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ビーシュリンピア  作者: クラウンデイジー
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不思議な庭

黄色魔石が出来た日の午後のセイリアの様子です。

セイリアは1階のダイニングの自席に座っていた。テーブルを挟んだ向かい側にはセイリアの腰の高さから天井まである大きな窓があり、午後の日差しが窓の中央よりやや右側から差し込んでくる。


昼過ぎからセイリアはずっとここでボーっとしている。午前中に珍しく長い時間を庭で過ごしたので、疲れが出たようで怠い。ただ、部屋に戻ってゴロゴロする気にはなれず、調合室で何かの作業をする気にはもっとなれない。なので、ただ、なんとなくダイニングでテーブルに肘をついてボーっと庭を眺め続けていた。


リューグはお昼前にヤンと共に出かけて不在だ。黄色魔石が出来た後、引取りの鉢を積み込み中央通りの宿屋に所用があるというヤンに、その足で完成した魔石を王宮へ運んでもらったのだ。今頃は、王宮の帰途について、中央通り飯屋あたりで遅めの昼食を摂っている頃だと思う。


「セイリアは暑さに弱いのね。顔が赤いし、冷たい水でも飲んで涼しい地下の部屋で休みましょう。」


テーブルのレディサンが心配気に花弁を薄い黄色から白に近く色を変えている。


「うーん。横になりたい気分じゃないんだよ。それに、この魔石のことも調べないとね。」


セイリアはテーブルの真ん中に直に置かれた黄色魔石をやる気なさげに見たが、またすぐに庭に目をやる。


「そういえば、この家には訪問者が少ないのね。ヤンのところに居たときは、通いの庭師もたくさんいたけれど、薬草を買いたい人や、旦那さまや奥様や、たまにはヤンのお友達が来ることもあったわ。ここにはヤンは来るけど他の人といえば王宮からの使いだけだもんね。セイリアはお友達が会いに来たり出かけたりしないの?」


「そうね。友達といえるのはヤンとミェールだけだし、特に会いに行きたいとも思わないし、ミェールは用が無ければ会いに来ることもないわね。ミェールはね、お兄ちゃんとヤンと同じ年の薬師だよ。ヤンと同じように王宮御用達の家で、薬屋の一人息子なの。お爺様は王医様なんだって。」


「また、男の子。女の子のお友達はいないの?」


「うーん。子供教室に通っていた頃、教室にはいろんな子がいたから話くらいはしたかもしれないけど、ほら、魔石の話とかをうっかり喋っちゃうと大変だから、父さんとお兄ちゃんに煩く注意されて。で、失敗して怒られるが嫌だったから、だんだん話をしないようなったの。なんて言ったって、ほら、私うっかり屋だからさ。」


セイリアはイヒヒと笑った。


子供教室は「北の下町」の出口近い所にある。「北の下町」は下町の中では通いの仕事をしている人たちの家が立ち並ぶ貧民街だ。ただ、北の通り沿いにある子供教室は小綺麗な石造りのお屋敷の雰囲気漂う建物で、玄関の前には小さな庭もあり、手習い前後や休憩時間には教室から出てきた子供たちで大賑わいとなる。


そして、下町の9歳までの平民の子供はだれでも通うことが出来るので、通わせる余裕のある家庭から子供が通って来るのだ。もちろん、家業が忙しい時期や家に何か起きればすぐに通う余裕が無くなり、欠席や辞めてしまう子供もとても多い。また、誰でも通えるということは子供の家の家業が何であれ良いということにもなるので、中には体裁の良いとは言えない家庭の子供が通って来ることもある。そんな中で、魔石の重要な秘匿事項をセイリアが口を滑らせれば、国の一大事だ。


だから、ポレストはリューグを子供教室へ通わせる時に、とても時間をかけて悩んだ。子供が全ての約束を守れる訳が無いし、そもそも人は失敗する生き物だ。気を付けていても、いつ口を滑らせるか分からない。成長後は国を支える筈の子供の教育とあって、ハインリッツから「王子と一緒に教育しても良い」との誘いをもらってもいた。「だが、自分たちはどう転んでも平民だ。」ポレストは子供たちに魔石作りを教える年齢を出来るだけ遅くし、子供たちの魔石の知識を最小限にすることで、可能な限り子供教室へ通わせることにした。ポレストは、王宮での特別教育を受けたことでハインリッツの厚い信頼を得る立場となったが、あまり多くの人と関わったことが無い為に、人付き合い、特に平民との付き合いが上手くできないと自覚があった。だから、子供達には平民の子供らしい生活と出来るだけたくさんの人との出会いを経験させてあげたかったのだ。


