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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
大海獣島物語編 (長編)
62/72

魔王と魔海の者たちと頼み事

『――――クレイクロウさん、そいつはいけません。俺様は断固として反対ッス』

『――――ええ。アタクシも大反対です。クレイクロウさん、目を覚ましてください』


 大海獣のクラーケンとサーペント嬢がそろって魔海王の提案に『反対』を示す。そろそろ「この二体の海魔はとことん仲が悪い」という見方を変えてもいいくらいだ。

 これに困ったのは【魔海王 クレイクロウ】だ。この中で一番偉いはずなのだが、どうやら権力や暴力にモノを言わせてねじ伏せるような野蛮な支配はしていないようだ。だが彼の紳士的ともいえる振る舞いのせいで彼自身の提案が通らないのであれば、なんとも情けない話である。

 そのクレイクロウさんの主張はこうである。


『何度も言いますが、この【魔人王】さまに手伝って頂ければ、きっと万事解決するはずなんです!

 このお方の絶大な力を持ってすれば、できないことなどないのですからっ!』


「………………………………いや、この我もなんだかんだで『泳げない』のだがな」


 ソルレオンはポツリと呟いた。そっぽを向きながらの独り言なので、すぐ隣にいるマーちゃんにすら聞こえているか微妙なところだ。


『だいたいこのヤローは泳ぐことさえできないんッスよ。ガボガボゴボゴボってただ沈んでいくんスよ』

『そうですそうです。あのみっともらしく溺れている姿を見れば、クレイクロウさんも考えを変えるはずですわ』

『いえいえですから……、魔人王さまには魔海ではなく海獣島の方をですね――――』

『それならなおさら! クレイクロウさんだけで大丈夫じゃないッスか~!』

『ですわですわ。クレイクロウさんが本気を出せば「ラスボス」だろうがなんだろうが、あっという間に倒してしまえるじゃないですか』

『ま、待ってください。あの時のこと(・・・・・・)は本当にたまたまで、ただのまぐれなんですってば――――』



 魔海王軍の会議は白熱している。


 部外者が簡単に口を出してはいけない領域なので、ソルレオンはとりあえず腕組みしたまま仁王立ちしている。いつの間にか最奥部に陣取っているので、誰がこの奇岩城の支配者なのかわからない。

 ちなみにマーちゃんは会議の様子をじっと見守っている。内容にはあまり興味がないようだが、口論の熱に当てられて応援する観客のように手に汗握っていた。いったいどちらを応援しているのだろうか、たまに拳を天高く振り上げる。


「ふむ。どうしたものか……」


 ソルレオンが見たところ、彼らの主張は平行線のままだ。

「魔人王を仲間にする」か「魔人王を仲間にしない」か。当の本人は実際になにをするのかは確認していないが、「手伝いくらいはする」と気軽に明言している。

 あとは魔海王たちの問題なのだが、なんだか話がずれていってしまっているようだ。

 熱中しすぎた会議は少しくらい冷ました方がちょうどいいだろう。意見はぶつかり合わせるのではなく、お互いの妥協点まですり合わせることが大事なのだ。熱が入りすぎると、なかなかそれができない。


 このまま退屈しのぎにマーちゃんを眺めているのも悪くはないが、ちょうどよく気になる「あの時のこと」という言葉を耳にしたため、水を差すという意味でちょっと聞いてみることにした。


「おい、貴様らに聞きた――――」

『――――ああもう! なんであの【暴君】は倒されてもなお面倒事を残していったのでしょう……!』

『その暴君を見事に倒したのが、クレイクロウさんじゃないですか』

『その暴君からアタクシたちを救ってくれたのが、クレイクロウさんじゃないですか』


「おい! ちょっと我の話を――――」

『――――ですから、あの時のこと(・・・・・・)は偶然とか、奇跡みたいなものなんですって』

『あれが偶然でもいいんス。俺様にとってはクレイクロウさんに付き従うのに十分な理由ッスから』

『あれはアタクシにとっても奇跡みたいなものでした。今のアタクシがあるのも、全部クレイクロウさんのおかげです』


「あの時のことってなんであるか!? 暴君って誰のことで――――」

『――――私はそもそも強くなどありません。【魔王】と名乗れるほどの傑物ではないのですからっ』

『そんなまた謙遜を……。クレイクロウさんの強さは我々がよく知ってますぜ!』

『そうです。そもそも我々が惚れ込んだのはその強さは元より、その素晴らしい御心の方なのです!』

「…………」


 ソルレオンはほどなく諦めた。

 魔人王ともあろう者が、あの空間に侵入することは難しかったらしい。ことごとくスルーされて、今まで味わったことがない悲愴感が彼の胸中に渦巻いた。マーちゃんが『元気出して』とばかりに肩を叩くが、それにすら気付かなかった。



『魔人王さま、申し訳ありません。見苦しいところを見られてしまったようで……。

 ええと、たしか「あの時のこと」でしたね。ちょうど「暴君」の話でもあるので、少し長いですがお聞かせしましょうか?』


 魔海王が話題を逸らすように沈んだ表情のソルレオンに話しかけてきた。

 そして話しかけられたソルレオンはぱあっと明るい表情に変わった。


「貴様……っ、聞いていて……っ、くれたのだな……っっ!?

