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ビーシュリンピア  作者: クラウンデイジー
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人生初めての失敗

水色魔石もどき作りが上手くいかないセイリアの元にリューグが戻って来た。問題の原因は、そして、解決できるのか。

「お兄ちゃん!ヤン!」


セイリアが振り返ると、そこには日焼けで黒光りするリューグとヤンが立っていた。服は出発した時と同じ服だがなんだがクシャクシャでくたびれている。二人はとても元気そうではあるが。ヤンはニヤリと白い歯を光らせて、リューグは両手を腰に手を当てギラリとセイリアを睨みつけている。


「セイリア、この庭には大切な植物がたくさんあるのを知っているだろう。むやみやたらに水を撒いて、植物がダメになったらどうするつもりだ。だいたい、こんなにして、一体何がしたいんだ」


珍しく大声で怒鳴りつけるリューグの言葉に、セイリアは自分の足元が小さな池のように水が溜まっているのに気が付いた。手の中の水色魔石は元の半分以下の大きさになっている。シートはすっかり水の中で、レディサンの鉢も三分の一くらいは水に浸かってしまっている。


「いくら暑くて地面が乾いているとは言っても、こんなに大きな水溜まりじゃあ、数日はなくならないな。相変わらずだな、失敗娘。」


ヤンは込み上げる笑いを隠しもせず、容赦なくからかってくる。


「魔石を取りに来るお貴族様から平民でも水を出せる魔石を作るように言われたの。だから、頑張ろうと思って・・・」


小さな声で言い訳をしたが、リューグはイライラと言葉を遮った。


「あー、とにかく、植物がダメになる前にこの水をなんとかする。セイリアは長老を呼んで来い。ヤン、悪いけど少し手伝って。」


水浸しのシートとレディサンは水溜まりから救い出され、リューグはヤンとさっさと道具小屋へ向かった。


ポツンと一人にされたセイリアは、もっとちゃんと話を聞いて欲しかったが、リューグが相当怒っていることは明らかで、早急に足元の水をなんとかしなくてはならないのはその通り。水色魔石もどきが出来ないこと以上に情けない気持ちを引きずりながら、庭の端で植物の手入れをしている長老を呼びに向かった。


長老は、「はい、はい」と作業の手を止めてすぐにドラゴンの井戸まで来てくれたが、セイリアがつくってしまった水溜まりを見ると目を丸くして驚いた。


「セイリア嬢、これはまた盛大ですな。どうやってこんなに水を・・・」


長老にまで言われると本当に悪いことをしたと思う。


「ごめんなさい。」


リューグとヤンは道具小屋から大きなスコップを持って戻って来た。


「坊ちゃん、リューグ坊ちゃん、おかえりなさいませ。」


長老は二人の青年を見つけると大喜びで二人の側に寄り、順番に力一杯に抱きしめた。


「お疲れでしょう。そんなことは私に任せて・・・」


リューグたちからスコップを受け取ろうとした長老に、ヤンとリューグが声をかけた。


「長老、このセイリアの池をなんとかしたら私と里帰りです。五日ほど居られるので、その間は長老も家族の元に帰って休んでください。ここのことはリューグがいますから大丈夫です。」


「長老、セイリアがお世話になっていて、ありがとうございます。ここは私がいるので、ご家族とゆっくりされてください。」


長老はまた目を丸くしていたが、セイリアが頷くの見て、「では、お言葉に甘えましょうかな。」と笑顔で里帰りの荷造りの為に部屋へと戻って行った。


それからは、リューグとヤンが水溜まりから庭の中央の道に向けて細く浅い水路を掘り、水を流した。チョロチョロと水溜まりから水が抜け始めると二人はスコップを道具小屋へ片付けた。


長老がすぐに小さな荷物を持って戻って来たので、ヤンが長老を乗せてジェッソン薬草園へ帰って行った。出発する時にヤンはセイリアに「失敗娘、頑張れよ」とまたニヤリと白い歯を見せていた。


「水は明日の朝には引くだろう。もう二度と同じことをするな。」


ヤンの馬車を見送るとリューグはセイリアの正面に立ち、真剣な眼差しを向けた。


「ここの植物は特別なんだ。それに、植物に与える水の量はそれぞれの適量にしないといけないんだ。与えすぎても足りなくても植物は死んでしまうんだぞ。ここの植物も他の植物もだ。」


とてもとても低い声だった。表情は怒ったように見えないが、とてつもなく怒っていることはセイリアには震えるほど良く分かった。そして、なんとなくリューグがポレストのようになったとも思った。


