お日様の力
一晩、黄色魔石の隣で過ごしたレディサンの考察です。
セイリアの部屋の机の上で、すっかり健康美を取り戻してしまったレディサンは、隣に置かれ暗闇にうっすらと黄色い光を漏らす石を睨むように見つめていた。せっかく陽の光や水の吸収を抑えたダイエットにより作り上げた、この華奢な体を一晩でこんな健康体にされてしまった。
「これまでの苦労が台無しよ。」
ただ、今、その感情だけでセイリアを起こしたところで「またダイエットすれば良いじゃない」
と返されるのが落ちだ。世話の回数が減って楽になるセイリアには願ったり叶ったりで大喜びだろう。
「セイリアが起きる前にもう少し原因を考えておく必要があるわね。」
この、隣に置かれている黄色魔石は、昨夜、セイリアたちと一緒にポレストも一緒に観察したが、石の効果は「自ら温かくなり力を込めると更に温度を上げる」程度にしか分からなかった。もう少し詳しい効果が分かれば新しい魔石作りはまた一歩前進する筈だ。レディサンは、とりあえず、魔石が出来た経緯から振り返ってみることにした。
「そう。この石はお日様の力を借りて出来た子だったわね。だったら、熱くても納得。お日様は熱いものだもの。空の遠くから照らされているだけでも十分暑いのだから、お日様自体は大変な熱を持っているのでしょうね、きっと。そういえば、寒い国出身の薬草仲間たちは、温かい恵みの光、読んでいたような。」
黄色魔石が自ら温かいのはどうやらお日様と同じように自らの作用と考えて良さそうだ。ということは、温度以外の性質もお日様の作用と同じなのでは無いか。
「そこで私が困っているのは、突然の体形変化よね。どうしてこんなに葉も茎も、元気一杯健康優良児体形、になってしまったのかしら。昨夜、水をダイエットしたけれど、この石が私に水をくれたとは思えないし・・・」
仲間が元気の源としていたのは「水」「お日様の光」。だが、今夜、この地下にお日様の光が差したとは思えない。今も隙間なく真っ暗だ。敢えて言うなら、この石自体が、ほんのり光っているとも言えるが、ほんのり、ほんのりだ。仲間が喜んでいた空から注がれる光には到底及ばない。とても弱い光だ。
「さて、他の私の変化は・・・。花の色はいつも通り上品な薄い黄色でしょ。葉が青々と茎は骨太になっちゃったけど、良く分からなったでしょ。あとは・・・そうだ、鉢の中」
レディサンは鉢の中に意識を注いだ。そうだ、それで目が覚めたのだ、根が温かくて。ここは地下なので外があれだけ暑くても部屋はいつもヒンヤリ涼しい。なんなら、本来、陽の光を浴びて成長するレディサンの一族としては、セイリアの部屋は少し寒いくらいだ。それなのに、今は鉢の中がポカポカしている。
「久しぶりの土の温かさ、うーん、気持ち良いかもー!って、違うわ。何故なのかな。」
レディサンは改めて自分の足元と周囲を見回した。いつもと違うのは同じ机の上にある黄色魔石の存在だけ。大理石に似た板に乗せられているので、机上よりも少し高い所に鎮座している。丁度鉢の真ん中辺りの高さになる。
「魔石は鉢の真ん中辺りの高さにある・・・そうなのね。この石が鉢の中を温めているのね、やっぱり。」
閃いた自分を誇るように、何も見えない暗闇の中でドヤ顔のレディサンだ。そして、意識を注意深く鉢と魔石へ注いだ。すると、魔石に面していない側の土よりも魔石に面している側の土の方が温度が少し高く感じた。
「そういえば、セイリアは魔石から何か温かいものが来るって言っていたわね。」
そのつもりで更に根に意識を注いでみると、温かい風のような、日光浴の時にお日様の光を浴びているような感覚があった。
「ふむふむ。この魔石は小さなお日様ということなのね。だから、お日様を浴びて栄養満点になったように元気になった。この魔石は熱と共にお日様の力も発していたと。なるほど、納得。」
