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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
勇者の仲間たち編 (長編)
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聖職者と勇者たちと修験者の洞窟

「改めまして……短い間ですがよろしくお願いします、勇者どの」


 そう丁寧に頭を下げる姿は真摯そのものだ。

 曇りなき清らかな心がそうさせるのだろう、真っ直ぐで力強い琥珀色の眼差しは透き通るように美しい。

 見惚れていた勇者エレンは慌てて返事をする。


「は、はいっ。こちらこそよろしくお願いします、ミカさん!」


 今回の旅で勇者一行に加わったのは、ファルケン神父の侍者である【聖職者 ミカ】だ。

『修験者の洞窟』への道案内として神父が直々に指名した人物で、位階は従者である「アコライト」だが、神父が十分な信頼を置く人物の一人であった。


 その容姿は一言で言い表せば「天使」である。さすがに翼はないが。

 短く切り揃えられた波打つ銀髪は陽光をきらきらと乱反射させてやわらかく輝いていた。

 荒野に住む民の血の影響か、顔の作りが丁寧ではっきりとしていて、小麦色に染まった肌からは健康的な印象を強く感じさせた。

 一方で顔立ちそのものはやわらかい印象が残っていた。背丈がエレンと同じくらいなので、おそらく年齢も同じくらいなのだろう、ミカの容姿からは「まだ発展途上」ということがわかる。

 服装・装備は聖職者としては一般的なものだ。白と灰色を基調とした法衣を改造した外套を羽織り、御守りや腕輪などで身の守りを高めている。手に持つのは鋼の錫杖、これはいざという時にメイスのように振り回して戦うことができる立派な武器だ。


「魔術師どのも……それとそちらの方も……よろしくお願いします」


 エレンの後ろに控えるセラとソルにも挨拶をする。それは甲高い声を無理やりに押し殺しているような低い声音だ。

 ソルを見た時の目にわずかな敵意が込められていたが、二人はあえて気付かなかった振りをした。


「それではファルケン神父。行って参ります」


 最後にミカは神父や同僚、子供たちに別れの挨拶を告げた。

 同僚の激励の言葉や子供たちのお土産の催促に真面目な表情で答え、ファルケン神父には大仰なほど丁寧に頭を下げる。

 にこやかな表情のまま神父は話かけた。


「ケガの無いよう、しっかりと務めを果たしてください。それと……」

「……はい。お任せ下さい」


 ミカは使命感に燃えた顔でそう答えた。

 満足げに頷いた神父は、勇者一行へ向き直った。



「勇者エレンどの、魔術師セラどの、そして格闘家ソルどの……あなた方の旅の無事を祈ります」



 そうして勇者一行の旅は再開した。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 集落を出発してわずか半日足らず、道なき道の先には洞窟の入り口があった。

 ぐるぐると巡っていた森の中に突然出現したような錯覚を覚える。案内人がいなければそもそも入り口を見つけ出すことも困難だという。特別な順路があるのだ。


「ここからが本番です。洞窟の中は悪霊と魔獣の棲み処なので、気を付けて」


 そう注意を促して、最前列に立つのは聖職者のミカだった。


「あのぉ……ミカ、さん?」

「なんです? エレンどの」

「道中に聞いた話じゃあ、洞窟内は一本道で迷うことはないようだし……そろそろ配置換わろっか?」


 集落から洞窟入口までの道中はほぼ安全で、魔物魔獣とほとんど遭遇しなかった。さらに案内なしでは目的地に辿り着けないため、道案内のミカがずっと先陣を切って進んでいた。

 その配置は前からミカ(聖職者)、エレン(勇者)、セラ(魔術師)、ソル(荷物持ち兼格闘家)。

 敵と遭遇する可能性が低ければ特に問題がないのだが、ここから先は厳しい修行の場に使われている危険地帯だ。前衛職が盾になる配置が当然ともいえる。狭い一本道であればなおさらだ。

 しかし、


「いいえ。先頭は危険ですから、ここは自分に任せてください」

「いやいやいやいや、危険ならなおさらだよぉ! 換わっておこうよ!」

「いいえ。駄目です。エレンどのとセラどのは女性ですし、あまり危険なことはさせたくありません」

「ボクたちが『女』だからって……っ!? だったら、ミカさんだって……」

「いいえ。自分は関係ありません」


 ミカは頑として先頭を譲らない。

 その身を挺して他者を危険から守ろうとするその姿は聖職者の鑑だ。

 そう、ミカはあくまで後衛職の【聖職者】なのだ。


「……自分の強さが心配なのですね。

 前衛が務められるかどうか、そうですね?【聖職者】ごときが前衛をやり遂げることができるのか、そう思っているのですね?

