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ビーシュリンピア  作者: クラウンデイジー
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分かれの準備

別れではなく、もうすぐ二人の道が分かれる、分かれです。

ポレストの弟子と母のアンの話は、リューグとセイリアに大きなショックを与えた。セイリアは、ゾルタンの存在よりも魔石を作ることへ恐怖を感じた。リューグは母の記憶はないが、その命を奪ったゾルタンへ怒りが沸き上がった。


「長老、ゾルタンは今どこにいるのでしょうか。」


「さあの。カレトナが滅びる前にカレトーリカへ逃げ込んだか、すでにサーモラスへ戻ったか。そんなところだろうとは思うがの。だが、あやつが簡単に死ぬとは思えなんだ。今もきっとどこかで悪巧みをしていることだろうよ。」


長老はお茶をゾゾゾとすすってからリューグへ向いて答えた。


「悪巧みというのは、魔石に関ることでしょうか。」


「たぶんの。あやつは魔石職人としての腕は良かったそうだ。サーモラスの貴族の誰かがどこからかゾルタンの素質を聞きつけ、ポレストの元で修行してくるように言われて来たのだ。カレトナで密売していた魔石も一部の輩が高額でも買い取りたいと希望していたとの噂もある。それも、人の命を削り、奪う魔石だという。アンの命を奪った方法で作られた魔石なのかは分からないが、あやつが危険であることは間違いない。リューグ坊ちゃんはポレストの息子だから、今後、狙われるかもしれませぬ。努々気を付けなされませ。」


「人の命を削り、奪う魔石ですか。本当に存在するなら大変なことです。」


「ハインリッツ様も目を光らせているから、シュリンピアですぐにどうということは無いと思うが、用心するに越したことは無いですぞ。」


長老のゆっくりだが強い口調に、リューグはしっかりと頷き答えた。


そこへ先程の壺を洗浄してきたセイリアが戻ってきた。まだ気分が悪そうで、青白い顔色のままだ。気力で起きているだけのようで、眼差しはどんよりとして意識朦朧な様子にも見える。


「セイリア、大丈夫ですか?もうお部屋に戻りましょう。」


レディサンが調合台から声をかけたが、セイリアは必死でこの場に留まろうとした。


「私、母さんのお墓も知らないの。おにいちゃんは知ってるの?母さんて、どんな人だったの?」


セイリアは定位置の丸椅子にヨロヨロと座った。


「アンのお墓は無い。亡くなった次の日、亡骸が忽然と消えたのだ。ゾルタンの仕業なのか、力を奪われると、その者自体も消えてしまうのか、ポレストにも原因は分からなかったのだ。それに、ポレストはアンが亡くなったことを受け入れることも出来ず、きっと、今もどこかで生きていると信じていた。だから、お墓は立てなかったのだ。」


「長老さん、じゃ、母さんは死んだんじゃないかもしれないのですね。」


「セイリア嬢ちゃん、それは期待できないでしょう。国医様が亡くなったことを確認しているのだから、間違える訳は無い。」


一瞬、期待に顔色の戻したセイリアだったが、長老の返答に瞬殺されてしまった。


「国医様は薬師のミェールの祖父だからの。そのうち、会う機会があるかもしれませんな。」


そうだった。セイリアはポレストの代わりに今後は王宮に上がることもあるかもしれない。ミェールの祖父がアンを看取ったのであれば、王宮で見かけた時に聞くことが出来るかもしれない。リューグは王宮の庭を掘るのだ。掘削作業は大きな危険を伴うのだから、そのうち、自分か誰かの診察で会えるかもしれない。セイリアもリューグも、ポレストが教えてくれなかったアンのことを、誰でも良いから教えて欲しいと思った。知っている可能性のある人を見つけたら、少しでも情報を集めたい。自分たちの母の事を一つでも多く知りたい、と思った。


「セイリア」


「お兄ちゃん」


二人はお互いを見つめると頷き合った。


リューグはだいぶ気持ちが来た。長老の話はとても重かったが、少しはこの先の道が見えたような気もしてきた。ただ、地下の王国を作る為に地面を掘るだけではなく、サーモラスへ行った父ポレストや亡くなったはずなのに亡骸が存在しない母アンの情報集めという、自分なりの目的も出来た。ただただ、掘削だけの毎日が過ぎていく訳では無いと思うと、不思議と出発への気持ちが前向きになっていた。

落ち着いたところで、リューグは調合台の上の惨状に気が付いた。調合台は昼間のまま、完成した魔石が散らばった状態で置かれている。そして、その合間にセイリアが淹れたお茶の茶碗が三つ置かれている。長老は何も気にしない様子でお茶をすすっているが、魔石をかき集めて一か所にまとめる位、もの数分で済む作業だ。


やはり、少し気持ちが落ち着いたようで青白い顔色から少し青みが減った様子のセイリアは長老の横で同じくお茶をすすっている。その様子が目に入った途端、リューグは昼間の怒りを思い出した。しかも、散らばっている魔石を取り上げて見てみると、いつもの澄んだ透明感のある蒼色でも水色でも無く、両方とも微かに濁りが混じってる。この程度ならリューグでも簡単に作れるが、セイリアの技術は制度の高さが売りだ。


「おいコラ、セイリア。お前、魔石作りの手を抜いたな。」


仕事の手を抜くのは言語道断、長老の前だがお構いなしだ。


「なんでバレた・・・」


セイリアがいつものダラけた顔に戻った。


「ほら、やっぱり。セイリア、私もいつもと違うって言ったじゃない」


レディサンからもチクりと言われる。


「だって、どうしてもやる気が湧いてこないんだもん。」


プーッと頬を膨らませ、何もかも、いつものセイリアになった。


「ほうほう。リューグ坊ちゃんはしっかりされておる。この魔石かい。ふむふむ。」


長老が魔石を右手の指先だけでそうっとつまみ、天井に光る魔石もどきへ透かして眺めた。


「なるほど、確かに、少し濁りが混じっているの。」


そう言うと長老は魔石を丁寧に調合台へ置いた。


「えー、長老まで分かっちゃうんだ。じゃあ、王宮の貴族様たちにはバレちゃうわね。」


不満気に言うセイリアにリューグが渇を入れる。


「バレる、バレないじゃないだろう!一つ一つ丁寧に仕事をしなければいけないだろう。」


セイリアは全面的に自分に非があることは分かっているが、なんとかこの場をスルリと抜けられないか思案した。すると、すっかり忘れていたことを思い出した。


「そういえば、黄色魔石の効能とその後に作った緑魔石のことを父さんに話すのを忘れてしまっていたわ。」


「そうだった。」


リューグもすっかり忘れてしまっていた。ポレストはいつ戻るかも分からない。


「これからはセイリア一人でやらなきゃならないんだ。扱いは自分で考えてやるしかないな。ただ、魔石を作るときも、効果を確認する時も、レディサンともう一人、こっちは人な。合計二人の付き添いを付けるようにしろよ。何かあった時にレディサンだけじゃ助けが呼べないから。」


「確かに」


リューグの心配に長老が付き添いを買って出てくれた。長老が出来ない時は薬草園から庭師の奥様方の応援を呼んでくれることになった。


こうして少しずつ変化しながらも、リューグが出発する日まで、二人は出来るだけいつも通りの日々を過ごしていった。アンの話もゾルタンの話もその日以来、誰も口にはせず、淡々と庭の世話と魔石作りをする三人だった。


次回、リューグとヤンは王宮へ向かいます。

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