だが、現実はそう上手くはいかなかった。教室にいる間は誰と話しても良いが、家業を大ぴらに言えないので家族ぐるみでの友達付き合いは出来ない。教室ではお互いの家業の話は子供たちの話題人気第一位だ。何の質問に答えてくれないリューグの周りは、最初は大勢子供が取り巻いていたが少しずつ減った。そして、残ったのは同じように話題に困っていたヤンとミェールだけだった。その二年後に子供教室に通い始めたセイリアだったが、セイリアよりも二年早くリューグたちが家業の見習いに入ってしまうと、とうとう話せる相手がいなくなり、結局、リューグたちの半年後、早めに見習いに入る為、教室を辞めてしまった。


セイリアは教室の読み書きが苦手で、宿題もあれやこれやと理由をつけてはサボっていた。結局、仲の良い友達も出来なかった。だから、教室を辞めても名残惜しさは無かった。ただ、ポレストの部屋にある代々の研究資料を読まなくてならない事態になった時にサボったツケが回って来る。何が書いてあるのか読むのも理解するのも、リューグよりも作業に時間がかかってしまうので、その時だけは少しサボったことを後悔するような気がした。


「セイリアの女の子のお友達第一号はやっぱり私だったのね。」


レディサンは薄い黄色に花弁の色を戻し優しい声で言った。


「そうなるわね。」


セイリアも穏やかな声で答えた。セイリアは友達なんて欲しいと思ったことは無かったが、ここ最近のレディサンとの会話で「友達も悪くないわ」と思い始めていた。話題に制限の無い友達なら。


ダラダラとこれまでの生活の話をしている間に、窓に差し込む光が更に右に傾ていた。すると、相変わらず、ボーっと庭の井戸に向けていたセイリアの目に珍しい光景が映った。


「お客様かしら」


門から真っすぐ此方へ二人の男が歩いてくる。モスグリーンの外套を羽織った筋肉隆々な男たちだ。ポレストからもリューグからもお客様の来訪は聞いていない。


「どなたかしら。」


レディサンも窓の外に花を向けた。


「でも、此処まで来られる人たちかしら。」


「どういうこと?」


「まあ、見てて。たぶん、あの二人は此処へ来られないから。」


セイリアの言う通り、モスグリーンの外套の二人は、随分長いこと此方へ向かって歩いているが、一向に近づく気配が無い。井戸の手前までは順調に進んでいたように見えたが、そこから前に進んでいないようだ。そのうち、モスグリーンの外套の二人は此方に背中を向けて歩いて出て行ったように見えた。


「あー、やっぱり。ほらね。きっとあの二人は歩くだけ歩かされた挙句、門に案内されたちゃって出て行くしかなかったのよ。」


「誰に案内されたの?ずっと二人で歩いていたように見えたけど。」


「うーん。私はちゃんと此処に辿り着けるから分からないんだけど、小さい時に初めて来たヤンは、最初は建物が見えたのにそのうち背の高い薬草に囲まれた道になって、気が付いたら門から出てたって言ってた。父さんは庭の守りのせいだって言ってたけど、細かいことは知らないわ。」


「でも、ヤンはいつもちゃんと来られるじゃない。」


「うん、そのことがあってから、ヤンのお父さんと父さんと王様が話し合って、入れるようになったみたいよ。」


「そうなんだ。此処に来るには王様にも話を通さないといけないのね。それは子供教室の子たちには言えないね。この家には他にも秘密がたくさんありそうね。」


「そうかもね。」


セイリアは軽く答えると、ようやく午後中座った椅子から立ち上がった。そして、今度はダラダラと台所に立ち、夕飯の支度を始めた。結局、午後中、黄色魔石はテーブルの上に放置されたままで。


リューグが帰ってきたのは夕方、日が窓から差し込まない角度まで落ちてからだった。ヤンの父のジェッソンのところに行っていたポレストと一緒にジェッソン薬草園から歩いて帰ってきた。三人そろったところで、いつも通り簡単な夕飯を摂り、揃って調合室へ向かう。階段を降りるときに鉢を抱えてくれているリューグがレディサンに話しかけた。


