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ビーシュリンピア  作者: クラウンデイジー
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兄妹の魔石開発

リューグは王宮へ行ってからのセイリアの様子を知り、安心ともに兄としての心配を抱える。だが、休みは少ない。そこで、兄と妹の二人は魔石開発に取り掛かることにした。

「父さんがいなくて良かったぁ。魔石の作り方を基本から間違えるなんて、見習いに戻されるところだったわ。」


セイリアは調合台の上に上半身を俯せにペターっと伸ばした。大理石に似た石で出来た台額に触れると冷たくて気持ちが良い。そのまま横を向きに姿勢を変えてリューグを見ると、捲られた袖から出発前よりも太くなった二の腕が見える。


「そういえば、まだ、言ってなかったね。お兄ちゃんおかえりなさい。随分と黒くて筋肉質になったね。」


こんなにダラけた格好をするのは久しぶりだが、


「あー、ただいま。お前は相変わらずだね。」


出発の後も変わらずにこうやってダラダラと過ごしていると思われた。ただ、リューグはすっかりセイリアのお兄ちゃんに戻り、柔らかい笑顔を返している。いつも長老が居てくれるし、三日に一度来る貴族と話も出来るが、やっぱり家族は違う。安心というのかは分からないが、肩や呼吸が楽な気がする。


「王宮では班ごとに分かれて仕事をすることになったんだ。今のところ、ヤンと長老のところのガイリーさんと貴族が数人。運ばれてくる土を調べる仕事だよ。自分たちでも土を運ぶから」


「なるほどね。」


良く見れば筋肉質になったのは腕だけでない。ふくらはぎも背中も一回り大きくなっているようだ。それにしても、ここにいた頃よりも日焼けしているのは何故なのだろう。リューグは朝早くから夕方まで庭で植物の世話をしていたので、ただ外にいるだけなら今までと同じはずなのだが。


「ねぇ、王宮はどんな感じなの?ここに来るお貴族様から聞いたところでは、お兄ちゃんの言うように班ごとに地下を掘る準備をしているけど、それだけじゃなくて問題があるって。水とか。」


リューグが答えてくれた王宮の様子はグレコリウスとオットーが言っていた通りだった。平民は全員入っても半分もスペース余るほど広い屋内訓練場に集められ、そこから毎日、各班の仕事への往復、食事は貴族から配られ、具合が悪い者や怪我人は王医チームに手当をしてもらえるとの話だった。毎日、安定した食事があり、何あれば医者の手当てを受けられるというのは平民にとっては贅沢なことだ。キツい仕事もあるが、平民は概ね王宮での仕事に今のところ大きな不満は無いらしい。むしろ、感謝しこの環境に家族を呼びたいと言い出す者いるくらいだ。ただ、


「王宮の庭は、元は芝生が敷き詰められた綺麗な庭なんだけど、ほかの植物が無いし大きな樹木も無い。要するに日影が一切無いんだ。だから、仕事中はこの炎天下から逃げ場が無い。だから、みんな焦げて真っ黒。」


リューグの笑顔からヤンのように白い歯がキラリンと光る。


「みんな、この暑さには慣れているから、それは良いんだけど。水は確かに困ったな。貴族と平民で同じ井戸を使えっていうんだ。平民だってちゃんと立場をわきまえているから、ちゃんと遠慮したんだけど、井戸が一つしか無いもんだから。」


「それで、貴族と同じ井戸を使わずに、水色魔石から水を出してもらえるように、貴族に、頼んだのね。」


「なんだ、良く知っているじゃないか。」


でも、一つ、オットーが言っていたのと違う点がある。


「でも、お兄ちゃん臭わないね。」


服はクシャクシャだが、清潔は保たれているように見える。


「お風呂と洗濯、どうしたの?水も無いのに。」


「帰る前に地下を掘る担当の貴族たちが屋内訓練場に引っ越してきたんだ。そしたら、水を出してくれる貴族が増えて、洗濯も飲み水もなんとかなるようになった。まあ、本格的に仕事が始まったら、そんな余裕はなくなっちゃうだろうけど。」


