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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
大海獣島物語編 (長編)
56/72

魔王と海の怪物と交渉

『おいゴルルァァァァアッ! ヘビオンナァ! なにしてくれとんじゃあ!!』


 地底湖の中心から頭部を出しているサーペントを押し退けて、魔海王第一の家来であるクラーケンが勢いよく水面から飛び出してきた。

 突然の出現にソルレオンはとっさに身構えたが、クラーケンの暴言と敵意はライバルであるサーペントに向けられていた。

 飛んできた水飛沫だけがソルレオンたちを襲って、またまた全身ずぶ濡れになってしまった。


 もちろん今のクラーケンはソルレオンのことなど眼中にない。すぐそこにいるサーペントに襲いかからんとするように思いきり睨みつけている。

 邪魔者とばかりに無理やり地底湖の端にまで押し退けられたサーペントは嫌悪感をむき出しにしながらも、魔力声だけは甘くやさしい猫なで声を使う。


『あら~、誰かと思えばクラーケンじゃないの~。もうお昼寝の時間は終わりかしら~?』

『て、て、て、テメエ……っ! 俺様が沈んだ場所に目掛けて、あんなバカでかい岩石を落としてきやがって! 殺す気かっ!?』

『おっかしいわね~? しっかり落とす場所とタイミングを計ってやったのに、まだピンピンしているわ、このイカ野郎……。

 ――――あっ。どうやらアタクシが落とした目覚ましの効果はあったようね。ホントよかったわ~』

『……本音が漏れてるぞ、ヘビオンナぁ!』


 怒り心頭のクラーケンは、イカなのに全身が真っ赤だった。

 今すぐ取っ組み合いの喧嘩に発展しないのは、この場所が奇岩城の内部だからだろう。二体の巨大生物が暴れ回ってしまっては、さすがの魔海王の本拠地でもただでは済まない。


『やあねえ、偶然よ。偶然ぶつかった大岩が、たまたまアナタの寝ていたところに落ちただけよ~』

『よくもまあヌケヌケとそんなことが言えたモンだ。

 ……知ってるんだぜ。この大岩には文字が刻まれていやがる。これ(・・)は「ハカイシ」っていう人間どもの風習だ』


 クラーケンが動かぬ証拠とばかりに触手を使って大岩を持ち上げる。たしかにその岩の表面には、歪んでいてとても読みづらいが人間が使う文字が刻まれていた。



【イカ 寝る】



 ……おそらく『クラーケン ここに眠る』とでも書きたかったのだろう。だがサーペント嬢が知っている単語はその程度だった。いや、むしろ文字を知っているだけでも十分すごいが。あと、いったいどうやって書いたのだろう。


『上等じゃねえか。オモテへ出ろ』

『……やめときなさい。アナタとはいずれ必ず決着はつけるつもりだけれど、すでにさっきのケンカが原因で【魔海王】に叱られたばっかりでしょう』

『チキショウそうだった。だがあれは、あんなところに帆船がいたのが悪いんだ。あとその船にぶつかったサーペントが全部悪い』

『違うわ、悪いのはクラーケンの方よ。アナタが人間の生活圏が近いあの海原に逃げ込んだのがすべての間違いよ。つまりアナタが全責任を負って、ついでに魔海王の部下を辞めるべきだわ』

『うるせえ黙れ、ヘビオンナ』

『そっちこそ黙りなさい、イカ野郎』



 そのやりとりを眺めているソルレオン。薄々は勘付いていたが、やはりこの二体が定期船の近くで暴れ回ってぶつかってきた怪物どもらしい。

 その事実を知って、ふつふつと怒りの感情が湧き上がってくる。だがそれを自ら諌めるように、また反射的に拳を出さないように固く腕組みの姿勢のまま動かずにいた。

 そもそもクラーケンとサーペントの仲違いなど、ソルレオンにはまったく関係がない。


「――――おい」


 だが口を思わず挟んでしまった。目の前の怪物どもの不毛な口喧嘩をさっさと終わらせて、帰るための方法をなんとかしたいという気持ちが勝ってしまったからだ。

 その声に過剰反応したのはクラーケンだ。山のような巨体をびくりと震わせて固まってしまった。

 思っていた以上にソルレオンの声音には苛立ちが含まれていたらしい。サーペントはその言葉のトゲに気付いて睨みつける相手を変えた。

 ソルレオンは構わずに続けた。


「喧嘩はそのあたりにしておくのだな。貴様らは同じ海に棲む仲間なのであろう?」


 すぐ隣でマーちゃんがうんうんと頷いていた。先程まで二体の口喧嘩を止めるため、懸命になにかを訴えていたのだが、クラーケンもサーペントも残念なことに気付いていなかったようだ。


