早くも魔石開発に行き詰まる
子供教室もまともに通えなかったセイリアはいろいろと経験不足なのです。
新しく出来た緑色の魔石は曇り無く透き通った石で、石を除くと向こう側が緑色に見える。
「効能はどうかしら。私の特徴を引き継いでいる?色からして怪しいものだけど」
「ちょっと待って。試してみるね。」
セイリアは透き通った緑色の魔石を握り込むと力を込めてみる。体がスーッと涼しい感覚と共に、だんだん込める力が抜けて行くような感覚に襲われ、慌てて魔石を放り出した。
「どうしたの?」
「うん。なんか、力が抜けて行くような気がしたから。もう一度やってみる。」
セイリアはもう一度緑色の魔石を握り込み、力を込めて行く。だが、今度も込めた力を石に吸い取られるように力が抜けて行く。そして、ゆっくりと握った手を開き、調合台へ魔石を置いた。
「レディサン。この魔石、残念だけど使えないかも。魔石を作ったり使ったりする為の力が吸い取られていくようなの。それ以外の効能はあるのか・・・。」
「え、嘘!そんな!セイリアの力を吸い取るだけの魔石だなんて。私、役に立つどころか・・・。」
レディサンは花弁を青くして俯いてしまった。いつも側に置いてくれているセイリアの役に立てるチャンスだと思い提案したのに、自分という素材からそのセイリアの力を吸い取ってしまう魔石が出来上がってしまうなんて、迷惑をかけたとしか言いようが無い。セイリアに申し訳ない思いで一杯になった。
「ねぇ、レディサン、落ち込まないで。何でも試そうって言ったでしょ。きっとこの魔石もいつか必要とされる日が来るわ。今は使い方が分からないだけ。黄色魔石と同じ。ね、元気出して。」
セイリアがレディサンの花弁を除き込んだ。レディサンは涙が出るなら泣きたい気分だったが、気持ちを切り替える為に花弁を上向きにし、薄い黄色に色を戻した。
「そうだ。セイリア、その魔石、私の鉢の近くに置いてみてくれない?」
「良いけど。」
セイリアはレディサンの鉢の横に緑色の魔石を移動した。
「黄色魔石は私の横に置いてあったから効能が分かったでしょ。今回もそういうの、無いかなって思ったの。効能が役に立ちそうに無いなら、せめて私も一緒に効能を調べたいわ。」
「ありがとう、レディサン。でも、役に立たないなんて今は決められないんだから、それはもう気にしないでよ。」
「セイリア、しつこーい。もう慰めないで。これでも、泣きたいのを我慢しているんだから。とりあえず、すぐには魔石から何かあるのか無いのかは分からないと思うから、しばらく様子見ましょう。」
「じゃ、お茶にしよう。」
セイリアが先ほど沸かしたお湯でお茶を入れた。だが・・・もうガッカリだ。二人ともガックリと肩を落とした。新しい魔石作りは始めたばかり。成人して経験のある大人なら、たった二つで落ち込むまではいかないだろう。出来上がったのはたかが二つだが、二つとも使えない魔石だったことが未熟な二人には早くも辛かった。
二人が、何を話せば良いのか考えては、やっぱり話すのをやめて、を繰り返した結果、シンと静まり返った調合室で、しばらく時間が過ぎた。結局、レディサンには効能は感じられないまま夕方になったのか、リューグが白魔石を乗せる予定の鉢を調合室に運び込み始めた。
何度も出入りする間も黙ったままの二人の様子にリューグは息苦しい空気を感じた。だが、喧噪な空気でもなく、原因が思い当たらない。喧嘩した訳でないなら、この空気の原因は何なのか、リューグは鉢を運びながら二人を良く良く観察した。二人が朝と違うところは何か。
「レディサンに今日何かした?」
「え、何って?」
「レディサン、元に戻ってるよな、葉の厚みも茎の太さも。セイリア、レディサンに何かしたのか?」
セイリアとレディサンはビクッとした。悪いことをした訳では無いのだが。
「な、セイリア。何したんだ?」
「えーと・・・レディサンから魔石を・・」
「魔石?これか。」
「あ、お兄ちゃん、あんまり触らないほうが・・・。力を吸い取られてしまうようなの・・・。」
「なに?!」
あー、怒られる・・・。セイリアとレディサンは悪いことをした訳では無いのに、なんだかそんな予感がした。