今は平民が里帰りするので、地下を掘る仕事は一時お休みで、その間に貴族の移動が行われているようだ。続々と到着した貴族に平民が水を頼み、一時的になんとかなっているのだろう。だが、平民が王宮に戻れば貴族たちにそんな余裕は無くなる。


「となると、やっぱり水色魔石もどきは急がなくちゃだわね。」


「あー、水はあるとだいぶ助かるね。屋内訓練場は上の方に小さな窓が数か所あるだけだから、空気が籠るんだよ。沐浴も出来ないと、酷い臭いぜ。」


「だろうね。」


次の朝、リューグは今までここで過ごしてくれていた通り、お日様が出る前に庭に出て門近くの端の方から植物たちの状態を確認していった。ベテランの庭師を大勢育てたベテランのベテラン庭師の長老はさすがだ。地面には無駄な草は無いし、水加減も適当、日当たりを調整したのか、一部、植え替えられてた植物もあった。植物たちは一様に茎も葉も花弁もしっかりとして健康そのものだ。ただ、古くからある植物には分からないものもあったのか、見守られていたのか、放置されたのか分からないものもあった。


「長老に限って放置なんてあり得ないよな。この休みの間に聞きに行ってみよう。」


右回りに庭を一周して門へ戻って来た時、門前に馬車が停まった。馬車には御者しか乗っておらず、御者は一通の封筒を腰に下げた小さな布のポシェットから出すところだった。


「うちに何か?」


リューグは門から出ながら御者に声をかけると、そこに人がいると思わなかったのか、御者はビクンと御者台からお尻を浮かせた。


「王宮からセイリア様へのお手紙です。魔石の納品についてのご連絡なので、すぐに確認してください。」


御者は名乗りもせず御者台に座ったまま、リューグへ封筒を渡すべく腕を伸ばした。リューグは封筒を受け取り、すぐに中を確認すると、便箋を半分に切られた一枚の紙が入っていた。


―魔石の納品はしばし延期。魔石開発に精進されますようにー


差出人の名前も無い。


「あの・・・」


リューグが確認しようとしたところで、封筒の中身を読んだのを確認した御者が「では」と去って行った。


手紙を渡すと、朝食の準備をしているセイリアはあからさまに嫌そうな顔をした。


「誰なんだ?名無しの手紙をよこすようなおっちょこちょいな貴族は。」


「魔石を取りに来てくれる担当のお貴族様。グレコリウス様とオットー様という二人のお貴族様で、この手紙の差出人はその二人のどちらかで間違いないわね。魔石開発のことも書いてあるし。この感じだと、たぶん、差出人はグレコリウス様。オットー様なら記名は忘れるはずが無いし、きっと、甘い言葉も書かいてくれたと思う。」


なるほど、ポレストは自分で納品に行くかジェッソンが持って行っていたが、今、ポレストはいないし、王宮への招集後は人手不足でジェッソンもそれどころではない。それで、貴族直々に取りに来ているということか。でも、セイリアの話はここまでではない。語気を上げて更に続ける。


「だいたいね、グレコリウス様はここに来た時も名乗らなかったのよ。目はクリクリと大きくて可愛い顔をしているのに、いつも物凄―く偉そうなの。まあ、オットー様はオットー様でグレコリウス様とは違ったイケメンなんだけど、その素敵なお顔をキラキラに輝かせて、で、無理を言うのよね。」


「それは、大変だな。」


セイリアはセイリアで、一人で貴族二人を相手に頑張っているようで安心した。ただ、兄としては、仕事相手が、可愛い顔とそれとは違ったイケメンという二人の男性貴族、それに「甘い言葉も書いてくれたと思う」と聞いては心穏やかではいられない。ただ、貴族として変でもないと思うところもある。


「偉そうだの、無理を言うだの、貴族相手に随分な愚痴だな。そもそも、貴族は偉いし、平民に無理を言うのが仕事だろ。」


貴族は平民を守ってくれるが、平民に指示を出して仕事をさせるも貴族の仕事だ。


「それはそうかもしれないけれど、でも、なーんか、ムカッとしちゃうのよ。」


「グレコリウス様、に?」


「そっ!」


ちょっと話すだけの相手なら、そんなにムカつく話も無いだろうに、セイリアはそのグレコリウス様と何を話したのか、リューグはますます気になってきた。


だが、休みは後四日しかない。昨夜、セイリアが言ったように水色魔石もどきが早くに出来上がれば王宮での生活レベルが大きく変わる。貴族からの手紙にも「魔石開発に精進されますように」とあった。


