EXP.56 雨のち晴れ その3
栗キン選手の右側。切り裂かれ崩れる瓦礫の向こうから、耳が隠れるほどの黒髪の全身黒ジャージに隠蔽を纏った男が現れる。
「トーマ……」
栗キン選手の口から漏れた言葉に男は如何にも嫌そうな顔をしていた。
「テメー……身体ん中に防壁張りやがったな」
トーマ選手の右手にはシンプルなデザインの鍔無しの刀が握られている。
「おい、ルーキー……。コイツを殺ったら次はお前だからちょっと待ってろ」
そう言われて大人しくしてる人はいないと思うが……。
今にも振り下ろそうと刀を挙げたところで、何処からともなく声が聞こえる。
「やっと見つけたぞ、トーマーッ!」
「チッ、メンドクセーのが来やがった……」
女性の様な高い声の主人を見ると、二丁のポンプ式の散弾銃をベルトで交差させ両肩にかけた青色ジャケットの人物が物凄い勢いで迫っていた。
トーマ選手がそちらに気を取られている隙に少し先の建物に左手を突き出す。
掌に鉛色の球が現れるのを確認してから口を開く。
「鎖状」
球体から現れた尖った錘が勢いよく建物の壁に突き刺さる。鎖を球体に巻き戻し、壁までの距離を詰め鎖を消す。
そんな僕を逃さまいとトーマ選手が僕の着地地点を狙って刀を構える。
『一閃』
「飛翔」
左腕を地面に向け唱えると、掌から風が吹き身体が宙を浮く。タイミングをずらして着地した事で刀から発せられた斬撃を見事に躱す。
二発目を放つべく再び構えたトーマ選手に青ジャケットの女性が右の銃口を向ける。
「くたばれー!」
弾がばら撒かれ壁や地面が抉られる中、栗キン選手とトーマ選手が円形状のエフェクト……防壁を張って身を守る。
目を凝らすと少しボサボサの黄髪を揺らし、白い棒の様な物を咥えた女性が口角を上げながら左手で散弾銃のポンプを押す。
「滋賀、いつもいつも……俺の邪魔しにくんじゃねーよっ」
「今日こそ勝敗、決めよーぜ!」
「人の話を聞けっ!」
ニッと笑いながら、滋賀選手は引き金を引いた。
…
【寺戸 視点】
「寺戸、見猿が接近してる」
「了解っす」
ちょうど認識できる距離に来ているが、物陰に隠れながら移動されては狙撃できない。
「はあ……『Runner』か……」
「頑張って、寺戸くん」
耳に落ち着きがある声が聞こえる。
「たぶん俺……生きてられなさそうだからな〜。雨乞、俺が釣りするからやっちゃってくんない?」
雨乞は暫く黙っていたが、声が聞こえ出す。
「それじゃあ……寺戸くんも巻き込んじゃうよ」
「いいよいいよ、てかお前良い奴だな」
「あ、ありがとう……」
彼女の言葉を耳にしながら至福の時を過ごし、最後の仕事をすべくスコープを覗いた。
ご意見ご感想お待ちしております。




