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午後11時40分。
アルスから兵器が放たれた。
「作戦は失敗です。襲撃に備えてくださいっ!!」
ギルからの連絡が来た。
「いえ、ここまでもたせてくれてありがとうね」
「…申し訳ありません」
通話を切り、戦闘準備に入る。
「敵が来るわ。お前たち、後どのくらいで目標がここに到達するかわかる?」
「5分後です」
「5分後ですって!?」
「間違いありません。こちらに向かって一直線に来ています」
「伯爵、主要人物を連れてお逃げくださいませ。ここら一帯はおそらく火の海となります。なるべく遠くへ行ってください」
「それはできません」
「私は死なないわ。私が即位した後あなたたちがいないと国が回らないのもわかるでしょう?説得している暇はないの。さあ!」
「…かしこまりました」
(カトリーヌ邸に続いて、フランソワ邸も更地になるわね。残ったのは私とあの子たちだけ。カリンとレオンを別働隊に組み込んだのは正解だったわ。何と言おうが一緒に残ったはずだし)
「さあ、行きましょうか」
窓からは月明かりが差し込み、お嬢様の金髪を光らせています。お嬢様は人気がなくなったこの屋敷で人一倍の存在感を放っていました。
貴女はどこまでも気高く、美しい…
口角をあげる。
「どこまでもお供します」
ゆったりと足を運ぶお嬢様の一歩後ろを音を立てずに歩く。
窓の外のひとつの影が…
銃口を向けた。
世界は白くなった。
音は聞こえなくなった。
ジリジリと身を焼く熱だけが全身を包み込む。
何も見えない。
何も感じられない。
暗闇へ堕ちていく――
***
肺に熱い空気が流れ込んだ。
思わず咳き込む。
焦げた木材と焼けた石の臭いが鼻を刺した。
耳の奥ではキーンという甲高い音が鳴り続けている。
視界は霞み、世界がぐにゃりと歪んで見えた。
頬に触れた地面は熱い。
ざらついた灰が指先にまとわりつく。
口の中には鉄のような味が広がっていた。
「しっかりなさい!!!!」
透き通る声が遠くから響く。
重たい瞼を持ち上げる。
崩れ落ちた屋敷。
燃え続ける残骸。
立ち昇る黒煙。
辺り一面は焼け野原になっていた。
幸い直前にお嬢様の体を氷の塊の中に入れたお陰でお嬢様は無事でした。
…解凍もされてしまっていますが。
「とんでもない攻撃をしてくれるじゃない」
よろめきながらも立つ。
お嬢様の陶器のような肌にたくさんの傷が。
『だれだっけ』
「自己紹介がまだだったわね。私はカリスタ。カリスタ・ユニカ・オリュンテア。この国の正当な血筋を持つ唯一の王族よ。あなたの名前は?」
『ネレウス』
同時に
『テュポン』
とも聞こえた。
「ネレウス、あなたはなぜここに来たの?」
『フロリスの仇を討つために僕はアルスに協力しているんだ』
「敵討ち…?」
『無数にいるさ、あいつを買った人間なんて』
「…ではどうするの?」
『この国を滅ぼす』
そう言った彼の言葉は乾いていてどこか寂しそうだった。
「アルスと現王家は協力関係にあるのではないの?」
『別にあってもなくても変わらない』
「それはアルスの総意?」
『何してもいいって言われてるしそうなんじゃない?』
「あなた結構大雑把なのね」
『どうせ全部まっさらになるんだから一緒だと思うけど』
「仮にもそこを守ろうとしている私の前で言うことかしら?」
『それもそうだね』
(あと、5分。
お願いだから、あと5分、私に付き合って…!)
焦りは顔に出さず、自分の数倍も大きい機体に乗っている少年と言葉を交わす。
「あなた自身の意思はないの?」
『僕が僕でいられたのはフロリスがいたからだ』
無機質な機械から後悔の念や悲しみが伝わってくる。
その中に奇妙な気配を感じた。
「あなたは…誰?」
『もう忘れたの?ネレウ…』
「…!」
『ネレウス、早くそいつを始末しろ』
『何でさ』
『覚醒の時が近い』
『わかった』
「…っ!」
『ってことで殺すね』
「ははっ…」
乾いた笑い声が灰になったフランソワ邸に響いた。




