水色魔石もどきは作れるのか
セイリアは水色魔石もどきを作ることにしたが、方法がわからない。頑張ることが苦手なセイリアはどこまで頑張ることが出来るのか。
グレコリウスとオットーが帰ったので、セイリアはようやく落ち着いて魔石開発にかかることで出来る状況となった。とりあえず、グレコリウスの要望の灯りよりも、オットーからの要望の水の方が急務と判断したセイリアは、まず、水色魔石を作り、それを加工してみることにした。
セイリアの作る水色魔石は透き通った水色で、向こう側が見えるほどに曇りなく純度が高い。リューグが作る水色魔石は、光は通すが曇りで向こう側はぼんやり見える程度だ。ポレストですら綺麗に見えるほどの純度は保てない。
庭の中央にあるドラゴンの井戸の周りに午前中同様にシートを敷き、レディサン、井戸水を入れた瓶を置き、早速、作業を始めた。井戸水の入った瓶に手を入れ、目を瞑り、思いを込めて水の中で手を握ると、手の中に魔石が現れる。
「うん。今回の水色魔石も完璧」
魔石をお日様に透かして見ると、キラキラと光を放ち、透けた先に見える雲が水色に染まって見えた。
「上出来ね。」
シートに置かれたレディサンは重鎮の樹の陰で涼し気に葉をゆっくり揺らし、花弁は黄色いので期限が良いらしい。セイリアはシートの横の地面に立ち、すぐ横のレディサンを見下ろしながらニヤリと笑い、腰に両手を当てて偉そうにふんぞり返った。
「当り前じゃない、ここ一か月、私一人で魔石を作り続けているのよ。父さんがいた頃よりも早く作れるようにもなったし、上達しちゃっているのよね、私。」
「相当なドヤ顔ね。」
「ただ・・・」
苦笑いのように花弁を黄緑色に変えかけたレディサンを見ながら、セイリアは今度は、眉間にしわを寄せてため息をついた。そして、シートの端に「よっこらしょ」と座り込んだ。
「問題はここからよ。お貴族様じゃなくて、平民のみんなが使える物にしなくちゃ。まず、なんでお貴族様が使えて平民が使えないのか、その謎を解かないと次に進めないよね。」
「セイリアは平民だけど魔石を使えるわよね。何故?」
「それは、私が作っているからじゃない?」
「じゃあ、お貴族様方が使えるのは何故?」
「それは、お貴族様だからじゃない?」
「それじゃあ、お貴族様が魔石を作れないのは何故?」
「それは、私じゃないから?」
「どういうことですか、それは。しかも、全然、謎が解決しませんけど。」
「困ったわねぇ。」
「他人事ですねぇ。」
水色魔石をシートへポンと置いて両手を背中の後ろについて、呑気に空を見上げるセイリアに、今度はレディサンが溜息をついてから、花弁を黄色に戻して「フフフ」と笑った。
「セイリアらしいけれど」
魔石を眺めても、空を眺めても、解決しないのは分かっている。勉強が嫌いでポレストが集めた資料を真面目に読んだことも無いので、セイリアには参考になる知識が無い。そもそも、ポレストですら最初の魔石は偶然の産物と言っていたので、セイリアが考えたところで解決しないのは当然と言える。
「そういえば、調合室の灯りも魔石だったのですね。」
「レディサン、今日は灯りの魔石は作らない予定なんだけど。」
「違うのよ。調合室の灯りは長老様も点けられるので、参考になるかなと。」
「なるほどね。」
灯りの魔石はポレストが作った物で、セイリアの作る魔石と違い「魔石もどき」だ。正確には魔石では無い。だから、灯りの魔石は握っても何も起こらない。ただ、時々お日様に当て、井戸の水に触れていれば誰も触っていなくても光る。
シートに座り直し鉢を持ち上げて花弁を顔に近づけたセイリアは喜々とした顔だ。
「じゃあ、水色魔石もどきを作ったら平民でも使えるのかも!」
だが、
