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ビーシュリンピア  作者: クラウンデイジー
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ポレストの旅立ち

ポレストから話を聞いたセイリアとリューグ。長老との生活も始まろうとしています。

漁師の村から戻ると、セイリアとリューグは庭の門前で馬車を降ろしてもらった。ヤンからレディサンを受け取るとセイリアは一歩下がり、走り出した馬車のヤンを見送った。結局、三人は一言も話さずに戻ってきた。地下へ入ったらリューグとヤンも修行してきた仕事は出来なくなる。老人から尋ねられたことは漁師だけの問題では無い。


セイリアはこれからも魔石作りを続けることになるだろうが、事情は分からないがポレストの助力は期待できそうに無い。たった一人で出来るのか、セイリアもまた、大きな不安を抱えていた。


庭に戻るとお日様が一番高い所へ登ったところだった。二人の問題は今考えたところでどうにかなるものでも無いので、とりあえず、昼食を摂り、いつもの仕事に戻ることにした。今日はニンジンのポタージュとパンだ。簡単なモノばかりなので、セイリアたちの食事はいつも瞬殺で終わってしまう。


「今度、お魚も食べてみたいわね。」


「そうだな。今度、市場で買ってみよう。」


食後の片づけをしていると門から歩いて来るポレストが見えた。足の運びが重そうで、とても疲れているようだ。


「父さん、お帰りなさい。徹夜だったの?昨日のミスト、虹が出たのよ、父さんも見た?素敵だったわ。」


ポレストが家に着くなり、セイリアが矢継ぎ早に話しかけた。ポレストは黙ってダイニングテーブルに荷物を置くと、水をくれ、と低い声で言った。井戸の水を並々と入れたコップをセイリアが渡すと、ポレストはゴクンゴクンと勢いよく水を飲みほした。


「井戸の水はやはり違うな。」


一息ついてからポレストが口を開いた。


「ミストの風は良かったか。それなら良かった。貴族の新しい仕事として、これからも続けていくことになったから、軌道に乗れば一日に二回ミストの風が送られるようになるだろう。」


ポレストが嬉しそうに言った。


「そう。それは助かるわね。ね、リューグ。とても涼しくて気持ちの良い風だったもんね。」


「そうだな。ミストが無くなった時のムーっとした感じが無ければもっと良いけど。」


「わたしはまだ体験できていませんけど」


二人の子供と一鉢がワイワイと盛り上がるのをポレストは穏やかな表情で眺めた。ポレストはこれから、子供たちが笑っていられない話題をしなくてはならないのだ。この時間を終わらせるのを惜しい思いで一杯だ。


「二人とも、大事な話をしなくてはならない。」


ポレストは一息大きく息を吸ってから二人に声かけた。


「ついに王命が出た。」


「ジェッソンさんから昨日聞いた。町中、今日はこの話題一色みたいだね。」


「そうか。では、リューグのことは・・・」


「それも聞いたよ。どう考えてもウチからは俺が適任だし、決心はついてるよ。」


リューグは淡々と答える。ヤンとは違い、リューグはこの状況を納得しているのだ。


「では、話が早い。明日から薬草園の長老がこの庭の事を引き継ぐ為にやって来る。しっかり引き継ぎと準備をしておけ。」


そして、また、セイリアから一杯の水をもらい一気に飲み干すと、一回深呼吸をしてからとても真剣な顔で話を続ける。


「セイリアの話の前にもう一つ。私は他国へ行くことになった。」


「他国って」


「セイリア、サーモラスだ。私は近々サーモラスへ行く。サーモラス行きの次の便だ。だから、これから魔石作りはセイリア一人でやっていかなければならない。」


セイリアは驚かなかった。地下王国を作る話を聞いた時から、なんとなく、こうなる気がしていた。新しい魔石の開発も誰にも手伝ってもらいない状況だったし、ポレストはほとんど家にいる時間も無く大変そうだった。何かあればリューグが負担を背負い、魔石作りは自分がやることになるだろうと予想していた。だが、ポレストが他国へ行ってしまうことだけは予想していなかった。


