勇者と聖職者と洞窟・後半
『修験者の洞窟』の後半は聖職者ミカ頼りでなく、勇者一行各自の連携を意識しての戦法に切り替える。洞窟内は狭いこともあり、前方二人が敵を倒し、後方二人が周囲の警戒と荷物持ちという役割分担だ。
そして今回ミカとともに前方に配置されたのは格闘家ソルだ。
正直なところ全員が不安に思っていた。どうも相性が悪そうだからだ。
まず戦い方。そもそもミカとソルは両者とも先頭に立ち単独で戦うタイプだ。
ミカは大きな得物を振り回すため、周囲に味方がいない方が戦いやすい。これは魔術師セラが援護に徹して戦う組み合わせがもっとも適していた。大振りの一撃の隙を埋めるような戦法ができるエレンでも問題なく組める。彼女ならば小回りが利いて機動力もあるからだ。
一方でソルの戦い方は足を止めて真正面から殴り合うというものだ。もはや戦法と呼べるものではない。彼が異様に打たれ強く、一人で複数を相手取ることに慣れているためこういう戦い方ができる。ソルと組み合わせで適性なのは、やはり背中を任せられる援護型だろう。
ミカとソルが並んで戦うとしよう。
おそらく狭い洞窟内でミカが武器を振り回せば、まず間違いなく巨体のソルにぶつけるだろう。一発や二発程度なら平気かもしれないが、問題はミカの攻撃が『光属性』だということだ。
「どぉぉぉぉおおおうりゃぁぁぁあああっっ!!」
ミカの『光の鉄槌』が唸りを上げてグールの集団を薙ぎ倒した。強力な光属性を持つため、アンデッドや闇属性に対して効果抜群だ。
勢いよく振り回す豪快な軌跡はついでのようにソルの顔面に向かった。
「フハハ、グールごときではこの我を倒すことはできぬ――――ん、ぐはああああああああっっ!」
目の前の敵を嬉々として殴り倒していたソルは、突然真横から向かってきた鉄槌の一撃を避けることができなかった。
流れ弾のようなものであるが、油断していたこともあってソルの巨体が思いきりふっ飛ばされる。
場が騒然となった。
「しまったっ!?」
「――――かまうな! まだ戦闘中である。ミカは前、エレンは後ろを警戒せよ!」
「っ! わかったよ」
殴られた頬に手を当てたソルが檄を飛ばす。
その一声で勇者たちの動揺は一時的に治まった。再びグールたちとの戦闘が始まる。
セラが駆け寄る。即座に回復魔法をかけようとするが、思わず手が止まった。
「ソルさまっ、すぐに手当てを――――あっ」
「……セラよ、これは内緒である」
「……かしこまりました」
ソルが殴られた箇所からは蒼白の肌が覗いていた。魔人の肌だ。
しかしソルは平然と笑みを浮かべる。
「……まさか我がこれほどの手傷を負うとは。もしかすればミカの攻撃なら……あれほど強力な光属性攻撃ならば【闇の衣】を貫通するのではないかな?」
今のソルが『変化の秘薬』の影響で弱体化した状態とはいえ、直撃でもない攻撃で思いもよらないダメージを負った。その事実だけでも十分に衝撃的だった。
熱に浮かされたように独白するソル。信じられないといった表情と、強敵に出会えて嬉しいという感情とがないまぜになっているようだ。
「……なんとかミカをこのまま『勇者の仲間』として引き込めないだろうか? なぁセラ、なにか良い方法を思い付かぬか?」
「……さて。どうでございましょう?」
変化の秘薬を使ってソルとしての外見を修復していく。
セラはまた複雑な心境を隠すように手際よく作業を済ませた。
「……うむ。そうであったな。まだ目的地までの日数は残っているのだ。あせらずにじっくりと勧誘していけばいいのだ、フハハハハ」
口ごもったセラに気付くことなく、ソルは結論を出した。
「……あの、ソルさま……」
「フハハハハ! 我 、ふ っ か つ !!」
勢いよく立ち上がるソルだったが、すでにグールは全滅していた。
合流した二人は思った以上に元気そうなソルの様子に安堵する。
「わぁ、ほんっとに頑丈だねぇ、ソルって」
「あの、申し訳ありません。自分は熱くなると周りが見えなくなるようでして……」
