灼熱の国境線
箒に乗った二人の男たち。決断の時に向けて何を見たのか。
「太陽と大地の距離が近くなったのではないか」
太陽からの熱が、少し前よりも強くなったように感じる。
耐熱性の鎧の内側では、鎧下に吸いきれない汗がダクダクと足下に流れていく。
「この暑さから少しでも解放されるには」
二人の男は箒のスピードを上げて風を起こす。
兜は着けていない。前方に飛ぶ男は短めの黒い髪をサラサラと風に靡かせている。髪と同色で大きな真ん丸の目と細身の丸顔は「20歳」の「男」とは思えない可愛らしいベビーフェイスだか、眉間に皺を寄せ大地を見つめる眼力には、何かを向けた強い想いが光っている。
箒の下にはひび割れた土の大地が広がっている。遥か後方にうっすら見える城らしき陰の周りだけ大地のところどころに緑が混じっているが、箒の向かう先には地平線まで茶色の土の景色のみ。
「この辺りもだいぶ乾いてしまっているな。」
黒髪のベビーフェイスが箒のスピードを緩める。すると、もう一人の箒の男が横に追い付き、並走しながら下を眺める。
黒髪のベビーフェイスよりも少し長めの深緑の髪が下向きに垂れた。風に遊ばれた髪の隙間からチラチラと見える顔は、顎が細目で切れ長な目。髪を掻きあげながら流し目で見られたら乙女心を鷲掴みしそうな美青年だ。
「ここまで乾いてしまうと再生は難しいです。前回の見回りではかろうじて残っていた運河や小川の跡も、周囲の大地とともに風に削られています」
深緑の髪を掻きあげ、頭をブンッと振ると髪からはキラキラと汗が散る。
「昨年来た時は町の跡や街道の名残りも見えた気がしたが、跡形も無くなってしまっているな。それに暑さが一層酷くなっているように感じるが」
「植物が育たないので、乾いてしまった大地の温度自体が高くなったせいでしょう。太陽が大地に近づいてきた訳ではありませんよ。」
「本気で思ったわけではない」
「さようでございますか」
深緑の髪の美青年がカラカラ笑うと、黒髪のベビーフェイスは逃げるように先へ飛んでいく。更にスピードを上げて飛んでいく二人は、程なくして砂地と化した大地の上に到着した。
相変わらず、太陽の熱はジリジリと体を焼いて来る。更に、砂となった大地にはキラキラと太陽の光と熱を反射して、今は箒の上からも下からも熱風が吹き付けてくる。逃げ場の無い暑さに日々鍛練を怠らない二人でさえクラクラしてくる。
「こうなっては、どこまでが我が国か分からないな」
ここはかつて、国境を示す林があったところだ。国境は線を引くように林が続き、隣国との出入り口には両国を分ける門があり、それぞれの国境の町もそれなりに栄えていた。両国の門番から出入りを許された人々が往来する町では、自国の言葉や文化を誇示するように宿屋や商店、料理屋が立ち並んでいた。
今は廃墟となった町自体が風に削られて砂に埋まり、一切の痕跡が残されていない。
「バルバロス様の調査では、すでに国土全体が砂に埋もれてしまった国もあるとのことです。そうなる前に隣国と合併しようと動く国もあります。我が国も決断の時が近いと。」
深緑の美青年の言葉に難しい顔で答えた黒髪のベビーフェイスは、首にかけた水色魔石をギュッと握り静かに力を込めた。掌にちょうど握れる大きさの魔石だ。水色魔石を握り「フー」と深呼吸し目を閉じると、魔石からジワッと水が出て来た。
「もう少し」
そう願うと、水色の魔石を握った指の隙間から出た水が、サーッと霧雨のようになり大地に注がれていく。水は降り注ぐ間に一部蒸気になり、半分ほどが大地に届いた。1時間ほど水を降らせたが、大地は濡れるそばから乾いていくので、いつまで経っても乾いた砂のままだ。
「その辺りにしましょう。そろそろ戻りませんと、夜ここは真冬になりますので。」
夕方が近づいて来たのか、太陽の熱は少し攻撃を緩めたように感じる。ソヨソヨと吹く風にも時折ヒヤッと感じるようになった。
「こんなもの程度では何の役にも立てないが、何もしないよりは良いよな」
「はい。何事も想いが大事です」
残念そうに大地を眺める黒髪ベビーフェイスに、深緑の美青年がニコリと返す。二人はそれぞれ、胸元の金色の石を両手に大事に握り俯き祈ってから、来た空へ戻って行った。
少しずつ書き進めて行けたらと思っています。よろしくお願いします。




