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28 借りものの限界



「あれはグレゴリーか? 僕はどうして生きているんだ、君は魔王だろ!」

 全裸の男勇者は言った。


「落ち着け」

「あの子はなんだ?」

 グレゴリーはすでに、かなり察知しづらい状態だが、姿をとらえることができているようだ。

 そこは、さすが勇者というべきか。

「まず話を聞け」



「グレゴリーはいま、娘の勇者を取り込み、その力を使って私を攻撃していた。乗っ取った相手の能力を使える、ということは知っているな?」

「当然だ! 僕も、乗っ取られていたのだからな!」


「娘の能力は存在感を消すというものだ。ここで逃がすと、二度と殺す機会は得られない可能性が高い。ここで仕留める必要がある。最も重要な点だ。理解しろ」

 男勇者はしっかりうなずく。


「だが僕に、魔王と組んで戦えというのか?」

「私はお前の命の恩人でもあるぞ」

 私は、最後の指輪を見せた。

 ガンショットがつけていた分だ。

「う……」

「なにも人間を殺せというのではない。その檻を保っていてくれればそれで良い」


 私は異空間を使って檻の外に出た。

「グレゴリー」

 私は指輪をつけた。


「これで私は一回死ねるぞ。優位が消えたな。どうする?」


 グレゴリーの気配が消える。


 私は体を中心に、小石ほどの大きさの火球を無数に、放射状に発射した。

 火球が消えた場所へ飛び、火球の間隔の密度を上げて大量の火球で追撃する。

 

 右。

 グレゴリーの形に火球が消えたあたりに氷魔法を使う。


 グレゴリーがいると思われる一帯を凍りつかせた。

 大きな氷柱ができたが、中には誰もいない。


 私は立ち止まらず常に立ち位置を変える。


 できるだけランダムに。

 

 今度は氷の粒を広間中にびっしりと浮かせた。

 ものが動けばわかる。


 そこ!

 

 グレゴリーほどのものが動いた場所に飛び、爪の一撃を食らわせたつもりが、なにもない。

 逆に背後から攻撃を受け私の左足が弾けた。


 魔法で空気を動かし囮をつくったか。


 いったん離れ、左足を再生しつつ広間に雷を落とす。

 連打だ。

 物体は雷を引き寄せるか、反発するか、どちらかの特性を持っている。

 そこが感じられればいいし、雷耐性がないかもしれない。

 男勇者は檻で防いでいた。



 するとグレゴリーは避けるどころか、雷魔法を重ね、量を増やしてきた。

 ぐちゃぐちゃに雷がからみあい、音と光が増えすぎて、相手の位置をつかむどころではない。


 私はいったん、封魔の檻の中にもどった。


「手こずってるな」

 男勇者は私に対してすこし身を引いて言った。

「そうだな」

 私はうなずく。

「つまり、共闘の申し出に来たわけか?」

「いや」

 私は首を振った。

 そんなつもりはない。


「なぜ笑ってる」

「笑っている? 私が?」


 顔をさわると、たしかにそのような表情をしているようだった。


「500年が、すこしは報われそうだからかもしれんな」

「500年?」


 私は目を閉じる。

 そうだ。

 なんのための500年か。

 小技で、探り合いがしたいのではない。

 いましかできぬ戦いをしよう。


 魔王城から供給される力。

 これを気配察知に注ぎ込む。


 近くの大きな青い光。

 男勇者だ。


 檻の外を飛び回る光。

 霧の中の光のように、ぼんやりとしている。

 それが素早く動き回っている。


 集中だ。


 ひとつの形に、浮かび上がってくる。

 グレゴリー。

 

 お前のその能力。

 娘勇者と比べれば。

 動きこそ速くなった。

 攻撃の手数も増えた。

 正確性も増した。

 だがそこまでだ。

 

 使いこなせていないのだ。


「魔王よ」

 不意に男勇者が言った。

「なんだ」

「君は、僕や彼女を助けようとしているのか?」

「いや」

「しかし、そう見えるぞ」

「私は、強い勇者と戦いたいだけだ」

「魔王は、人間を駆除したいだけじゃないのか?」

「いや」

「なら、勇者を殺したら、どうする?」



 魔王の目的は、勇者を倒すこと。

 それでいいと思っていた。

 だが、それは目的と言えるのだろうか。


 勇者は正義のため、平和のために武器を振るう。

 勇者にとって魔王とは、魔王がいれば倒す、という程度のものでしかない。

 魔族の上位にいるから、じゃまだから倒す。

 そういうものだ。

 魔王は絶対に必要なものではない。



 魔王の目的とはなんだろう。

 なぜ私は存在しているのだろう。


「私は強い者と戦いたいからここにいる」

「そうか……」


 勇者は納得したようだった。

 だが私は。


 勇者を倒したいという気持ちは本当にある。

 だがそれは私の気持ちなのだろうか。


 魔王として生まれたときに、核に刻まれた、消せないプログラムでしかないのだろうか。

 私は私の意識で生きているのだろうか。



 私は檻を出た。


 グレゴリーがやってくる。


 目を開く必要はない。


 その方がよく見えた。


 グレゴリーはまっすぐやってくるように見せ、細かく左右、速度の変化をつけ、私の右側からやってくる。

 さらに直前で背後に移動。


 私はそのグレゴリーの首をはねた。

 

