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27 勇者の交換



 力があふれてくる。

 これまでにない感覚だった。


「これが、魔王城の力か……」


「勇者さま」


 娘勇者が言う。

 信じたい、という思いだけで発した言葉だ。


「見てのとおり、私は勇者ではない」

「この人の魔法で魔物に変えられたんですよね!」

「いや」

「わたしは捕まってしまったんですけど、勇者さま、わたしを気にせず、倒してください!」

「いや」

「魔王を倒してください!」


「私は勇者ではない。魔王だ」



 娘勇者は動きを止めた。

 娘勇者が大きく開いた黒目がずっと、細かく震えていた。


「勇者さ」


 娘勇者が言い終わる前に、私は手を素早く振った。


 それだけで生まれた空気の真空層が猛スピードで飛んでいき、娘勇者の首をはねた。

 指輪の効果ですぐに復元される。


「指輪はあといくつだ」

 娘勇者は反射的に手を見る。

「あと」

「9、8、7、6、5」

 私はどんどん娘勇者の首をはねていった。

 指輪が光り、どんどん減っていく。


「4」

 というところでグレゴリーの槍が私の攻撃を弾いた。


 軌道が変わった真空の刃は壁を突き抜けていった。



「あと4つだな」

 私が言っても、まだ娘勇者の反応が悪い。


「私は魔王だ。お前は勇者だ。わからないか?」

「勇者さまは、勇者さまです……」


「いいか? 私が一度でも、自分を勇者と言ったか? お前たちが勇者と呼ぶのを否定しなかっただけだ。わかるだろう。お前は勇者で、私は魔王だ」


「魔王は……、勇者を助けたりしません!」

「私は勇者を倒すための訓練をしていただが、長くやりすぎた。人類は衰退し、訓練の成果を見せるには、お前という勇者を鍛えるしかなかった。それだけのことだ」

「そんな……」


「こうなっては、いまが決戦のときだろう。来い」



 娘勇者はまだ棒立ちだった。


「しっかりやらぬと死ぬぞ」

「………」

「無言か。ガンショットのマネか? やつは死んだな」

「……!」

「ドランゴも死んだ。お前を鍛えるためだけに呼び寄せたのにな。お前のせいで死んでいくのだぞ」


 娘勇者は私を見た。


「村のみんなを助けてくれたのは……」

「お前のためだ」

「あの、わたしが死んだら、勇者さまは生きてる意味が、ない、とかも……」

「新たな勇者が生まれるまで、生きている意味がないということだ」


「わたしは、どうしたらいいんですか……」

「戦って、死ね」


 娘勇者は泣いているような、怒っているような顔になった。



 はっきり敵意を持たせるには、村から女を連れてきて殺さなければならないか。

 しかしやりすぎると精神的なダメージが大きくなりすぎる気もする。

 勇者の本能、という部分に任せた方がいいような気もしていた。

 

 そのとき。

 だんだん、娘勇者の気配が消えていく。


 体の力が抜けていき、姿はうっすらとしか見えなくなる。

 

 よし。

 まだ混乱状態だろうが、戦いに入ってしまえば体が反応するかもしれない。

 どの程度の力を発揮するか。

 様子を見せてもらおう。


 と。


 娘勇者の背後に立っていたグレゴリーが、内部に取り込んでいた男勇者をいきなり吐き出した。


 上半身だけの、体液にまみれた男勇者が床に落ちる。

 

 そして娘勇者にとりつくと、中に引きずり込んだ。

「勇し……」


 娘勇者が私に訴えかけようとしていたが、意識を失うようにして目を閉じた。


 取り込まれた。



 次の瞬間。

 ファイスが、炎と氷の中間点で切れた。

 指輪の力ですぐ再生されたが今度は、ファイスを構成する核の部分が破壊され、ファイスは崩れた。

 もう指輪はなかった。


 歩み寄ろうとすると、私の左腕が飛んだ。


 力を入れてすぐ新しい左腕を生やし、距離を取って魔王城の力を借り城内の気配をすべて探る。

 だが見つからない。


 娘勇者との対決が、こんな形で実現するとはな。


「ふふ……、ふふふ……」


 グレゴリーの笑い声が聞こえる。

 そちらへいくつか真空を撃ったが手応えはなかった。


「すばらしい体だ……。見られず、一撃必殺の技を持つ……」


 声がする方へ攻撃をしかけてもやはり反応はない。

 常に移動し続けているのだ。


 速さそのものは私の方が速いだろう。

 だが。

 部屋中に魔力を満たしても反応が感じられない。

 娘勇者を取り込んだグレゴリーの気配そのものが、感知しづらいのだ。

 さっきまでの、勇者とも魔族ともつかない気配からも、やや変わっている。


 腹に穴が空いた。

 右脚が切られた。


 損傷はすぐ回復魔法で復元できる。

 だが。


「おもしろい……、急所がいくつもあるというのは……」


 同等の急所、いわゆる核にあたる部分がいくつもあれば、偶然の死というものは防げる。

 人間でいえば脳だが、すこし異なる。

 同時にすべての急所をやられなければ、いくらでも復元できるのだが。

 


