表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
勇者の仲間たち編 (長編)
35/72

勇者と仲間と別れと始まり

「ありがとう。お世話になりました」


 旅装に身を包んだ勇者エレンはぺこりと頭を下げた。


『短い間だったがこちらも楽しかった。またいつか会えることを願う』


 行儀よくお座りの姿勢でイヌガミが答える。その表情はあいかわらずわからないが、その目は少しだけさびしそうに見えた。

 世界樹の木の下で別れの挨拶をかわす。

 時間帯は早朝。夜が明ける直前の曙の時で、薄暗いだけでなく朝霧まで発生していた。


「みんなも、元気でねぇ」


 エレンがぐるりと見渡して、お礼を言う。

 いつかの食事会のように、周囲には多くの動物たちの姿があった。エレンたちに注がれる彼らの無言の視線はどこか名残惜しげなものがいくつも混じる。

 そして最後に、イヌガミの隣でふて腐れたようにそっぽを向いた魔獣王クアールに挨拶をする。


「クアールちゃんも、ありがとうございました」

『……ふん』

「クアールちゃんと仲良くなれて本当によかったよぉ。一緒に遺跡を探検したこともぜったいに忘れたりしない」

『…………』

「呪いの方もよくなってくれたみたいだし……あっ、でもこれって弱体化しちゃったってことのなのかなぁ? 素直によろこんでいいのかなぁ?」

『……呪いのことは、感謝してやるニャ』

「そっかぁ、ならよかったぁ」


 エレンが屈託のない笑顔を向けても、クアールはあさっての方を向いたままだ。


「クアールちゃん」

『……ニャんだ?』

「最後に、アタマ、撫でてもいいかなぁ……?」


 ずいぶんと大人しくしているクアールは、仕方ないとばかりに立ち上がってエレンに近付いた。首輪の聖鈴がちりちりと鳴る。


『ニャハハ。寛大な吾輩は、頭を撫でることを許してやるニャ』

「うん。ありがとぉ」


 エレンはしゃがみこむと、頭だけでなく全身をくまなく撫でる。黒い毛並の感触を存分に堪能して、クアールのその小さな顔を両手で包み込むようにした。


「あははっ、ヘンな顔ぉ」

『おい』


 今度はクアールの小さな体を抱き上げて、頬ずりまで始める。

 そこまでは許していないはずだが、クアールはなにも咎めなかった。


『……また、魔獣の森へは来るのかニャ?』

「……うん。いつか、きっと、必ず……また会いに来るよぉ」

『そうか。ニャらば、ここまでだニャあ』


 クアールはエレンの腕から抜け出すとひらりと身をひるがえした。

 そして定位置まで戻ると、【魔獣王】として彼女たちを見送る。



『さらばだニャ――――【勇者 エレン】。再び会いまみえるその日まで』



 配下の魔獣たちの遠吠えが、その別れの言葉に続いた。

 魔獣たちの合唱を背に受けながら、エレンは仲間たちのもとへ合流する。


 勇者エレンの旅は、まだ始まったばかりだ。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 魔獣の森の抜け道から『始まりの町』へ。



 勇者エレン一行は、次なる目的地へ向かうための準備として再びこの町へやってきた。

 城門はあいかわらず混雑しており、往来の人々の姿でにぎわっている。


「おい、ちょっと待て! キサマあやしいな。名を名乗れ!」

「ほう、この我に名を名乗れとな? フハハ、よかろう。

 我が名は闇と炎のまじ――――間違えた。ただの【ソル】であるっ!」


 入門の審査でまた引っかかったソル。だが今度は名乗りを間違えずに済んだ。


「なんだ。またアンタか……」


 軽甲冑を装備した門番は、ソルが最初に会ったあの壮年の門番だった。ちなみに魔獣の森へと出立した時も彼だったので、ソルと会ったのはこれで三回目だ。


「なんかちょっと前に会った時より、ひどい装備になってないかい?」

「む? そうであるか?」


 ソルは自分の身なりを確認する。

 最初に会ったときは「ぬののふく」、二回目は「まだ冒険者っぽい服装(素手)」、そして今回は「ボロの布きれ」だ。盗賊に身ぐるみを剥がされた状態よりもひどい格好だ。


「着ていた服や装備は先日、ぜーんぶふっ飛ばされてしまったのだ。というわけで、まともな服を買いたいからそこを通してもらえぬか?」

「……まあアンタなら大丈夫か。『ようこそ、始まりの町へ』」


 釈然としないながらも門番はソルを通した。長年の勘が違和感を訴えても、ソルの恰好や言動を見ていると『無害』としか思えない。


「次に城門をくぐる時は、まともな恰好してくるんだぞ。いちいち止めるのも手間かかるんだから……」

「うむ。ご苦労であった」



 ソルは先に町へ入っていた二人と合流する。

 見た目が『剣士』と『魔法使い』というまともな冒険者の恰好だった二人は、あっさりと城門を通してもらったのだ。


 すらりとした細身の剣士のような若い女性は【勇者エレン】。勇者たる風格はまだまだだが、軽やかな身のこなしと揺れない瞳の強さは以前と比べようもない。

 森での修行によりうす汚れているが、美しい金髪の尻尾と凛々しい美貌は人目を集める。皮甲の軽装と錆びた剣は、むしろその使い込まれた古さによって凄みを増していた。


 ゆったりとしたローブを纏った女性は【魔術師セラ】。彼女もまた百戦錬磨というには若すぎる魔法使いだが、その小柄な体からは大きな魔力の片鱗が感じられる。

 なんの変哲もない黒いローブとねじくれた杖はありふれていて、その姿は人の後ろに没してしまうくらい地味だが、フードの奥には眠り姫のようなかわいらしい顔が隠されていた。


