魔石職人の親子
平民の親子の話です。魔石を作ります。
「調合台って冷たくて気持ちいいー」
セイリアは机の天板が大理石で出来た台にペターッとうつ伏せに伸びて頬っぺたをベッタリと着けていた。
「おい、見習いめ、仕事はどうした。」
「お兄ちゃんこそ。お日様が出てるうちに素材を選んで運び込んでおいてよねー。」
「お前こそ、人の事ばっかり言ってダラダラしてると父さんが帰ってくるぞ。」
「だってー。暑いし、この大量の依頼書を眺めてるだけで、なんとなーく疲れちゃうんだよ。」
「おいおい、あと一年で成人するのに。」
リューグは調合台でダラけている妹に呆れ顔を向けながら次々と種々様々な植物の鉢を運び込む。
「なんだって、こんなに蒼色魔石ばっかり依頼が来るのかしらね。最近、空気が乾燥してるからお湯を沸かし続けなくちゃいけないから、暑くて仕方がないんだよー」
「また干からびた土地が増えたんだって。そのせいで気温が高くなっているから、少しでも皆が涼しく過ごせるようにって、王族からの依頼なんだよ。王族なのに俺たち平民の分も作ってくれるなんて有り難いじゃないか。」
「作るの、私だけどねー」
セイリアはブータレながら姿勢を起こし、調合台の横のコンロに満タンのヤカンを置き、火をかけた。本当はまだダラダラしていたい気分だが、父のポレストが帰ってきて仕事が終わっていないのは確かにマズい。父のことは尊敬しているが、やっぱり怒られるのは嫌だ。
ヤカンのお湯が沸き、注ぎ口からモウモウと蒸気が上がると、セイリアは目を閉じてヤカンから吹き出す蒸気を掌を向けた。すると、蒸気から白く細い糸のような物がセイリアの手の中に向かって伸びていく。その白い糸状の物を綿飴をまとめるかのように優しく丸めていき、最後に両手で包み込むと綿飴のような纏まりがシューッと固くなる。セイリアが手を開くと蒼くやや透明感のある蒼色魔石が完成していた。
「おー。さすが俺の妹。少し透明がかっているのが純度の高い証だ。」
リューグはウンウンと頷きながら感心する。
一方、セイリアは「この蒸気が出ている間に全部作ってやろう」とリューグの言葉に反応一つせず次々と魔石を完成させていく。
「父さんが帰ってきた時に全部完成させてあれば、バッチリよ。ふふん」
セイリアは余裕な笑みで仕事を続けていった。
リューグは仕事を始めたセイリアに優しい目を向けると、静かに調合室を出た。
家の前には細い路地を挟んで大きく長い塀がある。塀に沿った細長い土地の端に平屋があり、細い土地の端と家の前、その真ん中に井戸がある。敷地一杯に並んだ植物の鉢は薬草から観賞用まで様々だ。家の見た目には平屋だが、仕事の都合上、敷地一杯の地下室でリューグ一家は暮らしているのだった。
リューグは土地の真ん中にある井戸から次々と坪に水を汲むと、また、地下の調合室へ運び込んでいく。
「水色魔石の素材か。手伝おう。」
「父さん、おかえり。ありがとう。水は重いから助かったよ。それより、王宮はどうだった?」
「うん。魔石の開発を進めていくことになった。依頼の量も増える予定だ。これからはリューグも魔石を作りなさい。」
「えー。純度が違うからセイリアのと一緒に納品したら不良品だと思われちゃうよ。今まで通り、セイリアと父さんが作って俺が素材の管理じゃダメなの?」
「私はこれから王宮に行くことが増えるから作る時間が取れない。お前たちで頑張るしかないんだ。」
「完全に人手不足じゃん。」
リューグは坪を床に置きながら大きなため息ついた。
魔石作りはポレストの偶然の産物だ。ポレストは先祖代々、植物の言葉に耳を傾けてきた一族で、見習いからその研究を引き継いだ。そして、魔石作りは、成人して間もないポレストが国王のハインリッツから「この大地で生き残れる力」について相談を受けたら事に始まった。
