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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
大海獣島物語編 (長編)
53/72

魔王と海の中と洞窟の中

 沈む。


 沈む……。



 沈む…………。



 ゆらゆらと揺れる水面はずっと上にあり、ソルが腕を伸ばしてももう届くことはない。

 いくらもがいても水を吸って重りとなった衣服が彼を逃がさない。ごぼりと空気の輪をこぼしてしまい、さらに息苦しくなる。

 不思議と恐怖は感じない。

 ただ冷静に「このままでは死ぬな」とぼんやりと逃れえぬ事実が頭に浮かんだだけだ。落ちるまではあんなに怖かったのに本当に不思議なものだ。


 もう一度だけ足掻いてみる。

 なぜか動きが鈍くてチグハグで、必死に水を掻こうとしてもそれは変わらない。

 すっかり背中に馴染んでいた大荷物は降ろしてあったので身軽なはずだが、もっともっと重いなにかで上から押さえつけられているような、下に引っ張られているような感覚で沈み続ける。


 なにか太くて長い影がいくつも視界を横切る。サーペントの胴体かクラーケンの触手だろう。

 巨大な海の怪物どもが派手に暴れているせいで海流が引っ掻き回され、ソルは海面からさらに遠ざかる流れに乗ってしまっている。

 ソルは深海へと引きずり込まれる。

 ちっぽけな抵抗では無力だった。


 ふと乗ってきた定期船は、仲間たちは無事なのかと思い至る。

 激しい揺れで船外へ投げ出されるソルと、それを見て驚き焦る仲間たち。

 勇者エレンが手を伸ばしてソルの名を叫ぶ。

 聖職者ミカが駆け寄ろうとしたが失敗して転倒する。

 魔術師セラは、なにが起きたのかわからなかったように固まっていた。

 あの様子ならばほかに誰も海面に投げ出されていないはずだ。それなら、いいだろう。


 ソルは全身の力を抜く。

 もう助からないと悟った時、彼は一切の抵抗を放棄したのだ。


 一瞬だけ海面に雷光が奔る。

 しかしソルにはもう、それを見て反応するだけの力が残っていなかった。


 最後の空気の塊を吐き出した。

 もう、これでおしまいだ。



 ソルはゆっくりと目を閉じた。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※







STAFF



文章

 マテライト



演出・戦闘描写

 マテライト



原案

 マテライト



音楽

 なし



登場人物


勇者     エレン

魔術師    セラ

聖職者    ミカ


船長     船長

船員A    船員A



友情出演


サーペント  サーペント

クラーケン  クラーケン




魔王     ソルレオン




スペシャルサンクス

 ここまで読んでくださった読者の方々

 元ネタになった名作の数々



監督・監修

 マテライト



2014年制作

「ラスボス」制作委員くぁwせdrftgyふじこlp;@:「――――――――――

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 水滴がソルレオンの頬に垂れた。

 一滴、また一滴としたたり落ちる水。

 それを知覚した瞬間にようやく意識は一気に覚醒状態へ振り切った。


「――――はっ」


 濡れた横顔にそっと触れた。ぐっしょりと濡れているが触れた肌には体温があり、じんわりとした温もりが感じられた。


「生きて、いる、のか……?」


 混乱したまま顔だけでなく全身も触れてみて確かめる。

 どこにも怪我らしい怪我はない。だが頬と同じように全身も着ている衣服もぐっしょりと濡れそぼっていて、そのことが「ついさっきまでソルレオンが溺れていた」という証明になった。


 やはりあの海の底へ沈んでいく記憶は本物だったのだ。


 思い出して背筋が凍る。そうだ、自分は海に落ちたのだと。

 海中に没している時の方がむしろ冷静だったのは、感じていた恐怖心を後回しにしていただけなのだろう。いずれ莫大な負債が一気に襲いかかってきて潰されてしまう。

 だが今現在、多少混乱してはいるがソルレオンの精神はまったく堪えていない。むしろ不思議と心身ともにみなぎるほどの力が湧いてきている感覚だ。強靭な精神力で恐怖を抑え込んでいるのだ。



「そうである。ここは、どこなのだ……?」


 ふと気付いて周囲を見渡す。

 ソルレオンがいる場所は狭い牢獄のような場所だ。かび臭くて狭苦しい。岩を削ったような穴に鉄格子を取り付けただけの部屋とも呼べない空間だ。

 牢獄全体は薄暗い。しかし以前に魔獣の森で見たような『ヒカリゴケ』のようなものが壁のあちらこちらに張り付いていたため真っ暗闇ではなかった。夜目の利くソルレオンには十分で、昼間と同じように行動できる。