「フハハ、よいよい。それよりも先へ進もうではないか」
ソルは鉄槌をぶつけられたことを気にした様子もなく、またもやミカと一緒に前列に立った。すぐ後ろにはエレンも追従する。
「ふむ。どうにもまだ並んで戦うのに慣れないのだ」
「そうだねぇ。ソルってば敵の目の前から頑として動かないからねぇ」
「フハハ。我はぜったいに退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! この我には逃走はないのだーーーー!!」
「うん。なにか違うねぇ」
「と、とにかくどうにかならぬか? ミカよ、なにかいい案が思い付かぬか?」
「えっと、自分ですか? そうですね…………」
今後の戦い方を相談しながら洞窟内を進む。
セラは三人の背中をしばし眺めてからようやく歩き出した。ソルたちに置いていかれないように。気持ちを強く持ちながら。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いざ気を付けて連携してみれば、案外うまくいくものである。
始めの方こそぶつけられたりしたミカの鉄槌も、避けるどころか気にしなくてもふいに襲いかかってくることがなくなった。
「フハハ、よしよし。今の動きは実に良かったのではないか?」
「そうですね。自分もあんなにきれいにガイストを一掃したのは初めてかもしれません」
ぎこちなかった会話や意思疎通もうまくいって、いよいよミカとも仲良くなってきたところであった。
ミカと出会ったばかりの時はなぜかソルに対して敵意を持っていた。少なくとも仲良くなろうとはしていなかったはずだ。
それが中間地点で休憩したあたりからその態度が徐々に軟化していったのだ。理由はまだわからない。
「あの大鉄槌を振り回して敵を薙ぎ倒す雄姿は、実に格好良かったのである」
「いえ、自分などまだまだ……それよりもソルどのには何度も助けられました。自らの体を盾にして他者を庇うなど普通できません。憧憬の念すら覚えるほどです」
「フハハ、照れるのである」
お互いを褒め称えあう姿は実に仲睦まじい。
そして面白くないのは後列の女性陣二人である。
「……あははー、いいんじゃないかなぁ」
「……うふふー、そうかもしれませんね」
ソルたちは後ろからの突き刺さる視線に気付かない。話に夢中になっているからだ。そのことがエレンとセラをさらに不機嫌にさせる。
「自分もソルどのような体格があればよかったのですが、代々の血筋が細身なので光魔法を鍛えることでしか強くなれませんでした」
「しかしその光魔法がすごいではないか! あれほど神聖な威力に特化しているものはほかに見たことがないのである」
「ありがとうございます。しかし自分は男児として生まれたからには、やはりその身一つで勇敢に戦ってみたいのです! 強化魔法で強くなるのは、正直なところ苦肉の策です」
「うむ。立派な心がけである」
ソルは平然としているが、聞き耳を立てていたエレンとセラは聞き逃さなかった。
「えっ?」
「男児、ですか?」
二人の呟きのような質問にミカは振り返って答えた。
「……はい。ああ、そういえば言っていませんでしたか」
ミカは少しだけ傷付いたような顔をしている。今まで何度も言われ続けてきたからだ。
「自分の名前が女性っぽいことは認めましょう。この顔も、体格も、あまり男らしいとは言えません」
ミカは細身で顔立ちがやわらかくて女性的な雰囲気を持っている。しかしそれを必死に打ち消そうとするように大きく構え、声を無理やり低くして、固く厳めしい態度を崩さない努力をしていた。
「しかし、自分はたしかに『男性』です」
聖職者ミカは真っ直ぐな真摯な眼差しで言い切った。
※「ミカ」は英圏内では男性名だそうです。マイケルやミカエルなどの短縮形です。
殴りアコライトのミカは男になります。なんか筆者はこういう「男?→女でした」「女?→男でした」みたいのが好きみたいですね。




