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朽ちぬ女王  作者: 水無適
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「では、最終テストを始める」


それが、一人の少年を受け入れる。


「過去最高値を更新しました」


「限界まで進めろ」


「何百人も集めて、適応できたのはこいつだけ…か」


「これが成功すれば、この大陸どころか世界すら掌握できるかもしれませんね」


「我々の集大成だ」


なんで人は、こうも自信満々になれるんだろうね。

俺は瞼を閉じた。



『君に会うのは何回目だっけ?』


『数える気も覚える気もないだろう?』


『そうだね。重要なのは、僕が君を選んだってことだけだ』


『あんたもなかなか仰々しい言い方をするよな』


『まあ、癖みたいなものかな。ところで、これが終わったら君は僕から逃げられなくなるよ』


『別にいいさ。どこにいようと、俺が信じるのは一人だけだ。それさえあればいい』


『じゃあ、始めようか』


うすら笑いを浮かべた“自分”が迫ってくる。

首の後ろに手を回し、そのまま俺の中へと入り込んだ。


せり上がってくる形容しがたい感覚に、思わず顔を顰める。



『こういうのは初めて?』


『…黙れ』



今までとは違う。

彼の存在がどんどん近づいてくる。


身体中を駆け巡り、やがて頭の奥に落ち着いた。


そこに居座るつもりらしい。

頭の中で、絶えず話しかけてくる。


『これで僕は君の考えや感情が分かるし、君は僕を支配しやすくなったはずだよ。自分の手足を動かすみたいにね』


『便利ならそれでいい』


『じゃあ改めて。僕はテュポン。目的は、あのクソ女神を殺すことだ』


『なんで?』


『なんで、か…ああ、成り立ちを知らないのか』


『言いたくないならいいけど』


『馴染むまで時間もかかるしね。それに、君とは長い付き合いになりそうだし、話しておこうか』




僕は神の子だった。母は僕にライバルの女神を殺すことを期待してた。ずっとずっとそう教え込まれていたからそれだけが僕の存在理由だったし、その先のことなんて考えていなかったんだ。

でも、僕はある日、恋に落ちたんだ。

最初は美味しそうな匂いがするなってくらいにしか思ってなかった子だった。だけど、彼女は僕が食べようとしている事を理解した上で僕に話しかけてくれたんだ。僕はだんだん彼女に惹かれていった。でも、僕は破壊に特化していたからそういった感情には疎かったんだ。恋心を自覚する前のことだった。母は私に彼女を殺すように命じた。私は母のために存在していた。母が望むのならなんでもした。だから、その時もそうするつもりだった。でも、僕は

「次会った時に殺そう。まだ時間はあるから次でもいいや」って。

すぐに殺すことができなかったんだ。その理由に気づいた時には遅かった。母は私を支配し、彼女を手にかけさせたから。


「母さん、悪い人の子供って悪い人なのかな?」


「そうとは限らないわ。でもね、あの女の血が入っているのなら別だわ。確実に始末なさい」


「はーい」


僕は母の言葉を信じることができなくなっていた。

いつもと違う僕の態度で何かを感じたのかもしれない。


「あなたに限ってないかもしれないけど、次に会った時は必ず殺すのよ?」


「はい、母さん。全ては母さんのために」


僕はその次の日もまた彼女に会いにいった。

彼女の笑顔が見たくて。温かい春の陽だまりのような彼女に触れたくて。

いつものように手を繋いだんだ。

その時に母の力は発動した。

突如体の制御を失った。


「え?」


「テュポン?」


「…!逃げて!どこか遠くへ、僕のいかないどこかへ!!」


「どうしたのよ、テュポン」


「君を殺したくない…っ」


溢した涙は地面を腐敗させた。

強く噛んだ唇から垂れた血は全てを枯らしていった。


「お願いだ、僕に君を殺させないでくれっ」


「テュポン?」


僕は彼女を食べた。

いつも使っていた牙で。彼女の前ではしまっていた牙で。決して傷つけないよう短く切っていた爪で彼女の肉を切り裂いたんだ。


僕は一日中泣いた。夜になり、満月が世界を支配した頃、母はやってきた。


「偉いわ、きちんと殺せたのね」


そう笑う母の顔はひどく歪んでいて、今まで感じていた優しさはかけらも感じ取れなかった。

いつもなら幸福感で満たされる行為も今はただ強い不快感が押し寄せてくるだけだった。

母に逆らった僕は殺した彼女の親の元に送られた。

勿論、娘の仇なんだから親は殺す気で切りかかってきた。首は跳ね飛ばされ、四肢はちぎれた。だけど、僕は死ななかった。だから彼らは僕を封印した。




『それが、今君がいる場所だよ』


『じゃあこれ、生き物だったのか』


『魔法や神の力で封印された“それ”に、この国で作った拘束具を取り付けたのが今の状態ってわけ』


『ふーん。なんで俺を選んだ?』


『なんでだろうね。彼女に似てたから?いや…彼女は春みたいに暖かかった。でも君は深海みたいに冷たい。全然違うな』


『じゃあなんでだよ』


『ああ、そっか。僕に似てたからか』


『どの辺が?』


『一途なところ、かな』


『いい加減にしろよ』


『はは、怒るなって。君が愛した彼が、僕の力を持っていた理由も気になるみたいだね』


思考を読まれた…


『もうそこまで同化してるのか』


『君、意外と細かいところに気づくんだね。彼は花の名を冠する竜だったんだっけ?』


『皮肉なものだよね。彼女と同じ名前の子が僕の呪われた血を引いているなんて』


『あんたが愛したやつもフロリスって言うのか』


『うん。本当に温かくて、優しかったんだ……ああ、質問の答えだったね』


『ああ』


『僕はこの国の近くに封印された。でも、もがれた四肢や頭は別の場所にあったんだ。それを竜が食べて、その血族は呪われた』


『へえ』


『まあ、世代を重ねるごとに薄まってはいったけどね。ただ例外があってさ。彼女と同じ色を持つ子は、呪いを強く受けるみたいなんだ。彼もきっとそうだったんだろうね』


『そっか』


『ところで、もう同化も終わったことだし、そろそろ起きたら?』


『そうする。でも、四六時中あんたの声が聞こえるのは嫌だな』


『ははっ、大丈夫。ここ以外じゃ聞こえないよ』


『それは助かる』




ゆっくりと瞼を開ける。

どれくらい時間が経ったのだろうか。体がひどく重い。


「……!目を覚ましました!」


「どれくらい経った?」


「一ヶ月だ」


「通りで体が重いわけだ」


「国からの命令にすぐ従えるよう、体力を戻しておけ」


「ああ」

 

もう少しで終わるよ、フロリス。

君を壊したすべてを俺が壊すから。

だから見守っていてくれ。

目を閉じ、そっと、手首の紐に口づけた。

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