EXP.115 ブルートガング Ver.2
マキナさんに剣を預けて数日、その間も安物の剣で特訓は怠らず今日もつじきり先輩に打ちのめされていた。
「ぎっ……」
「ん、どうしたユウキ?」
「ーーかはっ……首切られたら喋れませんよ……」
刀を鞘に戻しながら首を傾げるつじきり先輩に愚痴を零しながら傷の癒えた首元を押さえる僕。本日、八敗目の勝負をもって本日の特訓は終了らしい。
「すいません、僕の都合で朝から付き合ってもらって……」
日が昇り始める早朝、現実時間においても六時から七時といった日の昇っているであろう早い時間帯。
「う〜ん眠い……でも、弟子の頼みじゃ仕方ない」
「そう言ってもらえると、ありがたいですけど……」
「これくらいしか出来からなー。それに、今日の解説はゲストでサテライトの領主が来るって聞いたしな」
笑顔で肩に腕を回してくる師に苦笑しながら頭を下げる。
「心配しなくても、今日の試合はちゃんと見に行くつもりだからな」
「つもり……なんですか?」
「冗談抜きでヤスイに捕まるかもだから……」
少し声の調子が落ち納得せざる得ない解答に苦笑していると、
「お前は私の弟子だからな、負けるわけがない」
肩に回していた腕を解き満面の笑みを浮かべながら僕の背中を叩くつじきり先輩。
「先輩の期待に応えてみせますよ」
「お、少しは言うようになったな。こいつめ」
つじきり先輩の右拳にぐりぐりと軽い痛みを与えられるが、僕はそれどころじゃない。
確かに頭がちょっと痛いがそれ以上に問題は僕の頭を固定する為のつじきり先輩の左腕と胸、そして顔に当たる柔らかい感触……。
「あ、あの……つじきり先輩……」
「ん、どうした? そんな顔真っ赤にして」
「その、ですね……む、胸がですね……当たってるんですが……」
徐々に小さくなる僕の言葉を最後まで聞いたつじきり先輩は、薄くやらしい笑みを浮かべる。
「当ててるんだぞ?」
「ふぃうっ!?」
「ぷっ冗談冗談、本当に可愛いなお前は……ほれほれ」
そう言って胸に顔を埋めさせるつじきり先輩、面白がられ理性と本能の間で葛藤する僕なのだった。
…
つじきり先輩から逃れ店にたどり着く頃には大分日も昇っており、相手を待たせていないかと心配しながら扉を開く。
「いらっしゃいませ〜あれ? ユウキさん、どうしたんですか?」
もう見慣れたロングスカートタイプのメイド服に身を包む少女、の様な見た目の少年ーー林が今日もバイトに励んでいた。
「ちょっと待ち合わせしてて……ギルさんは?」
「ギルさんでしたら奥のキッチンにいますよ」
林に礼を伝えカウンター奥のキッチンに顔を出すと調理中のギルさんがこちらに気付く。
「よお、ボウズ。久しぶりだな……客の多い時間で悪かった」
「いえ、それより何か手伝いましょうか?」
「そう言うと思って場所は用意してあるぜ」
親指を立て満面の笑みを浮かべるギルさんの示した方向を見ると、皿が山積みになっている流し台があった。
…
「ありがとうございました。またのお越しを〜」
「よし、これで最後の客だな」
店を出て行く最後の客を林が見送る。そんな光景が連想させる台詞をキッチンで聴きながら、最後の皿に手を伸ばす。
「ユウキさん、お疲れ様でした。手伝ってくださって、ありがとうございました」
そんな僕の元に現れたのは休憩中の林だ。こんな事でも礼を言う林に、律儀だな〜などと思っている僕。
「いやいや、これはギルさんに嵌められただけで……」
「店長っ!」
「すまんすまん……ボウズにも給料渡すからよ、それで勘弁してくれ」
そんな言い訳で林を丸め込むギルさんに僕は、部外者の役職を用意しておく辺りがシアさんの友人だな……と感じているのであった。
「おや、待たせてしまったかな?」
キッチンから店内に移動する僕と林、そこに丁度カウベルの音と女性の声が聞こえ待ち人が現れる。本日も前回と同じ服装の女性ーーマキナさんだ。
「やっと来たか、マキナ。お前を待ってる間にボウズは店に貢献したぞ」
「生憎私は鍛治スキル以外はど底辺だよ。彼が先で良かったじゃないか」
「そーかい」
胸を張りながら自身の家事スキルの低さを自慢するマキナさんと、それを相手する事を諦めるギルさん。ちなみに余談だが、マキナさんの胸は張れるほどには大きい。
「やあ、君と会えるのが楽しみで昨夜は全く眠れなかったよ。その結果、寝坊してしまった……私の悪い癖でね。申し訳ない」
「いえ、あまり待ってませ……随分と働かされてましたし……時間が経つの早かったですから」
視界の時計を確認するともうすぐ昼前と大分時間が経っていたことに気付く。
「そうか……それなら良いんだが。まあ、本題に入ろう」
二人でカウンター席に座り僕が飲み物を注文している間にマキナさんがメニューを操作し現れたのは長方形の木箱。開けるように視線で促され木箱の蓋に触れる。
「わあ、綺麗……」
「なかなかの品だな……」
「私がやっているんだ、当たり前だろう」
暗い中でも存在を主張した白銀、光る鋼に見惚れた事を今でも鮮明に覚えている。そして今、手にした白金は剣の美しさを僕に教える。
「マキナさん、ありがとうございました……お代はギルさんから貰ってください」
「何だと!? どうして俺がボウズの代金をマキナに……」
「え、バイト代が出るんじゃ……」
僕の質問にギルさんは首を傾げるが林の視線に気付いた途端に首を上下させる。
「そんな訳で……マキナさん、集るならギルさんにお願いします」
「やはり君は良いお得意様だね」
両手を広げ喜びを全身で表すマキナさんと肩を落とすギルさん、そんな二人を眺め苦笑する僕と林。
強烈な音がする。
和やかな店内の雰囲気がアラームに掻き消されていった。
大変申し訳ありません。
こんな状態が続いていて、すいません。
もう少し続くと思いますが何卒!
ご意見ご感想お待ちしております。




