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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
勇者の仲間たち編 (長編)
47/72

聖職者?と勇者たちと死霊との戦い

 勇者たちを襲ってきた魔物は【ガイスト】。

 死霊・亡霊どもの中では特に多く目にするタイプの魔物だ。


『―――――ぅぉぉおおおおォォォ――――オオオぉぉぉォォぉん――――』

『―――――クスクスクスクス――――ネェ――――コッチニオイデョ――――』


 その有象無象の『念』の塊は、その場所に充満する魔力と合わさって『魔物』に変じる。偶然性の高い発生の仕方であるが、逆に条件さえ揃えばどこにでも出没するという特性を持つ魔物だ。

『修験者の洞窟』のような穴倉は、特に魔力の溜まりやすい場所だ。迷宮のような閉鎖空間も同じく魔力が溜まりやすい。ましてや修験者の洞窟は「奴隷たちが過酷な環境で次々に犠牲になった」という曰く付きの場所だ。次々に亡霊どもが現れるため、聖職者たちが定期的に除霊に来ることになっても当然であった。


『――――くぅぅぅ――――くるぅ――――しいぃぃぃぃ――――――――』

『――――イダイイタイイタイィィイィ――――イダイダイダイダダダダダダダ――――』


 その半透明な魔物の姿は、核となる『念』や『想い』に準ずる。要は憎しみや恨みが原因で残った残留思念から生み出された見た目はおどろおどろしく不気味になり、愛情のようなものから生み出されれば清らかな精霊に近い存在になる。その姿は様々だ。


 勇者たちを襲ってきたガイストは四体。そのいずれも身の毛もよだつ姿をしている。

 四体のガイストは人型を保っているが、正気を保っている顔はしていない。さらによく見ればところどころ顔面や胴体が崩れており、ゾンビに近い見た目をしたガイストもいた。半透明で実体があやふや、さらに暗闇を纏わりつかせているため、その全体像を捉えにくい。



「ひええぇぇっ」

「エレンどの、下がってください」


 勇者エレンが怖がって顔を引きつらせた。

 彼女を庇うように雄々しく錫杖を構えたのは聖職者ミカだ。この修験者の洞窟をすでに何度も訪れているため、今さら驚くことはない。


「ガイストは見た目こそ怖ろしいですが、そこまで凶悪な魔物ではありません。気を静めて」

「そ、そんなこと言われてもぉ……」


 ガタガタと体を小刻みに震わせながらエレンは剣を構える。

 しかし残念ながらただの剣では幽霊族の魔物にダメージを与えることはできない。煙やもやを切るようなもので、何度も何度も……何度も切りつけてガイストを構成する魔力をかき乱してやるのが精一杯だ。

 その一方で魔法攻撃は効果的だ。魔力に直接作用して消滅させることが可能だからだ。その場所に溜まった魔力にも属性があるので、その弱点を突くのがもっとも最適とされる。ちなみに魔力を付与した『魔法剣』ならば、元がただの剣でも十分に戦える。


 怖ろしいガイストから目を逸らすように、エレンは後ろの仲間たちの方を向く。

 ソルはあいかわらず堂々とした態度で腕組みをしていた。死霊が渦巻く洞窟内でも平然としていて、むしろ深く暗い『闇』を背負ってパワーアップしているようにも感じた。

 その隣にちょこんと佇む魔術師セラも毅然としたいつもの態度だ。おそらく幽霊族に効果抜群の魔法を使えるからだろう、その優位性が彼女に余裕を与えているように思えた。しかもよく見れば口元がニコニコしている。


「……? どうかなさいましたか、エレン?」

「いや、その……みんなアレが怖くないんだなぁ、って思ってさぁ」

「フハハ、当然である。慣れておるからな」

「うふふ、よく見れば意外とかわいいのですよ。あの子たちも」

「か、かわいい……かなぁ……?」


 かわいい顔をして衝撃的なセリフと独特の感性を披露したセラ。

 しかし気が付けば怖がっているのはエレンだけである。こんな情けないままではいけないと、恐怖を克服するための覚悟が決まった。

 そしてガイストを注視する。

 するとエレンの視線を感じたガイストがにんまりと不自然に笑った。半透明な眼球がぽろりと落ちて消えていった。


「うへぇ…………怖いというより気持ち悪いよぉ……」


 完全に克服することはできなかったようだ。

 ソルたちは「あれはさすがに酷い」と膝を叩いて笑っていた。二人はやっぱり平気なようだ。




「お三方、なにを遊んでいるんですか!? まったく……」


 苛立ったミカが声を荒げた。緊張感のない勇者たちに我慢ならなかったらしい。

 しかしながら、ガイストはゆらゆらと立ち塞がるだけでまだ直接あちらから攻撃してくる様子がない。緊張感が欠けても仕方がないかもしれない。

 比較的危険の少ないガイストは、認識力と攻撃性が低い。こちら側から攻撃するか、よほど興味を魅かれるようなものがなければ積極的に襲われることがないからだ。

 ミカは怒りを鎮めるように長く息を吐いた。


「たしかに自分がまず実力を見せるのが先ですからね。手出しは無用です」


 真剣な表情になって、神聖な文言を紡いでゆく。

 それは聖職者が得意とする光属性の魔法だ。彼らは神聖な光属性に特化し、回復魔法と補助・支援魔法を得意としてた。攻撃系の魔法はほんのわずかな種類だが、どれもこれもが幽霊族や悪魔族、そして闇属性の魔物には効果絶大な威力を誇っていた。