 そしてそんな魅力的な女性二人の周囲には十数人の男たちがいた。

 ごつい戦士系の兄貴、縦に長細い痩身の剣士、横幅が上背よりある魔導師、二枚目を気取っている二枚目半の僧侶、いやらしい目付きのシーフ、ここらじゃ珍しいサムライ、どっからどうみても遊び人、などなど……、個性あふれる面々が人垣のようになって二人に話しかけていた。


「フハハ、これはすごいのだ。まさかこの男たち全員が新たな仲間であるか?」


 そこへ「ボロの布きれ」を身に着けただけの、筋肉モリモリマッチョマンの変態が参加した。


「あっ、ソルぅ……やっときたぁ。助けてよぉ……」


 困った様子のエレンが安堵の声を漏らした。

 その声に反応した男たちは、ぎろりと殺気を込めた視線を一斉に後ろに向けて、ぎょっとした。

 そこには自分たちよりも頭一個分はでかい、もの凄く強そうな赤毛の大男が立っていたからだ。

 しかも筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。

 普通の服を身に着けていればわからないかった重厚な筋肉が、ボロ布の隙間からチラチラと見え隠れしている。むしろ少し動いただけでボロ布がはじけ飛びそうだ。


「ソルさま、素敵です」


 セラにだけは『変態』に見えなかったようだ。

 というか、彼女はずっと目を閉じている。


「よーし、それでは貴様らが『勇者の仲間』にふさわしいか、この我が自ら力試しをしてやろうではないか! フハハハハ、ゆくぞっ!!」



 こうして十数人の男冒険者たちは、安全なはずの町中で全滅した。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 まともな服を買い、装備と旅装を調えてから三人は酒場へと立ち寄った。


 遺跡探索で手に入れた品々を換金していた間に、城門近くでの一件が町中に広がったためか、エレンたちに話しかけてくる猛者はいない。興味津々で遠巻きに見てくるが、ソルが怖くて近寄れないのだ。


「フハハハハッ! まさか全員パンチ一発ずつで沈むとは、思ってもみなかったのだ」


 顔を赤くしたソルが陽気に語る。

 大きなグラスに注がれた発泡麦酒を一気にあおって、ドンと勢いよく置く。もう中身がほとんど残っていなかった。


「うーん、でもあの人たちには悪いけど……ちょっとだけ、ほっとしたかも」


 ソルの対面に座るエレンが揚げた鶏肉をつまみながら正直に言った。

 以前『始まりの町』にいた時とは真逆の反応に戸惑ってしまい、むしろ異様なまでにチヤホヤされたことが怖かったのだ。


「そうであるか……ところでエレンよ、その肉うまそうだな」

「ちょっとソルぅ。もう、まったくしょうがないなぁ」


 エレンが唇を尖らせる。

 ちょっとだけ神妙な顔をして聞いているかと思えば、実はエレンが食べていた料理に興味が向いていただけらしい。

 ソルの前に鶏肉の皿を寄せると、バクバクと美味しそうに食べていく。


「うまいっ! カラアゲ?『カラアゲ』というのか、この料理は!?

 衣がサクッとしながらも、中の鶏肉はジューシーで美味である。これはっ、まさか『ニンニクショーユ』でしっかりと下味をつけて――――」


 突然、料理を語り出すソル。追加した麦酒が進んでいく。

 そんなマイペースなソルのおかげか、エレンの心は少しだけ軽くなった。



「……お二人はずいぶんと仲がよろしいのですね」


 ソルの隣で静かにコップを傾けていたセラが話しかけてきた。

 店内ではさすがにフードを外していて、はっきりと目を瞑ったままの顔が見えている。頬がほんのりと赤く染まっていた。彼女が飲んでいるのは冷水で薄めたぶどう酒だ。両手で包み込むようにコップを持ち、ちびちびと飲んでいる。

 酒精アルコールの強いぶどう酒は腐りにくく長持ちするため、保存食とともに重宝されている。セラのように水で薄めて飲むのが一般的だ。


 酔っているからか、セラの感情はよくわからない。楽しそうに飲むソルを幸せそうに眺めているかと思えば、今のように複雑な笑顔でエレンたちのやり取りを聞いている。


「わたしが今まで見たことのない、そんな御姿まで拝見いたしました。

 ほんのわずかな期間とはいえ、お二人はお互いを信頼し合えるほどの絆を得たのですね」


 微笑むセラの表情からは一抹の寂寥感が感じられた。


「……もうソルさまに、旅を辞めるようには申し上げられませんね」

「……わかってくれたか、セラよ」


 ソルは固く誓っていたのだ。

【勇者エレン】を強くし、そして頼もしい仲間を得るその日まで、彼女とともに旅を続けると。



「はい。ですので、わたしも一緒に行こうと思います」



「…………はっ?」

「…………えっ?」


「ソルさまと、エレンを、二人きりにさせられませんので、わたしも仲間になりますわ」



 勇者エレンのパーティーに【魔術師 セラ】が加わった。強制的に。




※ニッポン国では、ハタチ未満の飲酒は法律で禁じられています。

 飲む場合も、無茶はせずに楽しんで飲んでね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