 貴様――いや、クレイクロウさんだけは、この我の話を聞いていてくれたのだな……っっ!?」


 ものすごくうれしそうだ。完全に無視されていたと思い込んでいたので、相手がちゃんと聞いていてくれたことに感動してしまったようだ。


「ありがとう、クレイクロウさん。

 我は全力で貴様の力になることを誓おう。なんでも言うがよい。

 だがまずは我もちゃんと貴様の話を聞こうではないか。さあ、話すがよい」


『ちょっ、え? どうされたんですか、魔人王さま?

 ええっと…………とりあえずこちらの頼み事にも関係しますので、話しますね』


 知らぬ間に魔人王の心を掌握したクレイクロウさんは、戸惑いながらも話し始めた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 それほど昔の話ではない。


 かつてこの魔海を支配していたのは【暴君】と呼ばれていた大海竜であった。


 暴君のその性質は凶暴そのもので冷酷無情。クラーケンたちをもはるかに凌ぐ巨体を持ち、一説には「海そのものを司る大怪物」とも云われていた。

 姿形はサーペントのように海蛇に似ているが、その巨大さや凶暴性、圧倒的な攻撃力と防御力を備えているため格上の【竜】の称号を得ていた。

 暴君はその巨大さゆえ、ひとたび泳げば波が逆巻き海が大荒れする。甚大な被害を及ぼす大津波でさえ容易く引き起こすことができるのだ。


 そして暴君が【暴君】と呼ばれるには、やはりその傍若無人たる振る舞いがもっともふさわしい。

 とある被害者Kが言う。


『暴君は本当にヒドいやつだ。

 見てくれ、このゲソを!「どうせまた再生するんだろ」って言って、ぜーんぶ食われちまった!!』


 とある被害者Sが言う。


『アタクシも暴君は嫌いよ。

 だってアイツ、じろじろとイヤらしい目でずっと見てくるのよ! しかもスケベで軽々しく逆鱗まで触ってくるし……』


 ほかにも被害者は大勢いた。しかし彼らはみな口をつぐんで服従せざるをえなかった。

 なぜならば【暴君】があまりにも強かったためだ。『弱肉強食』『力こそすべて』の魔物の世界ではそれがすべてであったからだ。



 そんな時、一体の海魔が現れた。

 それがクレイクロウさんである。


 たまたま【水の六魔将】のお使いで魔海までやってきた彼もまた、【暴君】の毒牙にかけられてしまった。

 だがしかし、ほんの少し大きいだけのエビが、ものすごくデカくて強い海竜を返り討ちにして倒してしまったことなど、いったい誰が想像できただろうか。


 とある目撃者Kが言う。


『まずクレイクロウさんがしたことは「ねんえき」を暴君にぶっかけることだった。

 あんなドロドロベタベタしたものをぶっかけられたら、さすがの暴君も自由に身動きがとれなくなってしまっても不思議じゃない。しかもそれには毒が混じっているんだぜ、恐ろしい……』


 とある目撃者Sが言う。


『その直後に、身動きがとれなくなっている暴君に向かって必殺技?を放ったのよ。

 アタクシにはよくわからなかったけど……「カラコロカラコロ」って音がしたわ。それをくらった暴君が一瞬で瀕死状態になって、そして「ねんえき」の毒であっさりと死んでいったの……』


 そしてクレイクロウさんが言う。


『ちがう、違うんです!【暴君】さんを倒すつもりなんてなかったんです!

 本当は「ねんえき」で動きを遅くして逃げようとしただけなんです。でもすごくあせっていたから間違ってしまったんです。というか、効くとは思ってもいませんでした……』


 だが彼の言い分は誰も聞いていなかった。ただ「クレイクロウさんが必殺コンボで暴君を倒した」という事実のみが知れ渡ることになる。




 それからほどなくしてクレイクロウさんは新たな【魔海王】として周囲の海魔たちに崇められるようになった。魔海に棲まうすべての魔物から「クレイクロウさん」と親しみを込めて呼ばれるようになる。

 始めは【魔王】と呼ばれることすら拒否していたのだが、彼の支配統治はとても平穏で、故・大海竜の暴挙っぷりにうんざりしていた海魔たちはよろこんでそれを受け入れた。


 しかし今現在、平和な魔海に新たな問題が発生した。


 魔海王として君臨することを半ば了承し、慣れてきた頃にあの大海竜の遺骸が突然『魔石』へと変質していったのだ。


『私たちはその魔石を【竜化石】と呼んでいます。

 それはおそらく世界最大級の大きさでしょう。なにせ【暴君】の骨がすべて(・・・)魔石化してしまったのですから』


 暴君の全身は『島』にも匹敵するほど巨大だったそうだ。それがすべて魔石と変質した。骨の一部だけでも人間と同じサイズはあるらしい。


『その竜化石のせいで人間たちが海獣島に立ち入るようになってしまったのです。

 強欲な者たちは我々の存在を感じつつも、危険を承知で魔海へやってきます。それだけならまだしも我らの仲間を殺傷することさえも珍しくなくなってしまいました』


 大海竜が暴れ回っていた頃には考えられなかったことだ。その名残で漁師たちは魔海へ近付いてこないが、腕っ節の強い冒険家たちはお構いなしだ。むしろ新【魔海王】の統治で危険度は下がっている。

 クレイクロウさんはその事態にかつてないほどの危機感を覚え、改めてソルレオンに懇願する。


『【魔人王 ソルレオン】さま、どうか我々に力をお貸しください!

 我々の海獣島を、人間たちの手から守ってください。どうかお願いします!』


「――――フハハハハッ!! よかろう、任せるがよい!」


 ソルレオンは快諾した。快諾、してしまった。




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