 私に近づく足取り。

 パターンを読む。


 次は頭部、とあたりをつけ、タイミングをはかって反転。


 背後の空間に右拳を叩きつけた。


 手応えがあった。


 頭が爆発するように散ったグレゴリー。

 だがすぐ修復される。

 娘勇者の指輪の力すら適用できるのか。


「さすが魔王……。はしゃぐのは危険だ……」


 グレゴリーの声だけが聞こえる。


 指輪はあと3つ。

 油断をやめ、読まれないよう攻めてくるだろう。


 私の急所は6つ。

 常に移動し続けている。

 ほぼ同時に破壊されたら修復しきれないだろう。

 

 娘勇者の指輪が3つ、つまり三回までは死ねるわけだ。


「うっ」

 右手、羽が破壊された。


 それを受けて攻撃をしかけるが、もうグレゴリーは離れている。

「2つまで、やれるようだ……」


 まずいな。

 いまのタイミングでもやれないことはなかった。

 すると、急所2をやらせて、グレゴリーの指輪をひとつ減らせる計算だ。

 急所4で指輪2つ。

 指輪3つの消費で、急所を6。

 私だけが死ぬ。

 相打ちにすらならない。


 いま、指輪をひとつ減らすべきだったか。



 グレゴリーもこの計算ができたはず。

 だがすぐは攻めて来ない。


 私が急所2をやられたのは、演技である可能性について、考えているのか。

 多めにやられておいて誘い、殺す。

 そういうやり方もある。 

 

 グレゴリーは、急所2に対して指輪ひとつという計算であってもぴったりなのだ。

 これ以上指輪を消費すれば、正攻法では私は倒せない。

 グレゴリーも失敗できない。

 ギリギリのバランス。

 

 またグレゴリーとしては、異空間の問題もある。

 攻撃に合わせて私が異空間を発動すれば、一方的にやられることもある。

 作戦を立てざるを得ない。


 

 しかし、いつまでも待ってはくれないだろう。

 グレゴリーにも私の知らない技があるはず。


 それにもっと大きな問題がある。

 ここでグレゴリーに逃げられた場合だ。

 追跡することは不可能に近い。

 そうなれば、おそらく記憶を左右する技も使いこなすことになるだろう。

 知らぬ間に殺されることになる。



 グレゴリーが新たな技を手に入れ、それを使うことに振り回されているいま、対処をしなければならない。


 殺される覚悟で一気にいくか。

 対決を楽しむのは諦めて、魔王城全体を異空間に送って終わりにするか。

 どうする。


 そう思って。

 あるものが目に入った。

 考えが浮かぶ。

 どうなるだろう。


 状況打破と好奇心、その二つに引かれるようにして、私はドランゴとガンショットが使えなかった指輪を回収、そして床に倒れている男勇者に近づいた。

 まだ息がある。

 男勇者の指に、指輪をはめ、殺す。

 指輪は効力を発動した。


 男勇者の体が復元された。


 目を開ける。


「僕は……?」

「あの娘を助けたければ、いますぐに私たちを守る封魔の檻をつくれ」

 

 男勇者は、私を見て直感的に魔王と察したはずだった。

 目には、本能的な嫌悪や、闘争心といったものが見えたからだ。


 だが男勇者には、グレゴリーに取り込まれた娘勇者が見えている。

 自分と同じ目にあっているということが直感的に理解できるだろう。

 そして助ける。

 なぜなら勇者だからだ。

 そしてグレゴリーの口ぶりからして、この男勇者の固有能力は、封魔の檻と槍。

 

「私たちと、全体をそれぞれ囲え」


 封魔の檻が私たちの周囲に発生する。

 これによりグレゴリーは接近することができない。


 続けて、魔王城六階も囲われた。


 グレゴリーは内部に残っている。


 閉じ込めたぞ。



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