「それで、どうしてこうなったのか、家でゆっくり聞かせてもらおう」


「はーい。」


たっぷり水を吸ったシートはとても重く、井戸から家までの短い距離でも両腕が痺れるくらいだ。レディサンはリューグが抱え、何やら話もしているようだ。セイリアよりも随分先を歩いているので、もう家の入ろうとしていた。振り返って自分の作った水溜まりを見ると、ほんの少しだけ水が減ったような気がしたが、今さっき水を流し始めたばかりなので、そんな訳が無い。


ようやく家に入ると、台所でリューグがレディサンの葉や花弁を調べているところだった。


「セイリア、安心して。リューグが私は大丈夫だって。」


レディサンは怒られっぱなしのセイリアに気を使っているようで勢い良く話し出す。


「リューグ、改めて、おかえりなさい。いつまで居られるの?あー、お腹空いたわよね。セイリア、食事の支度をした方が良いんじゃないかしら。そうそう、リューグ、セイリアはとても頑張っているのですよ。魔石も納品に間に合うように毎回ちゃんと作っているし、新しい魔石の開発も真剣に取り組んでいますよ。その、ちょっと失敗することはあるけれど、ね、失敗は成功の素って言いますよね。」


リューグの目がややいつもの優しい目に戻ったので、セイリアは夕食の支度を始めた。いつものスープとパン。あっという間の支度と食事を済ませ、二人と一鉢は調合室にいた。


「それで、何をしようとして、あんな失敗したんだ。もう怒っていないからちゃんと説明しなさい。」


「ごめんなさい、お兄ちゃん。私、魔石を取りに来るお貴族様たちから新しい魔石の依頼を受けていて。平民でも使える水の魔石と灯りの魔石。それで、今日は水色魔石もどきを作ろうとして、失敗しました。」


「なるほど。それで、どうやってあんなに大きな水溜まりを作ったって?」


「お兄ちゃん、怒らないって言ったじゃん。」


せっかく説明し始めたが、再びピリリとした言葉尻に耐え切れず、セイリアが涙目で訴えた。


「ごめん、ごめん。今の仕事のモードは急には抜けなくて。若いし平民だから、時々、しっかり言わないと、て思うことがあって。大丈夫、怒っていないよ。」


ニコリと笑ってくれたリューグはいつものお兄ちゃんだった。セイリアは急に呼吸が楽になったような気分で、説明の続きを始めた。


「レディサンと相談して、水を出すなら、水色魔石から作れるんじゃないかって思って。それで、頑張ってみたんだけど、ザーザーと水が出るばかりで魔石ができないの。でも、もっと頑張らなくちゃ、て何度も試したら、いつの間にかあんなことになっていたの。」


「ふーん。なるほど。でも、セイリアが魔石を作るのを失敗するなんて初めてじゃないか?純度に差はあるにしても、練習の時から一度も作れないなんてことは無かっただろ。どうやったのか見せてごらん。」


セイリアは「いいよ」と言って、昼間の水溜まりの素になった小さな水色魔石を腰紐と服の間から取り出すと、昼間と同じように魔石を手に持った。今度は調合室が水浸しにならないように、流しの上に手を伸ばし、ギュッと握る。すると、昼間と同じように、セイリアの拳からは水がザーザー流れ出た。


大きな溜息を吐き、自分の拳を見つめるセイリアにリューグが不思議そうな表情を向けた。


「なぁ。セイリアはなんで水を出しているんだ?それじゃあ、魔石は作れないだろ?」


「え?あーーーーーーーーーーーーー!」


セイリアは魔石作りの出発地点から失敗していたのだ。水色魔石を握るのは水を出す時、蒼色魔石を握るのは風を出す時。握っていては魔石は作れないのだ。道理で水がどんどん出てくる訳だ。手の中に魔石が現れる訳も無い。魔石を作る時には素材に向けて手をかざす。魔石作りの基本中の基本だ。


「セイリア、お前は本当に魔石を納められているのか?レディサンに嘘をつかせるような恥ずかしいことをしていないか?」


あー、これは疑われても仕が方ない。この失敗がポレストにバレる可能性が無いだけ幸運だ。セイリアは体中の力が抜けて、どっかりと丸椅子に座り込んだ。


「リューグ、セイリアはちゃんと魔石を納めていますよ。今日は調子がイマイチなだけです。」


「ほとほと疑わしいな。」


魔石開発ではなく、魔石作りの人生初めての失敗の上、リューグの呆れ顔が重なり、語れる言葉も無く人生で一番落ち込んでしまったセイリアなのだった。


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