EXP.137 銀髪伝説 その10
「なるほど……万が一ヤスイさんがロストしてもスノードロップさんが無事なら問題はないんですね」
「その通りだとも。だが、裏を返せば、二人ともロストした場合ホワイトワールドは壊滅的な状態に陥ることになるんだ」
「全くもって保険の意味が無い話さ」
シアさんはヤスイさん相手だとなにかと突っかかっていくけど、昔なにかあったのかな。
「保険とか言う癖に避難させるのが遅いんじゃないかい? これでスノーがやられた日にはキ・ミ・ノ長話のせいだと私は思うよ!」
「それこそ護衛も無しに彼女を脱出させる方が問題が生じると思うがね。ギルドからある程度離れないとログアウトもできないというのに」
二人の口論が激しくなるのを眺めていると、僕達が使った非常用とは違う扉からノックが聞こえてくる。
「どちら様かな?」
「すいませぇん……リアルで忙しくてぇ……」
扉を開けながら恐る恐る入って来たのは、バイト先でお世話になっている『Seeker』第3部隊のボケ担当であるランさんだった。
「いや、急な呼び出しに応えてくれてありがとう」
「そう言ってもらえると……あれ? ユウキくん。どうしてここに?」
「えっと、まあ、かくかくしかじかでして……また今度お話します」
気付くと、僕がランさんと話している間にヤスイさんが扉付近に移動している。
「さて。我々はこれから屋上に移動し、反撃に出るが……君たちはどうするかね?」
「私達も行くよ。今から下に行くより上のほうが安全だろうしね」
先程から話を聞く限り、現在の状況では下に向かうのは危険なようだ。にも関わらずスノードロップさんと林を逃す必要があるのだろうか?
最悪の場合には敵が来るかもしれないが、それでも一緒にいたほうが安全なのではないのだろうか?
「さあ、行こうぜ、ユウキ君」
シアさんが扉に向かって歩きながら僕に声をかけてくれる。
聞くなら今しかない。そんなことを思い口を開く。
「あの、シアさん。どうしてスノードロップさんたちを避難……いや、下に向かわせたんですか?」
シアさんは、僕に背を向けたまま歩みを止める。だが、答えたのはヤスイさんだった。
「待ってくれ、ユウキ君。彼らに指示したのは僕であってシアじゃーー」
「つまり止めなかったんですね」
「それは……」
ヤスイさんが沈黙すると、シアさんが振り向き口を開いた。
「今回の敵の陣形は六カ所からの一斉進行。最初は施設の破壊や陽動なんかも考えた。でも、分断する数が多すぎる。なにか他の考えがあるんだろうと、私も思ったよ」
一度話を止め、シアさんは近くにあったテーブルに腰掛けて再び話し始める。
「その結論を出した時点で、私はヤスイがやられるだけだと思った。だから特になにかしようとは思っていなかった。だけど、状況は変わってしまった」
スノードロップさんが訪問したから。
「その後、再考して私が導き出したのが『包囲網』だ。標的である二人の行動範囲を狭めて、必ず出てくるであろうスノードロップをLOSTさせるのを目的としたものだと私は結論付けた」
「な、ならシェルターやここにいたほうが安全なんじゃ……」
「シェルターへの通路は既に使えない。それと、君は知らないと思うがここは狙撃されたんだ。ギルドに張られた防壁が防いだが、二度目はないかもしれない」
確かに階段を登っていた時、地震のように建物全体が揺れているように感じた。
「だからって二人を囮に使ったんですか……」
「そうさ。管理者が二人とも倒れてしまっては保険の意味がないからね。今の現状では最善の策なんだ」
最善の策。確かに僕もそう思うし、この場でこれ以上の案が出るとも思えない。
それでも、
「ヤスイさん、ここの窓って割れますか?」
「君では……無理だろう。だが、できる人物ならいる」
ヤスイさんの視線の先にはランさん。
ランさんに力を貸してもらおうとしたその時、いつの間にか近づいていたシアさんが僕の手を握る。
「待つんだ、ユウキ君。君が行ったところで二人は助けられない」
そうなのかもしれない。
その通りかもしれない。
わかっては、いる。
でも、仕方がない。
「それでも、僕は、二人を助けに行きたい」
僕はそう思ってしまったのだから。