「そんなことより我は一刻も早く陸地に帰らねばならぬ。マーちゃんに頼みごとがしたいから、少しの間だけ静かにしてもらえぬか?」

『……なに言ってるの。人魚姫にそんな雑用させるわけにはいかないでしょう』


 サーペント嬢はきっぱりと拒否した。


「な、ならば貴様が連絡役になってはくれぬか?」

『イヤよ。なんでアタクシがそんなことしなくてはいけないの』


 サーペント嬢はきっぱりと拒絶した。

 そのはっきりとした答えに、むしろ慌てたのはクラーケンの方だった。身を持って知ったソルレオンの底知れぬ強さを警戒しているのだ。


『おいバカ、ちょっとは言い方ってモンを考えろ』

「おお、ならば貴様が行ってくれるのか?」

『えっ? ああ、いや…………悪いが、俺様は魔海王とこの奇岩城を守る役目があるから、なあ?』


 怯えながらもクラーケンは連絡役を断った。さすがに『第一の家来』を自称しているだけあって、不用意に魔海王のもとを離れることを嫌ってのことだ。

 その理由を聞いてソルレオンは【悪魔騎士 デュラハン】のことを思い出す。そういえば彼も「魔王サマハ、コノデュラハンガ命ニ代エテモオ守リスル」と主張して魔王城を離れようとしなかった。これほどまでの忠義の言葉を無視することはできない。


『あらクラーケン。それはアタクシの役目だから、アナタは別に出ていっても構わなくてよ』

『そうかそうか。だがなサーペント、テメエみたいな雑魚にその役目はちょっとばかし荷が重いだろ?』

『おほほ、そんなことはないわ。適材適所でいこうじゃない。アナタ、逃げ足だけは速いでしょう?』

『ああん!? もういっぺん言ってみろっ!』



「――――そこまでである」



 ソルレオンが再び喧嘩を中断させた。今度は苛立ちどころではない怒りの感情を込めたため、サーペントまでもが硬直している。クラーケンは言わずもがなだ。

 爆発的に膨れ上がった高熱源体の存在感に圧倒され、怪物どもは怯み動けなくなる。自分たちの数十分の一にも満たないちっぽけな魔人が、巨人よりもはるかに大きく感じられた。

 だがそんな錯覚もすぐに終わる。ソルレオンはすぐさま殺気を抑えたからだ。


『……あ、アナタ、いったい何者?』

「そんなことはどうでもいい。それよりも……うむ、困ったのである。

 マーちゃんは駄目。サーペントにもクラーケンにも断られた。しかし我はなんとかせねばならぬ。

 残された道は――――【魔海王】と直接交渉するくらいしかないのである」

『待ってくれ! それは……』


 クラーケンが本格的にあせり出した。

『魔海王第一の家来』として、これほどまでに圧倒的で危険な力を持つ魔人を【魔海王】のもとへ案内することなどできない。


『なにをそんなにあせっているの?【魔海王】なら、きっと大丈夫よ』


 サーペントはあまり問題視していない。

『魔海王第一の家臣』として、【魔海王】の強さを心の底から信じているのだ。たしかにこの魔人は強く恐ろしいようだが、我らの魔王が負けるはずがない。


 不穏な空気を察したのか、マーちゃんが不安げな表情をしてソルレオンの袖を引いた。


『 マ タ、 ケ ン カ、 ス ル ノ ? 』


「いや、すまぬ。始めから敵対などする気はなかったのだ」


 謝罪の半分は一発殴ったクラーケンに向けたものだ。怪物どもの警戒は未だに解けてはいないが、いくらかは緩くなった気配がした。

 改めてマーちゃんへ話しかける。横柄さなど欠片もない真摯な態度で。



「我を【魔海王】のもとへ、案内してはもらえぬか?」



 しばらく考えていたが、やがて【人魚姫】は彼を信用することに決めた。




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