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ビーシュリンピア  作者: クラウンデイジー
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薬草園のヤン

リューグがお世話した鉢植えを引き取りに薬草園のヤンが来ます。

水色魔石の作成は順調に進んだ。


リューグの運んできた壺の中には庭の中央にある井戸から汲んできた水が入っている。この井戸は先祖代々、植物を育てたり研究したりする時に使う特別な井戸だ。ごく稀に王医様から頼まれて治療用に提供することもあるが、生活水として使うことはない。周囲の町が砂漠化し、下町の井戸も枯れたところもあるが、この井戸の水は昔と変わらず潤沢で冷たい。


地下にある調合室は外の炎天下の気温に比べれば涼しいとはいえ、じんわりと汗をかく程度には暑い。しかし、昨日、リューグが汲んできた井戸の水は汲みたてのように冷たく、セイリアは壺の水を掬う度に手先がかじかんでしまい、魔石作りが終わるころには手が真っ赤になっていた。


それでも、一応、昨日の反省をしたセイリアは午前中には全て作り終えることが出来た。。


「父さんが昨日半分以上作ってくれていたからっていうのもあるけど、今日は楽勝だったわ。私が本気出せばこんなもんよ。うふふん。」


セイリアはルンルン気分で調合室に出た。地下にある調合室を出て左に曲がると長い階段がある。調合室では時に実験もするのだが、初めての作業では小爆発を起こすこともある為、地下一階とはいえ深いところにあるのだ。昨日、この長い階段を井戸の水の入った重い壺を持ちつつも涼しい顔で何往復もしたリューグが、日頃から力自慢したがるのも頷ける。そして、その長い階段を上がったところが家の玄関だ。ちなみに、玄関の横にある地上の部屋には、庭に向けた大きな窓のある台所兼居間があり、「調合の合間の食事の為にいちいち上がってこなければならないのは、とても面倒くさい」とセイリアは常々思っている。


暗い地下の長い階段から出ると、ドアの小窓からギラギラと照らす光が玄関に差し込んでいた。


「うわっ、暑そ。」


眩しさに目を細めながら玄関のドアを開けると、目の前には右側に緩やかなカーブを描く細長い庭が広がっている。玄関より左、庭の中心を石畳の小道が門まで続いている。その両脇に、預かりの鉢や植木が所狭しと並べてあり、庭の周囲を囲むようにポレストとリューグが育てている植物が植えられている。花もあれば樹木、雑草やコケもある。


リューグは庭の中央にある井戸の近くで昨夜に様子を見ていた鉢植えに水をやっているところだった。

よく見るとリューグの足元に誰かが屈んでその鉢植えを見ている。色黒の肌に明るい水色の髪をした男子だ。


「ヤン、いらっしゃい。鉢植えの引き取り?」


リューグの足元にいたのは王宮お抱えの薬草園の一人息子のヤンだった。ヤンの薬草園とはポレストの産まれる前からの付き合いで、薬草に何かあるとこの庭に鉢植えを預けに来るのだ。リューグと同じく成人し16歳になったヤンは最近、この薬草を届けたり引き取ったりする仕事で、頻繁に庭に顔を出すようになっていた。


「うん。そろそろ元気になった子がいるかなと思ってね。この間、預けた子たちのうち半分くらいと、その前に預けた子たちが引き取れそうだよ。思ったより早く引き取れる子もいてビックリしたよ。」


「ほほほ。リューグのお世話は凄いでしょう?」


セイリアが腰に手を当て自信満々に胸を張ると、背後からポンと頭を叩かれた。


「お前は人のことよりも、今日は真面目に働いたのか?不良見習いめ」


「お兄ちゃん、その言い方やめてよ。日々成長。大人への一歩を踏み出そうと頑張っている妹に言うべきは優しい励ましの言葉じゃない?もちろん水色魔石は作り終わっていますけど。」


セイリアはプリプリと頬を膨らませた後、得意げな顔になり胸を張った。


「たった一日真面目に働いたくらいで自慢するんじゃない。ほら、植物たちにも笑われてるぞ。」


リューグは植物たちとセイリアを交互に見て呆れた顔をした。


「俺には薬草たちが気持ち良さそうなのは分かるけど、笑っているかは分からないな」


ヤンは薬草に顔がくっつきそうなくらい近づいて耳も近づけてみたが何も聞こえない。気持ち良さそうに濡れた葉や花を天に向けているだけだ。


「笑うだけじゃないのよ。この間なんて、私この子たちに告げ口されたんだから。」


「それはお前がサボっているのが悪いんじゃないか。他のせいにするもんじゃない。」


「植物が笑う?告げ口する?聞いたことないぜ。お前たち変わってるな。」


ヤンは目の前の兄妹の会話に全くついていけず、かったるそうに立ち上がり、「お手上げ」といった感じで肩を竦めた。


「ヤン、それより、その薬草なんだけど。」


リューグがヤンの見ていた鉢を持ち上げ、花がヤンの目の高さに合うようにした。


「コイツ、ここが気に入ったからまだ帰りたくないって言うんだよ。どうする?」


「え?今度は鉢植えが帰りたくないってのかよ。うーん・・・一応、薬草が足りないって訳では無いから一つくらいならおいて行っても良いかな。それにしても、うちは樹木医にも時々預けたりもするけど、薬草が帰るのを嫌だと言ってるとか、初めて聞くぜ。」


「だろうな。ここが気に入ったというよりは、セイリアのことを気に入ったみたいなんだよ。薬草園に迷惑かからないようなら、もう少しだけ貸してもらえないかな。」


どこの部分を「だろうな」と返したのか、ヤンには少々疑問に思うところだったが、笑おうが喋ろうが意志を持とうが、理解できないところを今掘り下げても結局ついていけないので、とりあえず、言葉のまま受け止めることにした。


「了解。コイツの気が済んだら教えてくれ。はぁ。」


ヤンはなんとなく疲れた気持ちで一通り預けた薬草を確認し、元気になった30鉢ほどの薬草を荷馬車に積んだ。


「サボるなよ、不良見習い」


荷馬車に乗り込みながらセイリアの方に振り返り、色黒の顔から真っ白な歯をイヒヒと光らせたヤンは、16歳の成人男子というよりは16歳の悪戯坊主の顔だ。


「ヤンもね、油売らずに帰りなよ」


セイリアの憎まれ口にニヤッと返し、ガタガタと荷馬車を走らせヤンは薬草園へ帰って行った。


ヤンが庭から去ると、リューグは借りた薬草を調合室のセイリアの定位置の横に運んだ。


「変わってるのは俺たちじゃなくて、お前なんだけどね。もうしばらくよろしくな。」


鉢植えの葉っぱがさっきよりもピンとして緑が少し濃くなった。


帰るのを嫌がった薬草の今後が気になります。

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