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「カリスタ様」
扉が静かに叩かれる。
「どうぞ」
「カトリーヌ伯爵からお手紙が届いております」
「お父様から?」
「はい」
「読み上げてちょうだい」
『カリスタ、元気にしているかい? こちらは言われた物を手配しておいた。フランソワの屋敷で待っているよ』
「なんとも簡潔ですこと」
「お返事はいかがなさいますか?」
「そうね……返事を書くより先に到着してしまうんじゃないかしら」
「……ギルを諦めるのですか?」
「もう半年以上待ったわ。これで目を覚まさないのなら、お父様のもとで療養した方が彼にとっても良いでしょう……」
「……そうですね」
再び扉が激しく叩かれる。
「カリスタ様!!」
カリン様だ。
「どうしたの?」
「ギルが……ギルが目を覚ましました!!」
どうやら神は、まだ私たちを見放してはいなかったらしい。
「ギル!」
「申し訳ありません、カリスタ様。目覚めるのが遅くなってしまいました。皆さんにも心配をおかけしました」
「お疲れ様でした」
どうしてそんな言葉をかけたのか、自分でもわかりません。
けれど、長い間ずっとうなされ続けていた彼を見ているうちに、そう言わなければならない気がしたのです。
……私たちにも、まだ人らしい部分が残っているということでしょうか。
ふと顔を上げると、ギルが今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「どうしました?」
「いや……なんか、一番欲しかった言葉をもらえた気がして……」
ギルは溢れた涙を乱暴に拭った。
「ギル。少し休んだらフランソワ邸へ向かうわ。それまでに、ある程度は体力を戻せそう?」
「はい。ご期待に応えられるよう頑張ります」
お嬢様は、どこか悲しげで、それでいて嬉しそうに微笑んでいた。
私たちは、お嬢様の笑顔が好きです。
願わくば、青空の下でそのエメラルドの瞳を細め、穏やかに笑っていてほしい。
私たちが守れなかったあの子たちの分まで、幸せになってほしい。
ですが、お嬢様はいつも、その美しい顔を苦痛に歪めながら茨の道を進まれる。
その姿は、痛々しいほどなのに、どこか聖書の挿絵のような神々しさすら纏っていました。
私たちは仕える者として、そんなお嬢様を支え続けると決めています。
それなのに、どうしてこんなにも不安が消えないのでしょう。
……それに、カリン様の件も早く解決しなければなりません。
やるべきことは、まだ山ほど残っています。