レディサンは腕があれば腕組みしていただろう。そして、壁があれば偉そうに壁によりかかり、足があれば足を軽く組んでいただろう、偉そうに。レディサンはお姉さまらしくセイリアに説明する様子を想像しながら、暗闇の中で満面のドヤ顔。
「私のお陰で、この黄色魔石問題は大きく解決だわ。うふふん。」
ひとしきり、お姉さまの気分と、関心と感謝の言葉を浴びる想像をすると、大事な事を思い出した。
「そうだ、しばらくは日光浴をお休みさせてもらわなくっちゃ。これ以上元気モリモリな体形になっては大変だもの。それとこの石。私の側には置かないように頼まなくっちゃ。」
報告内容と伝達事項を整理し、セイリアがまだ起きるのを二度寝しながら待つことにした。
レディサンがたっぷり二度寝をし、リューグが朝の植物の世話を終えた頃、ようやくセイリアが起きた。寝ぼけながら台所へ向かおうとするセイリアを留め、先にレディサンは明け方の考察と伝達事項を伝えた。
「しばらく日光浴はお休みね、分かったわ。私も暑いの嫌だし、丁度良いわ。」
予想通り、セイリアは仕事が減り外へも出ないで済むので喜んでいる。石の効果で健康優良児体形になってしまったレディサンの姿には感心しきりだが。
「すごいねー。お日様の力で水もあげてないのに一晩でこんなに健康体になんて。スリムな体形が好きならそれでも良いけど、今の姿も素敵よ。」
「ずっと水やり無しだったらお日様の力があっても具合悪くなると思うわ。それと、私の役目は収穫ではなく、この美貌でセイリアを癒すことだわ。健康体は求めていません」
キリッと答えるレディサンを「私はどっちでも良いけどさ」と軽く流すと、セイリアは急いで朝食に向かった。
朝食を終えるとセイリアはリューグと調合室へ行き、今朝、レディサンから聞いた話をした。
「ふーん、ホントだ。昨日、あんなに水やりしたほうが良いって言ったのに、萎れるどころか凄く元気じゃないか。驚きだなー。」
リューグは細部までレディサンを観察する。
「この魔石の隣にいたことで根が石の力を取り込んだ、それが原因と思われると。」
今度はヤンの「考え中の体勢」のように腕組みした片手を顎に当てたリューグにレディサンが答える。
「違うわ、リューグ。この魔石が一方的に送り込んでくるのよ、お日様の力を。だから、取り込んだのでは無く、強制的に吸収させられた、と言うのが正しい表現だと思うわ。」
「えーと、そうしたら、土から水を吸い上げるのでは無く、日光浴の時に否応なくお日様を浴びているような感覚?」
「そうそれ!さすがリューグねぇ。」
そして、もう一言。
「セイリアには全く通じなかったのだけど。」
今朝、早く朝食に行きたいが為に途中から適当に聞いていたセイリアは、確かに理解はしていなかったが、「ここでそんなことをバラすなんて」と拗ねてしまった。そして、
「どうして、そういう要らない事を言うかな。」
と言い、プーッと頬を膨らませた。
「そうなるとだ。発せられた力が一方的に影響を及ぼすということだ。そして、この力がどのように地下王国に影響を及ぼすのか、今は読めない。植物が元気になるのは分かったけど、人がその影響をどう影響を受けるか分かるまでは使うのは危険だよ。父さんにも伝えるとして、とりあえず、この魔石は石の箱に入れて保管しておこう。」
リューグは調合台の下の扉を開け、調合台と同じ石で出来た箱に黄色魔石を閉まった。
「あーあ、せっかく出来たセイリア魔石第一号だったのに残念。」
「まあそう言うな。切り替えだ。今日はセイリア魔石第二号が出来るかもしれないだろ。」
「ま、失敗って訳でもないし、ま、いいか。」
切り替えは得意なセイリアなのだ。
魔石研究は続きます。