 もう一つ、牢獄全体の特徴として「湿気が異常なまでに高い」。思わずむせ返るような湿気の高さだ。深呼吸をすればそのまま溺れてしまいそうだ。

 細かい水の飛沫が周囲を包み込んでいてわずかだが視界を悪くしている。天井から集まった水滴がいくつも落ちてくるので屋内で小雨が降っているようなものだ。牢獄の中にも水溜りがいくつもできている。



「おーい! 誰かおらぬか――――っ!?」


 鉄格子に取り付いて奥を覗こうとして、鉄格子が外れた(・・・)

 両手に握った鉄の棒きれをぼんやりと見て、後ろに放り投げる。見なかったことにした。


「…………うむ。たぶん根元が錆びていたのだ。きっと手入れ不足なのだ。我はなんにも悪くないのだ」


 魔王城にいた頃、何気なく触った物を壊してしまったことを思い出した。あの時は激怒した魔女のセラがめちゃくちゃ怖かった。さんざん説教されてひどい目に遭った。


「セラたちは無事であろうか? なんとか合流せねば……」


 最後の記憶だとソルの仲間たちは全員船の上にいた。ソルを助ける素振りこそ見受けられたが、怪物どもが暴れる海に飛び込むことは無謀すぎる。セラあたりはその無謀なことを平気でしそうだが、なんとか思い止まっていてほしい。いくらなんでも無理だ。

 ソルレオンは結果的に助かったのだ。むしろ助けようとした者が溺れ死んでしまうなんてあまりに悲惨な結末だから、だから勇者たちは海へ飛び込まないままでいてほしい。



 鉄格子が無くなった隙間に巨体をねじ込んで牢屋を出る。

 外の空間も洞窟のようなごつごつした見た目だ。牢獄の中をそのまま広くしたような間取りだが、小さな水溜りの代わりにものすごく広大な水溜りがあった。地底湖のようだ。

 再び水に対する恐怖感を覚えたソルレオンは地底湖から離れて周囲を観察する。

 飛び跳ねても届かないほど高い天井部分にまでヒカリゴケが群生しているので、ここでも照明には困らない。これだけ適応力が高いのだから、ぜひ魔王城にも生えてくれないだろうか。


 地底湖がすっぽり収まっているだけあって牢獄外の空間は広かった。しかし陸地になっている場所は少なく、ソルレオンが移動できる場所は限られている。

 地底湖の外周を囲むようにあるのが陸地部分だ。そこからなだらかな坂道のように地底湖の中に入っていく。いきなり落ちる穴や崖状になっている箇所はないが、よく見てないからわからない。

 なるべく地底湖から離れて外周に沿って歩く。ほかに出入り口があるかどうかを慎重に調べる。もしも地底湖以外に目ぼしい出入り口がなかったら……。


 その時、地底湖の方から飛び跳ねるような水音がした。


 水滴とは違う、もっと大きななにかが跳ねるような音だ。ソルレオンは音のした方へ振り向いた。

 そこには水棲の魔物がいた。

 浜辺に打ち上げられた魚のようにびちびちと地底湖から這い上がってくる。上半身が人型だが、下半身がサカナのような尾びれなので立ち上がれない。そのまま這いずるように移動していた。


【マーメイド】だ。


 半人半魚で女性型。上半身が美しい妙齢の女性で、下半身がなめらかなサカナの尾。その歌声には魔力が込められていて、船人たちを惑わすとも船ごと沈めるとも云われている。

 人魚の方もソルレオンに気付いた。

 整った目鼻立ちは勇者エレンにも似ているが、その髪色と瞳の色はまったく違う。黒と緑と青を混ぜてぬらぬらと光沢を放っているような不可思議なもので、「海藻色」とでも形容する色だった。


 人魚はこちらを見ると驚いたように目をまんまると見開き、パクパクと口を開けては閉める。呼吸困難なサカナのような仕草だ。


「……む? なにか言ったのであるか?」


 ソルレオンは無造作に近付く。ちなみにまったく警戒していない。

 人魚はわずかに後ずさったが、その場に留まって牢獄とソルレオンを交互に指差す。なにかを伝えたいようで、一緒に口もパクパクさせる。


「もしや、貴様はしゃべれぬのか……?」


 ソルレオンはじっと人魚の顔を見て、その唇を読む。


『 ド ウ ヤ ッ テ 、 デ タ ノ ? 』


「それは、であるな…………鉄格子の取り付けが悪かったようで、触ったら、ほんのちょっぴり触っただけで外れてしまったのだ、フハハ」


 水気に溢れた洞窟内で、ソルレオンの乾いた笑い声が響いていた。


 これが魔王と人魚との初対面である。




 ED風のスタッフロールっぽいのはふざけ過ぎましたね。


 だ が 私 は 謝 ら な い 。

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