 ならば、まずは自分の実力を見てもらうよりほかありません。ですので、やはり最初は自分が先頭に立ちます。いいですね?」


 ハスキーな良い声で言いくるめられる。

 エレンは困ったように後方の仲間二人に顔を向けるが、セラは無関心に微笑んでいるだけで、ソルにいたってはその案に賛成のようだ。


「別によいのではないか。我もそいつがどれほど戦えるのか気になっていたところである」


 けっきょくはミカが先頭ということに決定した。

 なにかあればすぐにスイッチして配置の入れ替えをすると念を押しておく。本来ならまだ呼吸をぴったり合わせることもままならないので、それでも不安は残るが。


 パーティーの配置は変更なし。ミカ、エレン、セラ、ソルの順番だ。


「滅多にありませんが、側道や後方からの奇襲に警戒してください」

「おっけぃ」

「かしこまりました」

「うむ」


 ミカがいちおう忠告する。

 ほとんどの敵は真正面から出現するそうだが、何事にも例外がある。洞窟内に入った人間の数が多ければ多いほどその例外は増えるそうだ。端的にいえば、人数が増えると「難易度が上がる」。

 松明の準備をして、ミカとセラが火を点ける。エレンは全周警戒のため、そしてソルは荷物に引火しないようにまだ点火しない。


「……それでは、行きましょうか」


 勇者一行は『修験者の洞窟』内部に足を踏み入れた。



 洞窟内部は暗く、重苦しい空気に満たされていた。

 しかし洞窟内は、意外に広くも感じる。横幅は四人が並んで歩けるほど余裕があり、縦幅は思いきり飛び跳ねてもぎりぎり手が届かないほど高い。

 このもっとも広い道が正規ルートだ。一番広い道を真っ直ぐ進むだけで出口に辿り着ける。


「この洞窟は、いにしえの王族が緊急用の抜け道として掘らせた隧道であったそうです。

 しかし多くの奴隷たちを酷使させた結果、その犠牲者の怨霊の棲み処となってしまったようです。実際に通り抜けようとして呪い殺された王族がいたという話もあります」


 その怪談話を裏付けるように、洞窟のあちこちから気配や視線を感じる。ほんのわずかな一瞬、ほんのわずかな気配だけであるが、『なにか』が確かにいる。


「その話を聞いた初代の管理者さまが鎮魂のため、ほかの聖職者の方々とともにこの地に立ち入ったことが『修験者の洞窟』と呼ばれる始まりです。

 それからというもの、この地に住まう我ら聖職者が怨霊の鎮魂のため、そして己を鍛えるために定期的に足を踏み入れることになったのです」


 周囲のごつごつとしたむき出しの岩肌には、ところどころ一人ずつしか通れそうもない細い側道がいくつも存在した。パッと見ただけでも十ヶ所は下らない。おそらくそこにも『なにか』が潜んでいるのだろう。


「側道はすべて行き止まりになっていると聞いています。

 そのほとんどに魔獣が棲みついていて、非常に危険です。しかし中には奥底に『宝箱』が眠っている側道があるそうです。ですが……おそらくはこれも罠でしょう。

 そういった誘惑を跳ね除けて物欲を制御するのも、自分は修行の一環だと考えています」



 ミカは真面目な表情で『洞窟』や『聖職者』の歴史を滔々と語っていた。

 エレンはこういう話が好きなので、積極的に聞いていた。

 一方で後ろの二人はというと、


「聞いたであるか、セラよ?『宝箱』があるそうだ。『お宝』があるそうだ。敵がまったく出てこないから退屈であるし、ちょっと行ってみてもよいのではないか?」

「ソルさま、なりません。それに『お宝がある』とか、そういう話ではございません」


 不真面目なソルと、彼をたしなめるセラ。緊張感はほぼない。

 その様子に少なからず憤りを感じるミカは、大きくため息を吐いた。多少強引にでもガス抜きをしないと怒りで爆発しそうだ。


「…………どうして、ファルケン神父はあんな奴のことを……」

「ミカさん、なにか言った?」

「いいえ。ただの独り言です」


「――――おい、エレン。なにか近付いてくるのである」


 真っ先に気付いたのは、一番後ろにいるはずのソルだ。

 自ら「実力を見せる」と言ったミカにはそのことも気に入らない。まるで自分の警戒の甘さを指摘されているようだ。


 勇者一行は各々に戦闘態勢を整える。

 ミカは一歩前に出て、神聖な錫杖を斜に構えた。


「――――来ます」


 そして魔物が現れた。




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