その頃は既に国内の大地の多くは干からび食物が育たず、干上がった川では水も汲めなかった。井戸も最近は枯れがちなだった。この世のあらゆるものは生きる力を持っているはずだが、ポレストは枯れた大地からはその力を余り感じられない気がした。
国王ハインリッツから問われた「この大地で生き残れる力」。そもそも「この大地にある生きた力」とは。それがポレストを変えた。
植物だけでなく、あらゆる物と向き合い、それぞれが持ち語りかけてくる物が何なのか、耳を傾け続けた。
するとある日、素材たちが「力を貸してくれる」語ってくるようになった。ポレストは井戸の水に手を当て、感謝の想いを流し込むよう祈ると、いつのまにか掌に水色魔石を握っていた。
ポレストがその水色魔石を握りしめ「力を貸してくれた感謝」を祈ると、今度は水色魔石からサラサラと水が滴った。
これがポレストの作成した魔石第一号だった。
今ではセイリアの方が純度の高い魔石を作り、リューグが素材を声を聞き丁寧に育て管理をするようになった。ポレストは魔石職人として子供たちを育てながら、魔石開発と研究を進めている。
だが、魔石の用途や人々への影響の研究までは進んでいない為、この技術は今はまだ秘匿事項であり、全てはポレスト親子で解決していくしかないのだ。
部屋の中央にある調合台で蒼色魔石作りを爆走していたセイリアだったが、完成した魔石が入った箱はまだ三箱しか積まれていない。完成までには、あと七箱も作らなければいけない。
「ヤバい、マズい。朝からやっていればそろそろ終わる時間じゃない。」
あれから真面目に作業を続けていたセイリアだが、午前中一杯、依頼書を眺めてはダラダラしていたので、挽回を始めた時間が遅すぎたのだ。
「ヤバい、マズい。父さん、まだ帰ってこないでー」
セイリアが心の中でも泣きべそをかきながら叫んでいる横で、ポレストは完成した魔石を一つ一つ手に取っていく。
「セイリア、またダラダラしてたな。この箱の物は純度が不安定だぞ」
「ふぇー!」
心中半泣き状態で必死で作業をしていた為、セイリアはポレストが横に来たのに気が付かなかった。その上、ダラダラしていたことがバレて肝が冷えたセイリアは飛び上がり変な声を出した。
「と、父さん、おかえりなさい。だってね、この量だよ。一人で作るのにだよ。十個っておかしな量だと思わない?明日までに全部完璧に作るなんて無理ムリ無理ー!」
セイリアは開き直ってポレストにクレームをつけた。
「父さんは忙しいしさ、せめてお兄ちゃんだけでも手伝ってくれれば良いのに」
セイリアは膨れっ面で父と兄を睨む。
「依頼書なんか眺めてるから終らないんだよ。一つ一つやっていけば、仕事はいつか終るんだぜ。」
「ねぇ、お兄ちゃんの変わりに素材の声を聞いてくるから交代しよ。ね。」
「ダメだよ。この間もそう言うから交代してやったのに、月夜草の鉢の間で昼寝してたろ。」
またまたセイリアは飛び上がった。おかしい。あれは一時間程度だったしバレなかったハズなのに。
「今日、月夜草が教えてくれたんだよ。そういうところだぞ、セイリア。」
優しい口調ではあるが目が少し恐くなっているリューグを見ると、セイリアは少し縮んだような気がした。
「お前は持って生まれた力を頼っているだけで全く成長が無い。良い修行と思って今日中に一人で完成させなさい。」
ポレストにまで強い目で見られセイリアはますます縮んだ気分になる。
「成人したら自分の仕事は自分で完遂させるのだから、見習いとはいえ甘えるな。」
「はぁぃ。」
最後にポレストにガツンと言われてしまい、もう、黙って作業を進めるしかないセイリアだった。
見習いのセイリアはまだ働く自覚に欠けていますが、伸び代に期待です。




