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ビーシュリンピア  作者: クラウンデイジー
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悲しい秘密

ポレストが旅立ち、気の抜けてしまったセイリア。リューグの出発までもあとわずか。長老が二人の両親と弟子について語ることとは・・・。

ポレストは王宮に出かけていく時と同じように、あっさりと旅立って行った。


セイリアはこれから先もずっとポレストの娘として、弟子として、側にいるものと思っていた。だから、地下に行くでも無く、家に居るでもなく、サーモラスのような様子分からない遠い他国へ行ってしまうなど、想像することが出来なかった。どうしても行かないで欲しいという思いと同じ位、旅立ってしまった実感が湧かないでいた。


ポレストが旅立ってから2週間近くなっても、その思いは続いていた。ただ、毎朝、裏の小屋から朝食を食べに長老がやって来ると、その時だけ、ポレストはいないのだ、という強い喪失感で、朝食後しばらくは力が湧いてこないのだった。


リューグはというと、地下へ向かうまで2週間を切ったので、庭の植物たちの世話について、また、薬草園から預かる植物たちについて、長老へ引き継ぎを急いでいた。


長老は薬草園で今、親方になっているベテラン一同の育成もしていた大ベテランだった。「ジェッソンとポレストは、親方を引退して裏方へ回った頃に産まれたので、孫のように可愛いのだ」と毎朝嬉しそうに話している。この間、門前で見た小さな女の子は、なんと孫ではなくひ孫で、女の子のお母さんのほうが孫なのだった。しかも、親方時代にはジェッソンのように王宮に足を運ぶこともあったそうで、国王のハインリッツ様の事も孫同様と言っている辺り、この国にこの長老より偉いはいないのでは無いかと思ってしまう。


長老はセイリアと常時一緒にいるレディサンにも優しく接してくれた。レディサンの言葉が聞こえる訳では無いと思われるのだが、何故だか会話が成り立っている瞬間がある。数日前には


「今日は陽ざしが強いから外に出たくないわ。」


と、レディサンがセイリアに語りかけると


「ウォホホ、外に出たくないなら調合室でゆっくり過ごしなさい。」


と、セイリアが答える前に長老が答えていた。兄妹と一鉢全員がびっくりする様子に、長老はただただウォホホと笑っていた。


「セイリア、お前、最近全く魔石を作っていないだろ。」


リューグの出発まで10日となった日の朝、リューグがセイリアに言った。


「父さんが旅立って寂しいのも分かるけど、この状態はそうじゃないな。ただサポっているだけだろ。」


セイリアは食後の片付け後、ダイニングテーブルの天板にペッタリと頬をつけて、ダランと力の抜けた腕がターブルの下に垂れている。


「怒る人が居ないからって、仕事をサボってはダメじゃないか。あと10日もすれば俺もいなくなるんだぞ。そろそろしっかりしろ。」


リューグが珍しく強い口調で言った。セイリアは体勢を変えずに目線だけをリューグに向けた。


「だって。注文が来てるわけじゃないし、新しい魔石だって、これと言った要望も無いんだもん。」


「そのやる気の無いところは、この間、ヤンにも怒られただろ。魔石職人として働けるのはセイリアだけになるんだから、ちゃんとしろよ。」


ダラけた様子の変わらないセイリアにリューグは苛立ちを隠さずに、更に強い口調で言った。セイリアが暑いのも、勉強も、研究も、仕事も好きでは無いのはリューグも良く良く分かっているのだが、10日したらこんな小言を言う人は居なくなるのだ。セイリアがこれ以上ダメ人間になるかと思うと、心配過ぎる。


「大丈夫よ、お兄ちゃん。私はやるときはやる子だから。」


セイリアはまだ体制を変えずにまま答えて来る。


「この様子を見て信用できるか!」


とうとうリューグは大きな声を出して言った。すると、セイリアはようやく体を起こし「はぁい」といかにも面倒くさそうに答えた。きっとポレストもセイリアがこうなることを予想していたと思うが、何も苦言を言わずに旅立って行った。そのあたり、一体どういう思いで旅立って行ったのか、この時のリューグにはとんと分からなかった。というよりも、ポレストにも父として師匠として、もっとしっかりして欲しかったとまで思ってしまった。


なんとかレディサンと調合室へ移動したセイリアは、とりあえず、水色魔石と蒼色魔石の在庫を補充すべく魔石作りを始めた。井戸の水を沸かしている間に、壺に残っている井戸の水で蒼色魔石を、湧いた井戸の水の蒸気で水色魔石を、セイリアは感情の無いままに作っていく。ポレストは気持ちを込めて作るようにと常日頃煩く言っていたが、ただ力を流すだけでも魔石はどんどん出来上がる。


「魔石作りなんて、なんてことないわね。」


湧いた井戸の水が無くなり蒸気が経たなくなったところでセイリアは作業を一区切りし丸椅子に腰かけた。調合台にはバラバラと完成した魔石が散らばっている。


「セイリア、せめて種類ごとに分けておくとか、作業を始める前に完成品を入れる箱を用意しておくとか、やりようがあるでしょうに。こういうだらしないところがセイリアのガッカリポイントね。」