「セイリア、納得のいかないことがたくさんありそうだけど、今は魔石開発を進めた方が良さそうだ。」


「はーい」


食後、セイリアはリューグに連れられて大人しく調合室へ向かった。


「さ、水色魔石から水色魔石もどきを作ってみよう。基本の作り方でね。」


黒光りする笑顔から白い歯がキラリン。


「お兄ちゃん、ヤンに似てきた。」


「それは嫌だな。」


リューグは急に真面目な顔をして、井戸の水の入った瓶を調合台に置いて、一つ、水色魔石を作った。それに倣ってセイリアも一つ作る。


「さ、これに手をかざしてみよう。」


リューグがそう言って先に自分の水色魔石に手をかざす。目を閉じてかざした手を握る。


「出来たかも。」


「見せて!」


開かれたリューグの掌には水色の丸い塊があった。全く透き通っていないが、色は均一。ただ、少し硬さが足りないのか、爪を当てると爪の跡が残った。


「握ってみよう。」


リューグはもう一度水色の塊を握り流しの上に出した。リューグも水色魔石から水を出せるので、これが同じ効果を持っているなら水が出るはずだ。だが、目を閉じて集中してみても水は出ない。セイリアも試してみたが同じだった。


「次は私。」


セイリアもリューグと同じ手順で水色魔石もどきを作ってみる。すると、リューグよりは硬く爪の後は残らないしっかりした水色の塊が出来上がった。これなら、と二人で順番に握ってみるが、やっぱり水は出ない。


「なんでかなー。」


「なせだろう。」


二人は二つの新作魔石を並べて調合台に肘をついて眺めた。もちろん、調合台にはレディサンが乗せてある。レディサンも新作魔石の方へ花弁を向けて少し頷くような姿勢になっている。花弁が黄色から黄緑色、水色と忙しく色を変えている。考えている時の特徴なのだろうか。


しばらく、ジッと眺めていると、レディサンが茎を伸ばし花弁を黄色に戻した。


「セイリア、この部屋の灯りは、灯りの魔石で照らされているのよね。」


「そうよ、レディサン。」


「灯りの魔石はお日様の光を溜めてから、井戸の水に触れると光るのよね。」


「そうよ。」


「じゃあ、その新しい魔石の素材の素材、水に浸けてみたらどうなるのかしら。」


レディサンの言葉にセイリアとリューグが目を合わせた。そうか。魔石もどきが完成できているなら、灯りの魔石と同じく井戸の水に触れれば水が出るかもしれない。それに、魔石に力を溜めるのが必要なら素材の大元である水に浸ける必要もあるだろう。


早速、小さな金属の器に新しい魔石を置き、瓶の中のドラゴンの井戸の水を一匙、魔石に垂らした。


すると、水色の塊からジワーっと水が湧いてきたように見えた。そのまま見守っていると、ごくわずかだが、器の水の量が増えている。スピードはごくゆっくりだが新しい魔石から水は出ている。


「リューグ見て。分かる?少しだけど、水が出てる。成功じゃない?ね、だよね。」


「確かに、ほんの少しだけど、水が増えている。成功したのかな。」


リューグが新しい魔石を器から持ち上げると、濡れているうちは、ゆっくり、一滴、二滴、水が垂れた。だが、魔石が乾くと水が出なくなった。そして、再度、器に戻すと、水がジワーっと湧いてきた。


「この井戸の水だ。この魔石は井戸の水に触れていれば水を出し続けてくれる。水が無いところでは水が出ないんだ。」


「やった!成功!!」


セイリアとレディサンが大きな歓声を上げた。レディサンの花弁はオレンジ色になり、ユラユラ楽し気に揺れているし、セイリアは調合台の周囲を踊り回っている。


「水の量は改良の余地ありだけど、そうだ。成功だ!」


リューグも両手を上げて「よし!」と叫んだ。魔石開発は初めて成功したのだ。ポレスト無しで。


物語として少し進展できました。この先も頑張って進めていきます。

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