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異世界BBQ ~今日も魔物の肉が美味い~  作者: 九條葉月


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6/20

戦い

 どうやらゴブリンは二手に分かれ、一方は真正面からイノシシをけしかけ、もう一方は森を迂回してこちらを挟み撃ちにしたみたいだ。


 ゴブリンというのは小型の人間みたいな魔物であり、緑色の皮膚と禿げ上がった頭が特徴だ。武器は主に棍棒で、ごく稀に人間から奪った弓を使う個体がいる程度。


 つまり、自分たちで剣や弓矢を作れるほどの知恵はないはずなのだけど。


(まずはワイルドボアを突撃させてこちらの陣形を乱し、さらに前後から挟み撃ちをしてくる……。ゴブリンにしては頭が良すぎる(・・・・・・)わよね?)


 気にはなるけど、あまり深く考えている余裕はない。ゴブリンたちが次々と襲いかかってきたからだ。


 愛用の『刀』でゴブリンを切り伏せながら探知魔法を発動。……うわぁ、前後合わせて100匹近くいるわね。


 対するこちらの戦力としては30人ほど。基礎能力(スペック)では人間がゴブリンを圧倒しているとはいえ、1人で3~4体は倒さなきゃいけない計算。普通に戦えば厳しい戦力差だ。


 不幸中の幸いがあるとすれば。

 真正面を任された冒険者パーティー・『暁の雷光』が強かったことだ。


「――シッ!」


 まだ少年であるはずのフェイス君がゴブリンたちの集団へ斬り込み、投げナイフと身軽な動きでゴブリンの注意を引く。


 あの身のこなし、斥候(スカウト)かしら?

 子供に戦わせるのは危ないけど、子供だからこその軽い動きだ。


 ゴブリンの意識がフェイス君に向かったところで、盾役のガイルさんが敵の左翼から突撃。複数のゴブリンを大盾で押しつぶしつつ、群れの動きを自分に引き付ける。


 そして、ガイルさんが十分『盾役・囮役(タンク)』としての使命を果たしたところで――ニッツさんが仕掛けた。大剣の重さと頑丈さを活かし、斬るというよりは叩き潰していく。


 ゴブリンの血と絶叫が降り注ぐ中、


「――支援魔法、行きます!」


 ミーシャちゃんの呪文詠唱が終わったらしく、私たちに光の粒子が降り注いだ。――身体が軽くなり、力が湧き出てくるかのような感覚。


 支援魔法というのはだいたいの場合が『なんだか身体が軽くなった気がする』程度であるはずなのだけど、ミーシャちゃんのものは効果が確信できるほど強力だった。


 そのままの勢いで次々にゴブリンの数を減らしていく暁の雷光。あまりにも見事な連携なので下手に割り込むと逆に邪魔しちゃうわね……。


 しかし支援魔法をもらったのに見学というのも気が引ける。


 後ろに回ったゴブリンは他の冒険者たちで対処できそうなので、やはりここは数が少ない暁の雷光に加勢するべきでしょう。


「…………」


 冷静に戦況を見極めた私は、子供であるが故に体力が少なく、少し動きが鈍ってきたフェイス君の助太刀に入った。


 まずは魔力で『糸』を編み、フェイス君の背後に迫っていたゴブリンを絡め取って拘束。目に見えない魔力の糸にゴブリンが戸惑っている隙に距離を詰め、頸動脈を切り裂いた。


 そんな私の乱入を、ニッツさんとガイルさんは広い視野できちんと把握したらしい。


「お! フェイス! そんな綺麗なお姉さんに助けてもらえるとは羨ましいじゃねぇか!」


「まったくだ! 俺も苦戦してみせるべきだったな!」


「……うるさい」


「ちょっと男子! 真面目に戦ってください!」


 即座にふざけるニッツさんとガイルさん、照れ隠しにツンツンするフェイス君。そんな男子を叱るミーシャちゃんだった。いい雰囲気だなぁ。


 もちろん、男子組だって遊んでいるわけではない。ニッツさんは大剣をふるって二、三体のゴブリンを一気に叩き伏せているし、ガイルさんも攻撃を引き付けつつ隙を見て反撃している。フェイス君だって動きは鈍ってきたけれどちゃんと投げナイフで一体一体確実に仕留めていた。


 まぁつまり、腕前も雰囲気も良いパーティだった。ちょっと騒がしいけどね。


 私も負けていられないので再び『刀』を振るう。ニッツさんやガイルさんのように叩き潰す戦法は美少女らしくないので、急所を確実に切り裂いていく感じで。


 そんな私の活躍を見てニッツさんが目を丸くした。


「おいおい! すげぇ切れ味の剣だな!?」


「これは剣じゃなくて、刀よ。東の島国の民がよく使う武器」


「カタナねぇ。いいなぁ。俺も手に入れられるのか?」


「商人に頼めば入手は出来るんじゃない? ただ、大剣とは扱い方がまるで違うから、一から修行のやり直しになると思うけど」


「あー、そりゃあちょっと勘弁して欲しいぜ」


 そんなやり取りをしつつ着実にゴブリンを潰していくと――ゴブリンたちが今までにない動きを見せた。不用意な突撃を止め、集団で固まり、じりじりとこちらを包囲するかのように近づいてくる。


「ちょっと判断が遅いけど、それでも『囲んですり潰す』ことを思いついたのかしら?」


 やっぱりゴブリンにしては頭がいいわよね? どこかに指揮官みたいな存在がいるのかしら?