 ミカが構える錫杖を中心に白くまばゆい光が集中する。ぬくもりさえ感じられるその奇跡の輝きはまさしく神聖な光属性そのものだ。


「す、すごいやっ」

「ふぅん。なかなかの光魔法のようですね」

「ぐわっ! 目がっ、目がぁぁああああああっ!」


 三者三様の反応を見せる勇者たち。しかしどれもがミカの光魔法を褒め称えているものだ。

 特に魔法に明るいセラや経験豊富なソルには、あれがどれほど強力なものかがわかった。あの魔法が撃ち出されれば辺りを包むほど巨大な光の柱が立ち昇り、ガイストどもを一網打尽にするだろう。



「【光あれ】!!」



 ミカが魔法を発動させる。

 錫杖に集中した光球が真っ直ぐガイストどもの方へ――――――――――――向かうことなく、そのまま錫杖に宿っていた。

 予想外のことに三人は驚きを隠せない。


「えっ?」

「あら?」

「むむ、やっと目が治って……」


 凝縮された光は、錫杖の尖端で大きく形を変えた。握っている錫杖の部分は『柄』となり、胴体より大きく膨れ上がった光の塊が『頭部』になる。

 それは、光り輝く『鉄槌(てっつい)』だった。


「あれはもしや――――【付与魔法(エンチャント)】っ?」


 セラの呟きに答えることなく、さらにミカは魔法を唱える。光の鉄槌を小脇に抱え、両手を組み合わせて祈るように膝を折る。



「【我が身に光の加護を】!!」



 ミカの全身も光に包まれる。武器だけでなく、己の肉体までも強化したのだ。

 光魔法の加護は、その部位に掛けて特化させるものではなく全身強化だ。どのくらい強化するかはその魔法を使った者の能力次第だが、ミカの強化魔法はかなりのものだ。

 強化魔法をかけ終えたミカは即座に立ち上がって戦闘態勢に入った。一時的な加護が無くなってしまう前にガイストを駆逐してしまう気だ。



「いくぞおおぉぉぉぉぉおおおおおぅぅぅぅるるるぁぁぁあああああああっっっ!!」



 叫び声とともに駆け出す。

 理性をかなぐり捨てたような声だ。

 野太く雄々しい。

 今まで見せていた聖職者の顔がウソのようだ。


 力任せのナナメに振りかぶった薙ぎ払いの一撃がガイストを粉砕する。

 勢い余って地面ごと砕くが、ミカはお構いなしだ。



「ふんっっっっっっぬぁぁぁぁぁぁああああああああっっっ!!」



 強引に地面から鉄槌を引き抜く。

 そのままの勢いで大回転すると、近くにいたガイストが二体同時に消滅した。

 勢いを殺すために投げ出すように、再び地面に墜落させる。

 ドスンと重い音とともに地面が震えた。


 ミカがすばやく位置を変えた。

 目の前には恐慌状態で動けなくなった最後のガイストがいた。

 錫杖部分を肩に担ぐ。

 てこの原理と全身の筋肉を使う。思いきり歯を食い縛った。



「――――どっっっっせいっっっっっっ!!」



 鉄槌の縦振り。

 全力の叩き付け。

 洞窟内に爆発に似た音が響き渡る。固い地面が陥没していた。


「…………外しましたか」


 地面にめり込んでいる鉄槌のすぐ傍で、ガイストが泡を吹きながら消滅していった。直撃こそしなかったが、その風圧だけで吹き飛ばされたのだ。

 戦闘が終了して、洞窟内に静けさが戻った。



「……なに、あれ?」

「……なんなのでしょうか。いや、何者なのでしょうか?」

「フハハハハ、なんかすごかったのである! この我好みの戦いであった!」


 勇者たち三人の意見は一致している。


 ――――あれは【聖職者】の戦い方じゃない。ぜったいに。




 それは俗にいう「殴りアコ」「殴りプリ」と呼ばれる肉弾戦闘型の超聖職者。そのほかにも肉体のみで戦う「モンク」「モンク僧」と呼ばれる僧侶がいるそうです。

 すごいですね、聖職者って。

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