「どれくらいで帰って来るの?ちゃんと帰って来られるよね。」


セイリアは不安を隠さず眉間に皺を寄せてポレストの顔を覗き込む。


「いつ帰れるのかは分からない。帰ってくると約束も出来ない。サーモラスは生き延びる為に国を空に浮かべる計画をしている。それに平民の地位はシュリンピアと違ってとても低い。サーモラスへ行ってしまえば私がどのように扱われるのかは分からない。」


「父さんは何のためにサーモラスへ行くの?」


リューグが小さな声で聞く。リューグも不安が声色に出てしまっている。


「バルバロス様に呼ばれたのだ。サーモラスは魔石職人がいない。これまではシュリンピアからの輸入に頼っていた国だが、その魔石の事で何か問題が起こったようだ。だが、さっきも言ったが、サーモラスは平民の扱いが酷いという。どのようなことが待っているのか、行ってみなければ分からない。」


リューグが呟き、セイリアと二人、真っ青な顔になった。


「そんな、嫌だよ、父さん。行かないでよ。行かなくたって良いじゃん。サーモラスって、交易してる中で一番遠い国でしょ。大事な事ならバルバロス様が帰って来てから聞けば良いじゃん。」


セイリアは涙目になりながらポレストの服を握り訴えた。だが、ポレストは悲しい目でセイリアを見るだけで何も言わない。リューグも何も言ってはいけない気がして黙って拳を握った。


「嫌だよ」


セイリアは何度も言ったが、ポレストが何も返してはくれない。セイリアはとうとう諦め顔になり、静かに服から手を離すとレディサンを連れて調合室へ籠ってしまった。


セイリアが地下へ降りるとポレストとリューグは向かい合ってダイニングテーブルに座った。


「リューグ、お前が兄だからと荷を背負わせて悪いが、セイリアを頼む。」


「父さん。帰ってきてくれよ、必ず。待っているから。新しい地下王国を完成させて待ってるから。」


リューグは静かに、でも、強くポレストに答えた。


「そうだな。」


次の日の午前中、薬草園の長老がやってきた。先日、薬草園の門前でヤンを「坊ちゃん」と呼んでいた庭師の老人だった。門からヒョコヒョコと歩いて入って来た老人は、庭の中央の井戸と、その横の重鎮の木をゆっくり見てから玄関へやってきた。


ポレストは玄関先で挨拶した流れでセイリアを老人に紹介した。長老は「坊ちゃんのお友達ですね」と優しく微笑んだ。その後、リューグに「用事が済んだら教えてもらいましょうか」と言い、また、ポレストの方へ向き直った。


「ポレストの旦那様とリューグ坊ちゃんが出る前に、裏の小屋へ越してきますんで。」


長老が言った。裏の小屋というのは、セイリアたちの家の裏に隠れるように建っている小さな平屋だ。玄関からそのまま繋がった台所の他には寝室が一部屋あるだけの簡単な作りの小屋だ。セイリアとリューグが物心ついた頃には既に空き家で、そのまま今日まで放置されていた。


「長老、ゾルタンが出て行ったままだから小屋はかなり傷んでいる。地下の部屋を空けるから・・・」


ポレストが言いかけたところで、長老でニコニコと手を振り断った。そして、


「うら若いお嬢さんと同じ屋根の下という訳にいかんでしょう。」


そう言うと長老はさっさと慣れた様子で裏の小屋へ向かった。


「長老は何を言っているんだか・・・」


長老の後ろをブツブツ言いながら呆れ顔のポレストが追いかけて玄関を出て行った。


「お兄ちゃん長老って父さんとどんな関係?ポレストの旦那様と呼ばれている割には、旦那様という扱いでなかったような・・・」


「なあ・・・。それにゾルタンて誰だ?」


玄関に置き去りにされた兄妹は茫然しながら二人の背中を見送った。


その3日後、長老は裏の小屋へ引っ越してきた。そして、その翌日の朝、ポレストは城からの迎えの馬車に乗るとサーモラスへ旅立って行った。


セイリアとリューグはポレストに再開できるでしょうか。ポレストがサーモラスへ行く理由も気になります。

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