キラキラ笑顔のオットー様
三日に一度やって来る貴族の二人にセイリアが何を感じたのか。
グレコリウスとオットーが魔石を回収して王宮へ戻る頃には、すっかり夕方になっていた。
午後中、ダイニングテーブルに置きっぱなしにされていたレディサンはとても暇を持てましていた。オットーが魔石の箱を持って上がってきて、一回、セイリアと話をしてはいたが、それ以外、家の中に興味深いことも無く、お日様が傾き始めてからは、窓の外を眺めていた。
そのうち、セイリアがグレコリウスへやいのやいの言って後ろを追いかけたり、魔石を運び出したりするのが見えた。
「セイリアは大変と言っているみたいだけど、なんか楽しそう。」
レディサンは少し寂しい気持ちで眺めていた。だが、馬車が出発すると、セイリアがすごい勢いで此方へ走って来る。いつも何をするにもダルそうにして、スローテンポなセイリアが走るのは初めて見た。
ドアがバァン!と開いた。セイリアが台所へ入ってくるなり、レディサンの前にドン!と椅子を移動し、聞いたことの無い大きな声で話し始めた。
「ねぇ、聞いてよ、レディサン。もう、どこから言えば分かるかなー。」
「セイリア、落ち着いて。まず、水でも飲んだらどうかしら。」
「そんな場合じゃないのよ。魔石を作らないといけないの。魔石よ。」
「セイリア、随分怒っているようだけど、言っていることがおかしいわ。魔石なら毎日作っているじゃない。」
レディサンは落ち着いた声で答えた。
「違うのよ。新しい魔石、灯の魔石。両方は無理だって言ったのに、あの、可愛い顔の癖に感じ悪い方がさあ。」
セイリアはフンと鼻息を鳴らすと
「同時進行で進めるように、だって。」
と、グレコリウスの真似をして言った。
「良かったじゃない。新しい魔石の開発で悩んでいたのでしょ。作る物が決まったなら一歩前進ね」
レディサンは素直に喜んだ。ハッキリとした道もゴールが無いままにセイリアが一人で抱えているよりは、多少大変でも、目標がしっかりある方が良いに決まっている。それに、指示を出した人が近くにいるなら、相談も愚痴もこぼし易い。すぐに躓くセイリアにとってはこの上無い良い状況で、レディサンは「うん、うん。良かった」と呟いた。
セイリアはようやくレディサンの前に置いた椅子にゆっくり座ると、テーブルに肘をつき顎を乗せてた。そして、ふぅ、とため息を吐いてから言った。
「なんだぁ。レディサン、私が悩んでいたの、知ってたのかぁ。」
「当たり前じゃない、魔石作りの前にいつも元気が無かったから、そうかなーってね。でも、作る物がハッキリしたなら、やるべきことも見えて来るじゃない。今までに比べたら随分気持ちが楽になったのではないの?それなのに、セイリアは何を怒っているの?」
「だってね、灯の魔石がいるなら、父さんがいるうちに言ってくれれば作り方を聞いておいたわよ。それにね、平民が使える水色魔石なんてね、平民と貴族に同じ井戸を使わせようとして、上手くいかなくなったから欲しいんだって。計画性の無さったら無いわよね。貴族の癖に。」
「計画性に貴族は関係ないでしょう。」
レディサンは冷静に答えたが、
「でも、確かに、もっときちんと調査や準備をしていれば、ここまで慌てることも無かったかもね。」
と、付け加えた。
「そうなのよ。干ばつが予想以上に酷いからと急ぐ理由は分かるけど、準備不足も甚だしいでしょう。」
セイリアは話しながら怒りが再燃してきたのか、また、鼻を鳴らしている。
「挙句の果てにはね、美青年でちゃんとしていると思っていたオットー様が、大変なのを分かっていながら、頼んだよ、って。それも、キラキラと輝く笑顔でよ。それはそれは、今まで見たことの無い、煌びやかな笑顔だったわよ。あんな綺麗な顔で言う捨て台詞なんて他に無いわね。あの笑顔で今までもコロコロと大勢を転がして来たに違いないわ。」
セイリアはここまで鼻と頬を膨らませながら一気に言い、ゆっくりと続けた。
「ただ、・・・」
「ただ?」
レディサンの問いに、セイリアは急に顔を赤らめ下を向き、上目遣いにレディサンを見ながら
「すっごく綺麗で素敵だったわ。」
と言った。
「なんですって?」
「オットー様のキラキラ笑顔、すっごく綺麗で素敵だったの。」
「まぁ!それじゃあ、私、凄く良い所を見逃したのね。ここからずっとあなた方の様子を眺めていたのに、馬車の前ではここからは見えないもの。」
「レディサン、やっぱり、こういう話、好きよね?そう思って、絶対に報告しなくちゃと思ったの。」
「これよ、私が夢にまで見たガールズトーク、恋の話、イケてるメンズの話。」
イケてるメンズという言い回しはどうかと思ったが、セイリアが自分の趣味趣向を理解してくれていたことが嬉しくて、それどころでは無い。しかも、セイリアが顔を赤らめている。
「セイリア、恋、ですか?」
レディサンのテンションが駄々上がりだ。
「違うけど、あの、顔は良かったわ。」
思い出すように遠くを見るセイリア。レディサンも自分も見たかったと切の思った。
「次は私も一緒ですよ。セイリアだけなんてズルいわ。」
「もちろんよ。これは見た人にしか分からない煌めきね。」
「あー、セイリア。羨ましすぎるわ。」
レディサンもオットーがキラキラと笑顔を投げかけてくる様子を想像してみた。深緑色の髪をサラリと指で書き上げ、少し振り向くような体勢からこちらに笑いかける。大きくてクリクリした目を少し細めて降格をこちら側を少し高めに上げて、最後にウィンクでもされたら・・・。投げキッスなどされてしまった場合には興奮で茎がポッキリ折れかねない。
二人はダイニングテーブルですっかり、うっとりしたまま想像の世界に入ってしまった。
更新が開いてしまいました。コロナ渦ですが、忙しい毎日が戻ってきてなかなか書く時間が取れませんが、焦らず頑張ります。