「……あそこ」


 フェイス君が指差した先にいたのは、少し目立つ格好をしたゴブリンだった。


 他の個体は下半身を隠す腰蓑(こしみの)程度しか衣服と呼べるものを着ていないのに、あのゴブリンは粗末ながらも羽織のようなものを身につけ、鳥の羽を括り付けた冠を被っている。あとは他の個体より体格も良さそうだ。


「ゴブリンのリーダー格かしら?」


「リーダー……あぁ、そう言われればリーダー(ニッツ)に似ているかもしれん」


「はははっ、ガイル。あとで覚えてろよ」


 ゴブリンは醜悪な顔であるというイメージがあるので、ゴブリンに似ているというのは結構な侮辱であると思う。……まぁ、そんな軽口を叩き合える仲と好意的に解釈しておきましょうか。ニッツさんはイケメン寄りだし。


 完全に囲まれた中、さすがに背後からの攻撃を警戒するのは難しいので、暁の雷光と私で円形の陣を組む。接近戦ができないミーシャちゃんと、かなり疲労しているフェイス君を中心にして守りつつ、私、ニッツさん、ガイルさんで背中合わせになる。


 ――何とも戦いやすい。


 それぞれの距離が近いからすぐに他のカバーに入れるし、連携もしやすい。騎士同士のように剣の腕前の差や実家の家格による嫉妬もなく、なによりパーティの人数が少ないから支援魔法がすぐに飛んでくるのがいい。


 王都の騎士団だと魔術師は魔導師団から派遣されるのだけど、数が少ないから部隊に1人いるかいないかが普通なのに、冒険者パーティーは少人数なので切れ目ない濃密な支援が期待できる。このまま押し切れるかも、と考えてしまうほどに。


 ただ、いくら人数が少ないとはいえ、ミーシャちゃんの魔力にも限界がある。

 こういうときは――まず指揮官(トップ)を潰しましょうか。


 私はゴブリンの指揮官らしき個体に向けて左手を差し抜けた。私たちを取り囲んで油断しているらしく、警戒した様子はない。この辺はしょせんゴブリンか。


「――――」


 深呼吸をして、体内の魔力を把握し、支配下に。一匹倒せればいいので大規模にする必要はない。


 体内を流れていた魔力を左手に集め、放出。初級攻撃魔法(・・・・・・)の短縮詠唱なのでワイルドボアの集団を倒すのは難しいけど、ゴブリン一匹程度なら十分だ。


「――雷よ、我が敵を討て(トニトルス)!」


 雲一つない空。にもかかわらず雷鳴が轟き渡り――落雷。人為的に発生させられた雷は狙い違わずゴブリンに命中した。


『グギャガガァガアアッ!?』


 なんとも珍妙な絶叫を上げながら、雷に打たれたゴブリンは激しく痙攣。口や鼻から煙を吹き出しながら地面に倒れ、絶命した。


 唐突すぎる光景にニッツさんたちも、ゴブリンたちも動きを止める。


 しかし戦闘経験の差か、先に再起動したのはニッツさんとガイルさんだった。


「おいおい! 騎士だってのに魔法が使えんのかよ!?」


「攻撃魔法なんて久しぶりに見たぞ! 魔導師団に入れるんじゃないか!?」


「驚く暇があったら畳みかけなさい! 今なら混乱しているんだから!」


「「おうよ!」」


 ニッツさんたちを鼓舞したものの、戦いの趨勢はもうこちらに傾いていた。指揮官を失った影響か、あるいは攻撃魔法に驚いたのか、残ったゴブリンたちは撤退を開始したからだ。


 後ろを守っていた他の冒険者たちも撃退に成功したらしく、どうやら防衛戦はこちらの勝ちみたい。


 一息ついてから被害状況の確認。


 被害としては馬車が数台壊れてしまった。どうやら最初のワイルドボアが何匹か突っ込んだみたいだ。馬も数匹が死んでしまったらしい。


 しかし護衛の冒険者や商人、乗合馬車に乗っていた客に死者はなし。あとは結構な数のケガ人が出てしまったけど、あれだけのゴブリンに襲われたことを考えれば軽微な被害と言えるでしょう。


 私が刀の刀身に曲がりや刃こぼれがないか確認していると、魔力の使いすぎで少し顔が青くなったミーシャちゃんが近づいてきた。


「お疲れのところすみません。セナさんは魔法使いですよね? 回復魔法を使えますか?」


「専門家ほどじゃないけどね。手伝いましょうか?」


「助かります。ちょっと魔力を使いすぎまして……」


 セナちゃんの後に続く形で、私はケガ人が集まっている場所へと向かったのだった。





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