散らばった魔石の間に置かれているレディサンが呆れた声で言う。


「それと、出来上がった魔石、なんとなくいつもと違う気がするけれど・・・」


「え?そんなこと無いわよ、ほら。」


セイリアが蒼色魔石を握るとソヨソヨと風が起きた。


「ほら」


水色魔石も問題なくチョロチョロと水が出た。


「たしかに。気のせいかしら。」


夕食の時、珍しく長老がずっと気になっていることがあると言うので、リューグとセイリアと共に調合室へ集まっていた。


長老が気になっていたというのは、干ばつのことだった。


ポレストやジェッソンが子供だった頃、シュリンピアは国境の町まで豊かな緑に覆われていたそうだ。川も水が豊かで下流の割には水質も良く、小さい国ながらに土地と国民に恵まれていたという。それが、リューグやヤンが産まれた頃から彼方此方で土地が干上がり、それは周辺国も同様だった。ただ、干ばつ自体は、歴史上、何度も起こっており、数年かかけて乗り切ってきた実績があった。


そう振り返る長老が気になるのは、今回、各地の土地の干上がり方が異常に早く、短時間に深刻な状態に陥っていることだった。ポレストが作った水色魔石があれば、土地の貴族の力を借りて急場を凌ぐことは出来たはずだ。それが、各土地の貴族たちが総出で、魔石で土地を潤そうと働いたにも拘わらず、みるみるうちに地面がひび割れ、井戸の水が涸れ、川が干上がったという。

ハインリッツが急ぎ、国民を下町へ集めようとしたものの、今回は間に合わなかった。というのも、力が無く箒に乗れない平民は、砂と化した道なき道を徒歩で向かうしか無く、しかも、砂と化した土地は昼間は焼けるような炎天下、夜は北国のような寒さになる為、体力的負担が大きかった。その上、日に日に下町に近い町まで滅んでいった為、食料の確保も難しくなっていった。下町までの距離が遠い町の者ほど、辿り着くことが出来ない者が多く、下町を目指すのは命がけだったのだ。


この状況は他国でも同じとのことだ。


長老は、干ばつが起きると言っても、ここまで広範囲で急速に深刻な状態になるのはおかしいと思っていたが、ポレストがサーモラスへ行くことになり、それが確信に近づいたそうだ。


「ポレストには弟子がいたのだが・・・」


長老はセイリアの入れたお茶をすすると調合室の天井を見つめて語り始めた。


「ゾルタンと言うポレストよりも少し年下の若者だった。サーモラスから魔石作りの修行に来ていたサーモラスの平民で、魔石職人になれば帰国後に貴族に取り立ててもらえると言っていた。だが、セイリアが産まれる少し前、ポレストの怒りを買い破門されたのだ。」


長老は髭を撫でながらセイリアとリューグに目を向けた。


「二人はお母さんアンの話を聞いたことがあるかい?」


「いいえ。セイリアが産まれた頃の記憶もありませんし、父からは何も。」


「なんか、聞けない空気だったよね、ね、お兄ちゃん。」


セイリアとリューグは目を合わせてお互いが納得したかのように頷いた。


「長老、その弟子のゾルタンさんと母さんのことって、関係があるのですか?」


「リューグ、その通りだよ。」


長老はそこで大きく深呼吸して、もう一度セイリアとリューグを良く見つめた。そして、ゆっくりと続きを話し始めた。


「ゾルタンはアンから魔石を作ろうとしたのだ。魔石職人として大きな力を発揮していたアンの力をうらやみ、その力を我が物にする為、アンから魔石を作り、アンの力を根こそぎ奪おうとしたのだ。

力を奪われたアンはその日から昏睡状態となり、時期となったセイリア国医がアンから取り上げるとアンは静かに息を引き取った。ゾルタンはアンが昏睡状態になった日に破門され、しばらくは国境の町カレトナに潜んでいたという噂があるが、下町で見かけたものはいない。」


「母さんから魔石を作るって、どうやって・・・、まさか・・・」


「その通り。ゾルタンはアンに手をかざし、アンの生きる力を・・・」


そこまで聞いたところでセイリアは気分が悪くなり、手近にあった井戸水用の壺に勢いよく嘔吐した。ポレストが言っていた「人体に危険な方法や魔石は存在してはいけない」という言葉は、ゾルタンとアンのことだったのだ。そして、魔石職人であるセイリアも同様に、ゾルタンのような危険事物になり得る、危険な魔石を作ってしまう可能性もある。セイリアは全身の震えが止まらなくなった。


「ポレストがゾルタンの故郷のサーモラスに行くことになるとは、何かの因縁では無いかと気になってね。ポレストは何も言わなかったようだが、二人には大事なことだ。知っておく必要があるだろう。だから、リューグ坊ちゃんが地下へ行かれる前に伝えておきたいと思っていたのだよ。」


長老はとてもとても沈んだ眼で二人を見つめた。


集英社WEB小説大賞に応募していますが、文字数不足で棄権となりそうです。賞が目的では無いので、引き続き書き進めていきますので、これからもよろしくお願いします。

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