肉ストロ
「――ダンジョンに入る前に、セナのランクを上げなきゃいけねぇな」
ギルマスとの腕試しをした翌日。冒険者ギルドの一階に集合し、併設された食堂で朝ご飯をしていると……ニッツがそう切り出した。
ちなみに今日の朝ご飯はサンドウィッチ(肉入り)。魔物討伐で有名なサンドウィッチ伯爵が馬の上でも気軽に食べられるようにと編み出したものだ。馬の上ですらも肉を食べる。彼もきっと肉ストロだったのでしょう。
肉仲間に想いを馳せながらニッツに質問する。
「ダンジョンに入れるのはEランクからなんだっけ?」
「おうよ。駆け出しがいきなりダンジョンに潜っても死ぬだけだからな。ギルドなりの温情ってヤツだ。……それを理解できずに毎年何人か死んじまうんだがな」
「若さ故に自分の才能を過信して、ってヤツね……。そればかりは仕方ないわね。生き残ることができればいい経験になるのでしょうけど」
「……なぁんか、老人みたいな言い方だな」
「老人!?」
確かに大人っぽいというか枯れた意見だったかもしれないけど! 老人はないでしょう老人は! よろしい! 宣戦布告として受け取ってやりましょう! 表出ろ! 前歯を全部叩き折ってやるわ!
「まぁまぁ、新生『暁の雷光』誕生直後に仲間割れは止めておこう」
ガイルが呆れた様子で仲介してくれた。今さらながらごくごく自然にパーティ加入しているわね。いや文句はないんだけど、書類とか提出しなくていいのかしら?
「冒険者なんて結構その場のノリでパーティを決めるからなぁ」
「むしろ、ずっと面子が変わらなかった暁の雷光が珍しいかもしれんな」
「でも最近はフェイス君とセナさんが加入しましたから、ずいぶんと雰囲気が変わりましたよね」
フェイス君はガイルの財布を盗もうとしたっていうのが縁らしいし、その前はニッツ、ガイル、ミーシャの三人パーティだったのか。
……ほうほう、これはアレでは? 紅一点のミーシャをめぐって男二人が争う展開! 男の友情の崩壊! ギスギスした人間関係! はたして暁の雷光はパーティ崩壊の危機を防げるのか!? 小説にしたら絶対面白そう!
「……セナっておもしれー女だよなぁ」
「面白いで済ませていいのか、アレは?」
「いやまぁ、端から見ている分には面白いですし……」
「思いっきり巻き込まれているけどね」
「「「う~ん……」」」
なぜか可哀想なものを見る目を向けられてしまった。解せぬ。
◇
ニッツたちが私のランク上げについて話し合いをしている。ランクをF(駆け出しの新人)からE(こなれた新人)に上げないとダンジョンには入れないからね。どうやらダンジョンに潜れるかどうかで稼ぎが全然違ってくるらしい。
「ランクを上げるならまずは薬草採取からか」
「セナなら最初から討伐依頼を受けてもいいんじゃないか?」
「薬草採取だけだとEランクになるまで一ヶ月はかかるでしょうしねぇ」
「セナがいるなら大量討伐系でも問題ない」
「うっし、依頼が出ているのは……ゴブリンと、コボルトか」
ゴブリンはあの緑色した魔物で、コボルトは……二足歩行する犬っぽい魔物だっけ?
さすがにゴブ肉を食べる勇気はないけど、コボルトなら――うーん? いけるかしら?
犬を食べるのは気が引けるけど、犬を食べる文化圏もあるし、そもそも犬とコボルトはまるで違う生き物なのでセーフである。
「セナはどっちがいい?」
ニッツが意見を求めてきたので、熟考する私である。
「そうねぇ……。やはりコボルトは犬とは別枠でいいと思うわ」
「うん? 犬?」
「あぁでもまだ美味しいかどうか分からないのか。冒険者デビュー記念日なのだから、ここは美味しいと分かっているワイルドボアを探すのもいいのでは?」
「判断基準が肉じゃねぇか」
「肉欲だな」
「肉欲ですね」
「黙っていれば美人なのに……」
ちょっとフェイス君、私を残念美人扱いするの止めてもらえないかしら?




