十話「裏切りと明らかになる黒い影」
私が天井の声がするのかと期待して待っていたが、聞こえたのは三発の銃声の音と悲鳴だった。後ろを振り返ったら理沙さんを含め三人倒れていた。
「思い出したよ。俺が殺したかったのはお前でなくても良かったんだよ。誰でも良かったんだよ」
茶色いコートの男は私の顔を見て銃を構えている。今にも引き金を引きそうだ。
「ちょっと待ちな」
女性の声がした。そこにいたのは小宮さんだった。
「この子をまた救うことになるとはね。正確に言うと違うか」
「お前は俺と刺し違えて死んだ女だったな」
「このナイフはずっとけんかして連絡が取れなかった私の友人だった……荒井理沙、今あなたが撃ち殺した彼女が自殺に使ったナイフなのよ。彼女がくれた私の最後の贈り物として危険を犯してでもお守りに使っていたのよ。それをあんたみたいなクズの塊りでしかない通り魔に使うはめになるとはね」
小宮さんは男に向かって刃物を向ける。しかし銃声と共に彼女はその場に倒れたのだ。
そうだ、私も思い出した。死角で見えない電柱に隠れていた彼に気付かずに坂を上がってきた私は殺されたのだ。そのときはミントガムを食わなかった。ただ普通にそういう気分にならなかったのである。そして後ろを歩いていた小宮さんはナイフで彼と刺し違えたのを見えてから私は意識を失ったのだ。
「どうやら思い出したようだな、君も。そう、俺がお前らを殺した……っておい、鉄パイプを捨ててズボンのベルトを取るなよ。俺は男好きじゃねえぞ。それともそれがお前の死に方か」
「黙れ。この裏切り者が」
彼の言葉はあながち間違っていない。最後のミントガムを口に含み噛み砕く。銃声と共に銃弾が飛ぶ。私はベルトでそれを払う。あくまで奇跡的に。私自身当たっても良かった。この男を殺せるのなら。彼が言った言葉の中で間違いが一つある。
「おい、貴様。ベルトで銃弾も銃も飛ばしただと。ならばナイフで……おのれ、小宮っていうあの女め。俺のナイフを持ってやがる。くそ、俺が悪かった」
《そう、間違っていたのは……》
「私じゃない。死ぬのはあんただ。そこを間違えたあんたは……」
彼の首に留め金具に通した輪っかを作ったベルトをかける。ベルトを止めるための穴を通過させ左手で親指と人差し指でそれを挟む。右手でベルトを引く。
彼は声にならないが口を開けている。左手に首の脈と汗が手に伝わってくる。
「ここで私に殺されるんだ」
思いっ切り力強く縛る。三分ぐらい経った頃、彼の脈が止まった。力を弱めベルトを素早く彼から外す。彼は口も目も開いたまま足を前に強く倒れ込んだ勢いで全身を床に付け倒れ込んだ。そして消えていった。彼だけじゃない。この部屋にいた者、全て消え去ったのだ。ガムを口から捨てる。ここに来て史上最高に静かな部屋に陽気な声が鳴り響く。
『あら、またあんた一人なの。さすが奇跡の人ね。まぁいいわ。ひとまず上に上がりなさい。詳しい話はこれからよ。もちろん逃げたら消すわよ』
私は初めて人を殺した。これが殺人の欲求なのか。もし生き残れたら逮捕されて死刑になるのだろうか。それでもいい。自分の生きていた証が残せるのならそれでいい。あぁ、腹が減ってきた。陽気な声の口調が変わった気がするが気のせいだろう。頭が回らない。言われた通りに階段を上がる。そういえばあの時も誰かと階段を上ってきたような……いや、一人で何かと戦ったんだ。