「この間、預かっていた月夜草が無事に土に戻ってきて元気になってたよ。」


「あら、ご婦人方がお元気とはなによりですわ。」


「君に名前が付いたことには驚いていたけどね。」


「ジェッソン薬草園始まって以来の大出世でしょ」


会話をしている間に到着する。二階分はある深い階段を降りるとすぐの部屋が調合室だ。


まずは、セイリアが午前中に作った黄色魔石を調べる。どんな効果があるのか分からないので、一応、直接手に触れないようお盆に乗せて運んで来た。調合台の中央で黄色魔石はお盆に乗ったまま置かれている。三人は目線が調合台の盤面と同じになるように屈み、側面から観察を始めた。色は明るい黄色だが、部屋の光に当たり角度によりところどころキラキラ光って見える。上から見てもそれは同じだ。魔石全体にキラキラ成分が混じっているらしい。表面もツルンとしているので、パールイエロー色の水晶といった感じに見える。


次に効果を調べていく。午後中、ダイニングのテーブルの上に直置きしていても、木製のテーブルには何も影響が無かったので、そのままの状態では溶かしたり燃やしたりといった危険は無さそうだ。


「セイリアが作ったのだから、とりあえずセイリアが触る分には危険は無いだろう。セイリア、感触や何か変わったことが無いか、魔石を握って試してみなさい。」


セイリアはお盆から黄色魔石を持ち上げ、まずは力を込めずにただ右手に握ってみた。


「右手が温かい・・・あ、この石、何もしなくても温かい。あと、なんか変な感じがする。うーん・・・石から温かいものが入って来るみたいな・・・」


「温かいか。なるほど。では、危険を感じないなら、力を込めてみて」


ポレストの指示通り、今度は右手に力を流して石へ込めていく。すると、黄色魔石は温度を上げ熱くなってきた。


「熱っ!これ以上やったら火傷しちゃうよ。」


セイリアは慌てて手を離し、黄色魔石はバンっとお盆の上に落ちた。


「どれ。」


ポレストが指先で慎重に黄色魔石を摘まむと、なるほど、素手では持てない熱さだ。耐熱性のグローブを嵌めて温度計を当ててみると85度だった。セイリアは十分に力を込めたわけでは無いのにこの温度。黄色魔石の限界は何度なのだろうか。熱くて持てなくなるので、これ以上の温度になることは無いだろうが注意が必要だ。


「温かいものが入ってくると言っていたのはどうなった?」


リューグが調合台の向かい側から聞いてくる。


「うん、何か熱い感じが流れ込んできたけど、すぐに触れなくなっちゃったから良く分からなかった。」


「気持ち悪いとか苦しいとか、そういうのは無いか?」


「うん、父さん、そういうのは無い。どちらかというと、さっきまで怠かったんだけど少し元気になったような、気のせいのような・・・」


「うーん・・・」


ポレストは唸ったが、結局、この夜、黄色魔石のことは温度のこと以外はわからないまま就寝となった。


その夜、黄色魔石はセイリアの部屋でレディサンと共に机にあった。一応、小さな大理石のような調合台と同じ魔石の力を通さない石で出来た小さな板の上に置かれていた。此処は地下で窓も無いので、灯を消してしまえば隙間なく真っ暗だ。セイリアとレディサンはいつも通り、くだらないお喋りをしてから灯を消し、眠りについた。


もう明け方という頃、レディサンは鉢の中の根が温まっていることに気付いた。しかも、昨日よりも葉も少し厚みが増し、茎が骨太になった感じがした。おかしい。昨日の午後はダイニングでダラダラしていたセイリアと一緒にダラダラしていたから夜の水やりは断った。だから、今朝は少し葉が萎れかけ茎は力を無くしているはずだ。それなのに、薬草園の仲間みたく、今朝は健康優良児のような体調だ。これは困る。レディサンは華奢な観賞用の花でいなければならないのに、これではセイリアに収穫されかねない。


レディサンは慌てて鉢の周りを見回した。なぜ、こんなことになったのだろうと。そして、見つけた。鉢の横でうっすら黄色の光を漏らしている新入りの石を。


「わかったわよ。原因は、あなたね」

レディサンは健康美は目指していないのです。

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