EXP.114 用件と愛剣
『滝登り』
眼前に水が迫り目を瞑ると足が地を離れる。目を開けば身体が水滴と共に宙を浮いており、腰から地に落ちると同時にアナウンスが響いた。
『ユウキ LOST 4ー6 勝者 時雨』
…
「ふぅ……なかなかの物だな」
「そう言ってもらえると戦って負けた甲斐があります」
「まさか、わざと負けたのか!?」
「違いますよ……」
真面目な顔でボケてくる時雨さんに少し驚きつつも控えめにツッコミを入れ、アルトニアさんと合流する。
「随分と派手にやられたな」
「最初から結果はわかってたんじゃないんですか?」
「まぁな……それで、感想はどうだ時雨?」
時雨さんは先程の会話の疑念をブツブツと口にしていたが、話を振られた事に気付くと何故かドヤ顔で口を開く。
「そんなにオレ様の事を褒めても何もやらんぞ。まあ、どうしてもと言うのなら一万程度の課金を許さん事もないが……それでは貴様らの為にならんからな。課金は勧めないぞ」
「ーーな、ツンデレだろ。感想は関係ないが」
「ははは……」
ボソッとアルトニアさんが放った言葉に苦笑しながら時雨さんを見ていると、視界にメールのアイコンが映り込んだ。
…
「オレ様とコイツは残るが……。本当に行ってしまうのか?」
「申し訳ないんですけど急用が出来てしまったので、また今度お願いします」
どこか寂しそうに尋ねてくる時雨さんに頭を下げながら答える。
「ふむ、ならば次会うのは……戦場になるだろうな」
「戦場……ですか?」
「時雨が言ってるのは大会の事だ。そうだろ?」
当然とでも言いたげに頷く時雨さんとその姿に呆れつつも微笑を浮かべるアルトニアさん。
「次の試合相手ってことですか!?」
「そうだ、だから時雨をお前と戦う様に促したんだ」
「貴様、オレ様を騙したのか!?」
アルトニアさんの肩を掴んで大きく揺する時雨さん。しかし被害者であるアルトニアさんは、どこ吹く風といった感じだ。
「ユウキ、今のうちに用件を済ませに行くといい」
「あ、ありがとうございます……?」
時雨さんに気づかれる前に別れを告げ、僕はメールの発信者の元を目指し走り出した。
…
ギルドから少し離れたカフェ、走ってきた僕に手を振るのは待ち合わせしていた女性だ。いつもとは装いが異なり白のワイシャツに黒のロングスカート、髪も背後でまとめられ顔全体が現れている。手招きされ近くのテーブルに座ると、店員に手っ取り早く注文した彼女が口を開く。
「素材集めに手こずっていてね……やっと君の武器を強化できるよ、ごめんね」
「いえいえ、やって貰えるだけでも十分です。ありがとうございました、マキナさん」
「君は凄く低い姿勢から話すね。直したほうがいいよ、シアみたいに上からよりは良いと思うけど……」
少し困り顔のマキナさんに頭を下げつつ本題に入ろうとして、いつもと雰囲気が違う事が気になったので聞いてみる。
「あの〜本題に入る前に。ーー今日は雰囲気……いや、隈が余り無いように見えますけど……長期休暇でも取ったんですか?」
「ーーぷっ、あっはははははは」
そんな僕の質問にマキナさんは少し目を瞬かせきょとんとした顔をしてから小さく吹き出し笑い始める。
「え、僕なんか変なこと言いました!?」
「いやいや、君の質問が余りにも……ふふ、おもしろくてね。つい」
「僕そんなに変なこと言いました!?」
何かのツボに入ったのか再び笑いだすマキナさんと、やらかした内容が分からず内心焦る僕の話は当分進むことが無かった。
…
「雰囲気がいつもと違うのは……いつも会う時がオールとかの後だから、かな。ま、その話は置いといて……この剣を預かるけど前回の要望通りでいいんだよね?」
「はい。あ、あと料金とかって……」
「料金は完成してから……と言いたいところだけど今回はタダって事になってるからね。それに私としても未知への挑戦だからね、成功するとは言い切れないよ」
クリエイターとして経験にない事をするとなれば必ず好奇心が強いだろう。しかし失敗を恐れない者も必ずと言っていいほど居ないだろう。
それでもマキナさんは僕の依頼を受けてくれた。シアさんとの口約束を守る為に。
「やっぱり申し訳ありません。幾らか払わせてください」
「え、私としては嬉しい話だが……シアが黙ってはいないだろう?」
「そこは……僕が上手くやります。なのでお願いします」
頭を下げ頼み込む僕に対してマキナさんは頭を掻きながら口を開く。
「わかった、私の負けだ。でもバレたらシアを私の所に来させる事、それが条件」
「わ、かりました……」
「嫌そうだね、でも私も君を見過ごすのは余り好ましくない。ただそれだけさ」
相手の意見にも一理あるので引き下がる僕にマキナさんは「でも……」と言葉を続ける。
「君は良いお得意様になりそうだからね。良い顔をしておきたいと思った……て言うのが本音だよ」
「……そうですか。ーーあの、どうして急に本音なんか教えてくれたんですか?」
「良い質問だね。いや〜君には不甲斐ない姿ばかり見せているからね、ここらで挽回でもしようとお洒落までしてきたんだが……」
そこで言葉を区切りこちらの目を見つめるマキナさん、僕が耐えられなくなり目を逸らすとマキナさんは続きを話し始める。
「どうやら私の勘違いだったようだ、君はそんなことを気にする様な奴じゃない」
その言葉を聞き顔を上げるとマキナさんは微笑を浮かべ、こちらに語りかけてくる。
「私にはもう無い、その純粋さを大事にするといい。そうすれば必ず良い事があるよ、ユウキ君」
「あ、ありがとうございます……」
「それじゃあ私は次の用件があるからここら辺でお暇させてもらうとするよ」
マキナさんは微笑を浮かべたまま立ち上がり歩き出してしまう。それを呼び止めようと口を開こうとすると、
「あ、注文した物は私の分まで美味しく頂いておいてくれ」
「わ……ありがとうございました!」
わかりました、などと反射的に告げようとした言葉を感謝の一言にして口にする。
「あ、君にもう一つ言わなきゃいけない事があった」
此方に振り返る彼女は満面の笑みで僕を揶揄うように、優しく教えるように言葉を紡ぐ。
「女子の努力を褒めて上げる事、これ今度までの宿題ね」
それだけ告げると彼女は軽やかな足取りで人混みに消えて行ってしまった……。
月一投稿ギリギリで申し訳ありません。
来月もこんな感じになってしまうとは思いますがお許しください。
ご意見ご感想お待ちしております。




