イノシシ
さて、どうやら街道の真正面から『敵』がやって来ているみたいなのだけど。
周囲の地形としては、私たちが通ってきた街道の右手に崖。左手に深い森がある。
左右には逃げにくい状況で、来た道を逃げれば接敵は回避できる……ように思える。
でも、それが罠である可能性もあるわよね。逃げ道に伏兵を潜ませていたり、森の中から奇襲を狙っていたり。
その辺は冒険者たちも理解しているのか、護衛の大部分は奇襲に備えて馬車の周囲に固まり、私とニッツさんたち『暁の雷光』が真正面からの敵を迎撃する形となった。
「……もしかしてニッツさんたちって強いの? 他の冒険者たちも迷うことなく正面を任せていたけど」
「ははは、まぁな。これでも将来有望な冒険者パーティーで通っているからな。――惚れるなよ?」
「はいはい、まずは惚れたくなるような活躍をしてみせてよね」
「へっ、こりゃあ気合い入れないといけねぇな。なぁガイル?」
「……まったく、相変わらず口の軽い男だな」
ニッツさんの軽口に呆れながらも、私からの視線に気づいた途端『キリッ』とした顔をするガイルさんだった。おもしれー男……。
私たちが臨戦態勢を整えていると、街道の向こう側から土煙が近づいて来た。……土煙? 身体が小さいゴブリンではいくら走ったところで土煙なんて立たないはず。いやでも冒険者としての経験が豊富そうなニッツさんはゴブリンだろうって言っていたわよね?
ミーシャちゃんの探知魔法によるとかなり数が多いそうだから、数十匹単位のゴブリンが纏めて突撃してきているとか?
街道の先はちょっとした坂になっているので、その先にどれほどの『敵』がいるかは見通せない。
そんな坂から姿を現したのは――イノシシの集団だった。
あ、いや、イノシシ型の魔物・ワイルドボアかしら? イノシシより大きく、凶暴な存在だ。
そう。イノシシより大きく凶暴な存在。それが十数匹こちらに突っ込んできたのだ。
ワイルドボアのあまりの勢いにちょっと涙目になる私。
「ご、ゴブリンじゃなくてイノシシじゃない!」
もっとちゃんと探知魔法を使うべきだったわ! ニッツさんを信頼せずに!
「すまん! 間違ったみたいだ!」
素直に謝るニックさんと、
「いや! ワイルドボアの後ろにゴブリンがいる! おそらくボアたちはゴブリンに追い立てられているんだ!」
目の前にイノシシの集団が突進してきているのに冷静なガイルさんだった。正直ガイルさんに惚れそうだわ。
ともかく、あんな勢いで突っ込んでくる巨大イノシシを止められるはずがない。
「――避けて!」
私が全力で叫ぶと、ニッツさんたちは半ば森に身を投げ出す勢いでイノシシの突撃を避けたのだった。
後ろにいた冒険者たちもそれぞれ反応したようで、森に逃げ込んだり馬車に身を隠したりして難を逃れたようだ。
イノシシたちはそのまま暴走し、私たちには目もくれずに街道の反対側に消えていった。
「……最悪」
せっかく万全の体勢で魔物を迎え撃とうとしたのに、陣形がバラバラになってしまった。急いで立ち上がり、複数人で固まって迎撃しようとするけれど――
『――げひゃひゃ!』
こちらが体制を整える前に。不愉快な叫び声を上げながらゴブリンたちが襲撃してくる。街道の真正面から。――そして、後ろからも。
「あらら、挟み撃ちね」