「同じ原理で言うなら、そうなりますね。そうだとして、魔石もどきってどうやって作るのですか?」
「もう、また謎!」
喜んだのは一瞬だった。セイリアはシートに大の字に倒れこんだ。せっかく一歩進んだと思ったのに、ドーっと疲れがセイリアを襲ってきた。
普段、頭を使うことを避けて過ごしているので、考えることは慣れない作業だ。それなのに、今日は次から次へと考えることがあり、考えを巡らせていたので、とうとう限界となり目が回ってきたのだ。正直、今日はもうお終いにしてしまいたい気分だが、魔石を作らないとリューグやヤンたち平民が水に苦労する。
セイリアは大きな深呼吸をすると同時に起き上がり、もう一度、水色魔石をお日様に透かしてみた。
「いっそ、水色魔石から、水色魔石の性質を受け継いだ魔石を作れないかな。危ないかな。」
セイリアは既に二つの新作魔石を作ったが、その二つとも安全性も用途も確認出来ないままに調合室の引き出しにしまい込んである。しかも、ポレストからも出来上がる魔石が安全とは限らないから重々気を付けるように言われているのだが、
「大丈夫じゃないかしら。以前に私の魔石を作った時に、蒸気からは風を感じると言っていたでしょ。ということは、蒼色魔石は蒸気の周りの風を素に風の魔石になって、水色魔石は井戸水から水の魔石になっているのね。そして、水を出す水色魔石から魔石を作るとしたら、水に関するものにしかならないと思うわ。」
レディサンは意外と前向きだった。
「なぜ、大丈夫と思うかと言うとね、ちゃんと根拠もあるのよ。黄色魔石の時のこと、覚えているでしょ。私は一晩で健康優良児になっただけで、危険では無かった。それと、私から作ってくれた緑の魔石は・・・」
「あーレディサン魔石ね。」
「やだ、そんな風に呼んでくれていたのね。嬉しい!あ、そうじゃないわ、その私の魔石は、セイリアの力を吸い取るようだけど、それ以外には何もなかったわよね。それに、今回は素材じゃなくて魔石から力を貰うんだから、その、魔石自体よりは効力が劣るのでは無いかしら。」
なるほど。確かにお日様からもらった力で出来た黄色魔石は、当然だがお日様の力と比べれば劣ることは間違いない。レディサン魔石についてはどちらが劣るのか力関係は不明だが、セイリアの力を吸いきる訳では無かったので、そこまで危険な魔石では無いのかもしれない。
「そうね。やってみよう。」
セイリアは水色魔石を手に取ると立ち上がり大きく深呼吸をした。目線の先に見える空は明るい水色で、雲が高いところでゆっくり流れている。重鎮の樹の葉を通ってくるそよ風がサラサラとセイリアの髪をたなびかせている。
セイリアは手の中の水色魔石を力一杯に握った。握った力は魔石作りには関係無いのだが、なんとなく、力一杯握ると上手くいく気がした。自分の爪が手の平に食い込んで少し痛い。それから目を瞑って祈った。
「お願い、水色魔石もどき、出来て。」
ところが、水色魔石を握っている右手からはジャージャーと水が出るばかり。強く握ればたくさん、軽く握れば少しだけ、平民のセイリアでも自由自在に水量を調節出来ることは分かった。
「えー、やだ。なんでー!」
何度も試したが、状況は一切変わらない。
「やだやだ、どうしてよー。」
何度何度も試すうちに握った魔石が手の中で少し小さくなった気がしたが、どうしても出来上がるまで頑張りたかった。だが、残念ながら、いくら頑張っても水色魔石からは水以外のものは出て来なかった。
とうとうセイリアの目からツーっと零れるものがあった時、背後から聞きなれた声がした。
「おい、こんなに水浸しにしたらダメだろ。」
「ホント。池でも作るつもり?」
そこには日焼けで黒光りしている青年が二人立っていた。
・・・帰ってきました。




