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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
勇者の仲間たち編 (長編)
50/72

聖職者と神父と勇者からの勧誘

 通称「殴りアコライト」のミカ。

 彼は同じ聖職者たちの中でも異色の存在だった。


 彼の生まれは田舎貴族の三男坊、三兄弟の末っ子だ。

 長男が家督を継ぎ、次男は猛勉強の末に中央の官吏に就き、兄たちと年の離れた三男であるミカは幼いうちに教会の寄宿舎に預けられた。理由は簡単、家督争いを防ぐこと。そして田舎の貧乏貴族には何人も高度教育を受けさせるだけの金がないためだ。

 ここまでは別段珍しい話ではない。


 ミカは教会で内に秘められた強烈な光属性を見い出され、やがて戦う聖職者『僧兵』となるべく教育と訓練を受けることとなった。

 彼には願ったり叶ったりの出来事であった。僧兵の中でも肉体派で戦闘に特化した『モンク僧』を希望するが、残念ながら却下されたが。

 しかし諦めていなかったミカは、錫杖を『詠唱の補助』ではなく純粋に『鈍器』として使う戦い方に至った。ほかの聖職者たちが『祈り』や『補助・強化魔法』を主戦法としていたにも関わらずにだ。光魔法のエンチャント『光の鉄槌』を覚えてから、それは加速する一方であった。


「殴りアコライト」の誕生である。



 ミカは「強さ」や「男らしさ」にこだわっている。

 それは「ミカ」という名前や、女性にも似た容姿のせいであった。


 生まれてすぐ、父親がかわいいかわいい女の子と間違えて「ミカ」というかわいらしい名前を付けてしまった。訂正しなかったのは「名前を変えることは縁起が悪いから」という古いしきたりのせいだ。

 名前どころか見た目まで女の子だったミカは、同年代の男の子たちからいじめられた。そこらの農夫よりも大柄だった長男と比べられ、その男とは思えない貧相な体をよく馬鹿にされていた。

 寄宿舎に入っても同じだった。女人禁制の場所ではかなり浮いた存在だったようだ。あげくの果てはそういう趣味(・・・・・・)の大司教にも目を付けられていたらしい。


 自分自身が「強い男」であると証明するために、ミカは少しでも強くなろうと努力していた。

 そして己の運命とも云える、ファルケン神父との出会いである。


 変態大司教の罠により捕らえられ、オンナノコ(・・・・・)にされてしまう寸前にファルケン神父が颯爽と登場してミカを助けた一件のことだ。

 問題行動が多くてついには告発された大司教は僧兵隊に包囲されてお縄に着いた。その僧兵たちを率いていたのが、『元勇者』で実戦経験が豊富なファルケンである。

 偶然にもその場にいて助けられたミカは彼らの雄姿、特にファルケン神父に強く憧れた。それからミカは何度も何度も直接交渉して、その熱意に折れたファルケンが弟子となることを認めた。

 しかしその頃すでにファルケン神父は戦いそのものを拒否するようになっていたために、ミカが満足できるような修行・鍛錬をしてくれることはなかった。


 このままファルケン神父の元で己を鍛えることも悪くないだろう。少なくとも普通の僧兵になる訓練よりためになるし、実戦で有用なことをいくつも教えてもらえる。

 しかしミカが期待していた猛禽の勇者の修行よりも手緩い修行内容だ。より厳しい修行によって、男らしくさらに強くなれると信じていた彼にはそれが唯一の不満だった。

 ぬるま湯のような環境。なにか足りないことが分かっているのに、長く居続けるのにはちょうどよい。



 そこへ突然やってきた勇者一行。ファルケン神父と違って彼女たちは現役だ。

 その仲間の一人を見た神父の反応。倒れた神父からわずかに聞けた言葉の端々をつないでみると、どうやら因縁のある人物らしい。

 しかも【猛禽の勇者 ファルケン】よりも強いらしい。神父の異様な怯え方を見ての予想であった。


 ファルケン神父とソルという大男との間になにかあったのだろう。その強さが身に染みているような言い方をしていたので、一度は本気で戦ったことがあるのだろう。そしておそらく、神父はこっぴどく負けたのだろう。