そんな二人を余所にレディサンを観察するリューグ。「ふむ、弱ってはいない」葉や茎を慎重に見たがレディサンに問題は無さそうだった。
「レディサンが元に戻ったのは魔石を作った時か、その前か、あとか、分かるか?」
「たぶん、作った後です。出来た時は変わっていなかったので。」
「レディサンがそういうなら、魔石を作った後、何か変わったことは無いか?魔石は力を吸い取るっていうのもレディサンが調べたのか?」
「いいえ、それはセイリアが。魔石が出来てすぐに確かめてくれて。」
「そうなの、握ったら力が抜けて行くようだったから、そうかなと。その後はレディサンの鉢の横に置いて様子見していたところよ。」
二人の説明を聞きながら、リューグは目を閉じて考えた。黄色魔石を鉢の横に置いておいたら健康優良児化し、新しい緑魔石を鉢の横に置いておいたら元に戻ったと。
「もしかして、この緑魔石は黄色魔石から受けた影響を吸い取って元に戻すんじゃ。」
「お兄ちゃん!すごい!なるほど、それはあるかもね。」
「リューグ、すこい。この緑の魔石はただ吸い取るだけじゃないんですね。」
「たださ、その効能って、いつ使うんだ?」
緑魔石はやっぱり使い道の見つからない残念魔石だった。
その後、数日、新しい魔石の事をポレストに相談する予定だったセイリアとリューグだったが、ポレストは連日、早朝から夜遅くまでの外出が続き話せない日が続いた。その間、リューグはいつも通り庭の植物たちの世話に追われ、セイリアは白、水色、蒼色の魔石の在庫を補充すべく魔石作りに精を出していた。そして、もう一週間以上が経ち、新しい魔石のことなど忘れ始めた頃、ヤンが庭にやってきた。
セイリアは庭の中央の井戸の横の重鎮の木の下でレディサンと日差しを避けて休んでいた。
「やあ。聞いたか?今日の夕方のこと」
「聞いたわ。王宮からミストを風に乗せて届けてくれるそうね。」
「セイリアの作っていた魔石を使うんだってね。」
「すごいでしょ。」
色黒の肌に白い歯を光らせて笑顔でやってくるヤンにセイリアは自慢気な顔で出迎えた。
「ちょっとは涼しくなるのかな。」
「さあね。私には分からないわ。夕方のお楽しみね。」
今は昼過ぎ、お日様が一番高く熱い時間だ。お日様の光を浴びた地面からもお日様の熱が伝わってくるような暑さで、重鎮の木の陰に居てもジリジリと肌が焼けるのを感じる。
「こんな時間に悪いね。いつもの庭師たちは、今日は別の仕事で外せないんだよ。それでセイリアにまで手伝ってもらうことになってしまったんだけど、たまには外を見るのも良いぞ。」
今日はヤンの手伝いで中央通りから下町を出たところにある検疫所へ行くのだ。今までも、ジェッソン薬草園の手が足りない時にリューグが手伝いに出ていたが、今日はセイリアも一緒だ。ヤンはセイリアとリューグを迎えに来たが、一旦、薬草園に戻って荷を積まなくてはならないので、三人は急いで門前に停めてある馬車へと歩き出した。
「おまえ、もしかして、下町出るの初めてじゃねえか?」
「そうだけど、なにか」
セイリアはヤンの言葉に棘を感じて頬を膨らませた。
「また、そうやってすぐにふくれるな。来年はもう成人だろ。だいたい、この年まで下町を出たこと無いヤツはセイリアくらいだぜ。もっと外に出たほうが良いんじゃねえかい。」
「それどころか、子供教室以外に出かけるのは初めてだな、セイリア」
セイリアの後ろから急ぎ足でやってきたリューグがからかうように言った。
「マジかよ。確かに、薬草園にも来たこと無いな。」
「特に出かける用事が無いだけよ。」
セイリアは更に頬を膨らませながら馬車の荷台に乗り込む。続いてリューグが乗り込み、ヤンが御者の席に着くと馬車はすぐに出発した。
「初めての外は楽しみだな。」
馬車を走らせながら振り返り、色黒の肌から真っ白い歯を光らせて悪戯っぽく笑うヤンに、セイリアはもう一度頬膨らませて睨んでやった。そして、セイリアは新しく作った二つの魔石のことは、もうすっかり忘れていたのだった。
経験が少ないと初体験が多いというは、見方によってほ良い点でしょうか。




