完成しません。主人公の見た目と性格、これをキャラと言いますが、キャラの魅力が足りていないように感じます。物語の設定上は不気味に成らざるを得ない存在でも、主人公側ならば読者に好意を抱かせるようにしないといけません」


 前魔王は前のめりになって自身の書いた設計を確認した。


「ユズカ氏。しかし、自身の体に巣食う仇敵の如き存在に好意を持たせるのは不可能なのでは?」


「あの漫画原作の寄生生物は、読者に大人気ですよ。つまり漫画ならば実は可能なんです。この設計には物語を面白くする事件は沢山ありますが、キャラに好意を集める為の親近感や日常が足りていません。それを無理無く補う事が出来れば、これは漫画になるでしょう」


 偉そうな事を言ったが、前魔王の設計が良すぎて指摘出来る箇所が全く無くてドキドキだったのだ。

 それっぽい事が言えて何よりだ。

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