 勇者一行の道案内を命じられた時、神父とソルとの間になにがあったのかを訊ねた。神父はすべてを話してはくれなかった。ただでさえ優れなかった顔色がさらに悪化したので、おそらく心の傷になるような非道なことをされたのだろう。

 ただ最後に一言「己の目で見極めなさい」とだけ伝えられた。


 勇者エレン、魔術師セラ、そして格闘家ソル。

 この三人と出会ってまだほんの数日しか経っていない。彼ら彼女らのことを知るにはまるで短すぎた。


 聖職者ミカには、もう少しだけ時間が必要だった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 勇者エレン一行は『修験者の洞窟』を無事に通り抜けることができた。


 暗い闇に支配されていた洞窟から外へ出ると、そこには沈みかけた太陽が風景を赤橙色の世界に染め上げていた。

 ずっと暗い場所から出てきたために、その強烈な夕陽に目を赤く焼かれそうになる。

 エレンたちはあまりの眩しさに目を細めて手のひらで日除けを作っていたが、しかし不思議と穏やかな気持ちになっていって安心感を抱いた。やはり太陽は偉大だった。


「ぐわっ! 目がっ、目がぁぁああああああっ!」


 ソルを除いて。


「ソルってば、またやってるね……」

「ソルさまは暗闇に強くて夜目が利く御方なのですが、逆に強烈な光に弱いのです」

「それはそれは……ファルケン神父とは正反対ですね。神父は鳥目で、夜中はなにも見えないとおっしゃってました」


 ゴロゴロと転がりながら大げさに身悶えるソルを横目に、三人は和やかに会話を続ける。


「『ソル』ってたしか、古い太陽神の名前じゃなかったっけ? でもソルは強い光に弱いんだねぇ」

「いいえ、そんなことは…………あっ、そうですね! ソルさまは強い光に弱いのです! だからあの強い光を放ちながら輝く『光の鉄槌』はあまり使わないようにしてくださるとありがたいのですが……」

「えっ? そんな、自分はなんてことをっ。すみません。そんなことも気付かないで」

「いいえ、お気になさらず。でも気に病むようでしたらいっそ封印してもよろしいのですよ。なんでしたらわたしが全力でお手伝いいたしますわ」

「ふ、封印ですか……?」

「あははー、セラってば冗談うまいなぁ」

「じょ、冗談、でしたか」

「あらあら、いやですわ。うふふー」


 惜しくもセラの目論見は失敗した。そんなことをおくびにも出していないが、内心舌打ちしててもおかしくはない。

 エレンは無邪気な態度のままミカをべた褒めする。


「でもさぁ、あの『光の鉄槌』を使わなくてもミカさん、すっごく強いよねぇ」

「いえ、自分などまだまだです。それに勇者どの、若輩者の自分ごときにさん付けなど必要ありません」


 同い年かと思いきや、ミカは年下のようだ。彼としても男性を連想する「○○くん」や呼び捨ての方が好みだった。


「そぉ? じゃあ『ミーくん』って呼ぶことにしよっか」

「えっと、それはちょっと――――」



「――――でさぁ、ミーくん。ボクたちの仲間にならない?」



 勇者エレンの真っ直ぐな勧誘に、ミカはすぐに答えられなかった。


 たしかに突然のことであったが拒否はしていない。ミカの中では葛藤が生まれていた。

 神父から頼まれたのは『海上都市』までの道案内だ。それが済めば必然的にミカは、みんなが待つあの集落に帰らなくてはならない。

 一方でミカには「強くなりたい」という純粋な目標と夢があった。そのためにファルケン神父に頼み込んで弟子入りまでしたのだ。しかし現状では神父から学べることはわずかだ。


 そして今回、さらに強くなれるかもしれないチャンスが訪れた。


「あの……自分は……その……」


 だがしかしミカにはまだはっきりと答えることができない。聖職者としての責任と男としての願望とがせめぎ合って答えを出しかねている。

 エレンたちはそれを察したのか、すぐに返答を求めなかった。目的地に到着するまでまだ時間がある。説得するにしてもまだ余裕があるためだ。



 聖職者ミカには、もう少しだけ時間が必要だった。




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