 すぐ指輪の力で修復されるが、グレゴリーが下がるスピードよりも速く追い、連続で首をはねる。

 あと2つか。


「バカな……! なぜ……!」


 ついていくのは難しくなかった。


 娘勇者は、気配を消すだけではない。

 たとえば気配をその場に置いてくることができた。

 気配をつくりだすこともできた。

 記憶を変えるほど存在感を薄めることもできた。

 グレゴリーはそれらのことができていない。



 首をはねる。


 あとひとつ。


 グレゴリーは気配を消すことをあきらめ、別の大魔法を使う体勢に入った。

 その間はあらゆる攻撃を跳ね返し、魔法を無効化するというその魔法。


「つまらんぞ」


 私はグレゴリーの魔法が完成する前に突っ込み首を潰す。



 グレゴリーは死に、生き返る。


 もう指輪はない。


「お前に魔法勝負など望んでおらん。娘勇者の力を使え。教えてやろう。気配を自分以外の場所につくりだし、置いてきたり、記憶を書き換えるほどの、気配の消し方をしたり、そういうことができるのだ。いや、もっと多くの力があるかもしれん。試せ」


「ひっ……!」


 グレゴリーは壁を壊そうと爆発魔法を放つが、男勇者の檻がそれを認めない。


「ま、魔王さま……」

「試せと言っている。やれ。力を限界までしぼり出せ。お前は勇者とともにある。運命の力というのがあるのだろう?」


「魔王さま……」

「私を殺すのだろう?」

「……」

 グレゴリーは、取り込んでいた娘勇者の体をつかむと、引き抜き、私の足元に放り出した。


 体液にまみれた体が床に落ちる。


「なにをしている」

「そちらにも……。勇者がいて……。運命の力が……、相殺されて……」

「運命は、信じられなくなってからが本番だ。さあ」

「魔王さま……」

「やれ」


 私はグレゴリーの頭をつかんで持ち上げた。

「やれ」

「では……、檻がなくなれば、やれるかと……」

「逃げるつもりか」

「鍛え直す時間をくだされば、かならずや……、魔王さまを脅かす力をつけて見せましょう……」


 苦しまぎれの言葉でしかない。


 だがどうだろう。

 ここで逃してしまえば、常に脅威にさらされることになる。

 それがまずいと思ったが、よく考えれば、刺激的な毎日がやってくるともいえる。

 とても難しい状況は、私にとって望むところではないか。

 自由のきかない状況に耐えてこそ、新たな局面も見えてくるだろう。


 ならば。


 とそのとき。


 床から槍が生え、グレゴリーを貫いた。

 私はさがって娘勇者を回収した。


 それをきっかけに、いくつもいくつも降ってきて、グレゴリーは針山のようになった。

 大量の封魔の槍によって、グレゴリーの力は吸い取られ、絶命していた。


 男勇者がこちらを見ていた。

「やつを逃がそうとしただろう。魔族は魔族だな」

「勝手なことをするな」

「凶悪な魔族を倒せるときに倒す。当然だ」


 封魔の檻が形を変える。

 収縮し、男勇者の体に密着していった。

 

 右手に槍を持つ。



 私は娘勇者を床に置き、すこし離れる。


「人質に取らないのか」

「なんのために?」

「さすが魔王」

 なにを言っているのか。

 娘勇者を抱えていては、じゃまではないか。


「魔王じゃなければ、気が合ったかもな」


 そのとき。

 予備動作ゼロで床から槍が生えた。


 かわすと、槍の途中から枝分かれするように槍が。

 加えて上から下から槍が降り注ぐ。


 そうしながら男勇者が突っ込んできた。


 遅いな。

 男勇者の体に爪を立てる。

 が、爪が折れた。


 男勇者に腕をつかまれ、直接、槍を体内に叩き込まれる。

 能力の芯のようなものが体内に送り込まれ、そこから爆発するように、私の体の中心から槍が生えた。

 私は自分の首を切り離し、異空間に逃げ、体を再生し、もどった。


「異空間を使わざるを得なくするとは。やるではないか」



 そうか。

 封魔の檻、槍に関しても、グレゴリーは力を使いこなせていなかったのか。


 男勇者が突っ込んでくる。


 

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